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37.壊滅
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「はあ? 何を言っているんだ、お前は? 騎士団は昨日出征したばかり
だろう? 縁起でもないこと言うなよ!」
ドルクは呆れているが、私は嫌な予感に足元が崩れていくような気分に
なった。
前の世界では、魔族との戦いが初戦で大惨敗に終わった。
今日の賊の侵入といい、前の世界とは違う出来事が重なり、なんとなく
その運命からは逃れられたと思っていたのだが……この騎士の様子に、
パメラという名前が登場したからには悪い予感しか想像できない。
「どうしてそう思うの? あなたは、何か知っているのかしら?」
私は努めて優しい口調で尋ねた。
「パメラという女性の名が出ましたが、彼女も何か関係があるんですか?」
ルキウスも気になるのか私に続いて早口で尋ねたが、途中で私の意図を
察したのか、穏やかな口調に変わった。やはり彼は察しが良い。
「それは……! ああ、説明している時間がもったいない! 今から手紙を
書きますから、どうかオルト様にお渡しください! 『黄金の君』と称えられた
あの方ならば、すぐにご理解いただけるはず!」
若い騎士はレミーからペンを借りると、すごい勢いで手紙を書きあげた。
その間にファストラル家専属の使者を呼んでもらい、大至急王宮に詰めている
オルトお兄様にその手紙を届けるよう頼んだ。
「王宮なら、俺が届けてやってもいいぜ。騎士団のなかでも、俺は随一の健脚
だからな! 王宮内で知り合いも多いぞ!」
「ドルク様は、王宮での評判が『アレ』なので、大丈夫です!」
せっかくのドルクの申し出をあっさりと却下すると、改めて騎士は使者に
言付ける。
どうやらドルクの性癖は、王宮内でも不評のようだ。
「朝早くからお呼び立てして申し訳ありませんが、どうか、どうか一刻も早く
オルト様の元へこの手紙をお届け下さい! これはこのロクティア王国の存亡
もかかっている重大事なのです!」
まだ年若い使者は、急な呼び出しに最初こそ少し不機嫌そうな顔をしていたが、
騎士の真剣な表情を見ると、引き締まった顔つきになり必ず役目を果たすと約束
をした。
約束どおり、使者はすぐに丁重に手紙を鞄の中に仕舞うと、一目散
に屋敷のエントランスに向かって走り出した。
***
結論から言うと、 騎士団は壊滅した。
若い騎士の書いた手紙は、使者によって無事オルトお兄様に届けられ、手紙を
読んだお兄様は、すぐにしかるべき措置を講じた援軍を騎士団に差し向けたの
だが……援軍が戦地に着いたころには、ほとんどの騎士が死傷して戦闘不能に
陥っており、動ける者は既に戦線を離脱していた。
それどころか援軍にも新たな魔族の攻撃が雨のように降り注ぎ、騎士団を
救援するどころか、その足でロクティア王国へと逃げ帰るしかなかった。
もはや敗戦は確定していた。
騎士団長のアリウスと参謀のパメラも撤退を余儀なくされ、戦地から離脱。
その行方は現在のところ不明だという。
***
「自分のせいです! パメラ殿に納得のいく説明をしてもらえるまで粘るべき
だったのに!」
使者から戦地の惨状を聞いた若い護衛騎士は、その場で泣き崩れた。
さすがのドルクも沈痛な面持ちで、無言のまま騎士の背中を摩っている。
使者を王宮へと派遣した後、事情を聞かせてもらったので、彼の気持ちは私にも
痛いほど分かった。
ルキウスもレミーも言葉もなく、ただその場に立ち尽くしており、その場は
悲しみが支配していた。
だが私は悲しみと同時に、これまでに無い程の怒りを感じていた。
パメラは私とアリウスだけでなく、騎士団員たちの命までも奪おうとしていた
のだ。
――嘘の黒魔術を教えることによって。
だろう? 縁起でもないこと言うなよ!」
ドルクは呆れているが、私は嫌な予感に足元が崩れていくような気分に
なった。
前の世界では、魔族との戦いが初戦で大惨敗に終わった。
今日の賊の侵入といい、前の世界とは違う出来事が重なり、なんとなく
その運命からは逃れられたと思っていたのだが……この騎士の様子に、
パメラという名前が登場したからには悪い予感しか想像できない。
「どうしてそう思うの? あなたは、何か知っているのかしら?」
私は努めて優しい口調で尋ねた。
「パメラという女性の名が出ましたが、彼女も何か関係があるんですか?」
ルキウスも気になるのか私に続いて早口で尋ねたが、途中で私の意図を
察したのか、穏やかな口調に変わった。やはり彼は察しが良い。
「それは……! ああ、説明している時間がもったいない! 今から手紙を
書きますから、どうかオルト様にお渡しください! 『黄金の君』と称えられた
あの方ならば、すぐにご理解いただけるはず!」
若い騎士はレミーからペンを借りると、すごい勢いで手紙を書きあげた。
その間にファストラル家専属の使者を呼んでもらい、大至急王宮に詰めている
オルトお兄様にその手紙を届けるよう頼んだ。
「王宮なら、俺が届けてやってもいいぜ。騎士団のなかでも、俺は随一の健脚
だからな! 王宮内で知り合いも多いぞ!」
「ドルク様は、王宮での評判が『アレ』なので、大丈夫です!」
せっかくのドルクの申し出をあっさりと却下すると、改めて騎士は使者に
言付ける。
どうやらドルクの性癖は、王宮内でも不評のようだ。
「朝早くからお呼び立てして申し訳ありませんが、どうか、どうか一刻も早く
オルト様の元へこの手紙をお届け下さい! これはこのロクティア王国の存亡
もかかっている重大事なのです!」
まだ年若い使者は、急な呼び出しに最初こそ少し不機嫌そうな顔をしていたが、
騎士の真剣な表情を見ると、引き締まった顔つきになり必ず役目を果たすと約束
をした。
約束どおり、使者はすぐに丁重に手紙を鞄の中に仕舞うと、一目散
に屋敷のエントランスに向かって走り出した。
***
結論から言うと、 騎士団は壊滅した。
若い騎士の書いた手紙は、使者によって無事オルトお兄様に届けられ、手紙を
読んだお兄様は、すぐにしかるべき措置を講じた援軍を騎士団に差し向けたの
だが……援軍が戦地に着いたころには、ほとんどの騎士が死傷して戦闘不能に
陥っており、動ける者は既に戦線を離脱していた。
それどころか援軍にも新たな魔族の攻撃が雨のように降り注ぎ、騎士団を
救援するどころか、その足でロクティア王国へと逃げ帰るしかなかった。
もはや敗戦は確定していた。
騎士団長のアリウスと参謀のパメラも撤退を余儀なくされ、戦地から離脱。
その行方は現在のところ不明だという。
***
「自分のせいです! パメラ殿に納得のいく説明をしてもらえるまで粘るべき
だったのに!」
使者から戦地の惨状を聞いた若い護衛騎士は、その場で泣き崩れた。
さすがのドルクも沈痛な面持ちで、無言のまま騎士の背中を摩っている。
使者を王宮へと派遣した後、事情を聞かせてもらったので、彼の気持ちは私にも
痛いほど分かった。
ルキウスもレミーも言葉もなく、ただその場に立ち尽くしており、その場は
悲しみが支配していた。
だが私は悲しみと同時に、これまでに無い程の怒りを感じていた。
パメラは私とアリウスだけでなく、騎士団員たちの命までも奪おうとしていた
のだ。
――嘘の黒魔術を教えることによって。
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