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28.譲れないもの

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「しかし騎士団はあれで戦争なんかして、大丈夫かね。団長、相変わらず
パメラ殿の言いなりだ! おっと、これは元奥様の前で言うべきことでは、
ありませんでしたな」

 アリウスとパメラが出ていき、緩んだ空気の中でドルクが軽口を叩く。

 先ほどのやり取りといい、ドルクは重騎兵隊長という要職に就いていた
だけあって、二人のことはよく知っているようだ。

「私のことなら、元夫に未練も愛情も全くなくなったから遠慮は無用よ。
むしろ二人のことをもっと教えて欲しいわ!」

 今回の件でパメラが諦めたとは思えない。

 前世でも結局なぜパメラがアリウス、そして私を殺すことになったのか、
その理由はわからないままだったけれど、簡単に諦められる たぐいのことでは
ないはず。

 計画の一端を私に知られているかもしれないと疑っているのなら、手段は
選ばないだろう。
  
 だったらこちらは情報を集めて、対抗するしかない。

 そう思って早速私はドルクに尋ねてみたわけだが、問われたドルクは一瞬
きょとんとした顔をした後、豪快に笑った。
  
「はっはっはっ。先ほどの団長とのやり取りといい、これは 剛毅ごうきなお嬢さんだ! 
てっきり深層のご令嬢という感じの大人しい方だと思っておりました! 
良いでしょう。俺が知っていることなら、何でも答えましょう! なんと言っても、
あの『黄金の君』の妹君なのですからな!」

「ありがとう。まずはパメラのことだけど――」」

 私が早速切り出したとき、ルキウスが口を挟んだ。

 先ほどまで構えていた剣も さやに収まってはいるものの、いつでも
取り出せるよう右手で束を握っている。
 
「ちょっと待ってください。オルト様に雇われたとはいえ、ドルク殿は元々
騎士団に属していた身。率直に申し上げれば、オルト様たち王宮の文官と
対立する立場だったはず。簡単に宗旨替えなんて出来るものなのでしょうか?」

「ルキウス殿、俺が騎士団のスパイだと疑っているのか?」

「……失礼ながら、はい」

「ならば大丈夫だ。俺はオルト様に雇われたから騎士団を辞めたわけじゃない。
オルト様に仕える前に、騎士団を自ら辞めた身の上だからな!」

 ドルクは屈託もなくそう言うと、豪快に笑った。  

「ちなみにこいつも騎士団で俺の部下だった奴だ!」

 そして一緒に私の後ろに控えていたもう一人の護衛騎士の肩を組む。

 そんなドルクに、その若い騎士は「はいっ。自分はドルク様とこうしてまた
共に働けるなんて、光栄の至りであります!」と目をキラキラさせて喜ぶ。
  
 そんな二人にレミーが眉を ひそめる。

「……まさかとは思いますが、先ほどの女性に悪さをして懲戒解雇された
訳ではないですよね?」

「違う、違う! 俺の方から辞めたんだよ! 役職なんて要らないと常々
言っていたのに重騎兵隊長にさせられるし、パメラ殿は俺のアドバイスを
全然聞き入れてくれないし、もうウンザリしてな」

「後者の理由の方が大きそうですね……」

 レミーも暗器を手にしたまま、ドルクに疑いの目を向けている。
 そんな中、ただ一人若い騎士だけが尊敬の眼差しを向けた。

「 地位に固執しないドレク様は、自分の憧れであります!」

「……それでは、ドルク殿が役職に就きたくない理由とは?」

 ルキウスも警戒を解かないまま、ドルクと私の間に立ちふさがって
尋ねる。

「そんなの王国美髪リストの作成のために決まっている!偉くなって
王宮で会議ばかりで忙しくなってしまうと貴重な美髪と出会うチャンス
を逃してしまうからな!」
 
「常に こころざしを忘れないドルク様、さすがです!」

「……あなた、何か魔法にでもかかっているの?」 
 
 やたらドルクを賛美する若い騎士にレミーが呆れていると、ドルクの
気配が一瞬消えた。

「……?」

 不思議に思っていると、私の至近距離からドルクの声がした。

「……やはり思った通り 極上ごくじょうの香りと 手触てざわり! 仕官した甲斐がありました!」

 気づくと、ドルクが私の髪を触りながら、匂いを いでいる。 
 私は思わず「ひっ」と悲鳴を上げて、身体を 強張こわばらせた。

「タリア様に何を!」

 ルキウスが慌ててドルクを私から引き剥がす。
 私は、少しだけ先ほどのパメラの気持ちが分かった。
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