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24. 頼もしい味方
しおりを挟む翌朝レミーが部屋に運んでくれた朝食を食べると、ルキウスと
今までの経緯と今後の生活について自室で話すことになった。
目下魔族との戦争準備で多忙なオルトお兄様は、今日も早朝から
王宮で仕事があるため、 断腸の思いでルキウスに私のことを託して
いったのだという。
その証拠だとルキウスがお兄様からの手紙を渡してくれたが、
最初の一文を読んだ時点で色々重かったので、読むのは後にして
早速本題に入ることにする。
嫁ぐ前に愛用していた丸テーブルを挟んで、ルキウスと差し向かい
に座る。
テーブルには、これまた私の好物の焼き菓子と紅茶が用意されており、
皆の心遣いに胸が温かくなった。
そんな私の表情をルキアスは一つひとつ観察しながら紅茶に口に
運んでいたが、おもむろに切り出した。
「タリア様がご結婚なさってから、まるで便りがないので、オルト様も
私も大変心配しておりました」
「え? 私は何度もお手紙を差し上げたわよ? でも出しても返事が
来ないから、オルトお兄様もルキウスも新婚だからと遠慮しているの
だとばかり思っていたわ」
結婚翌日から針の 筵だったから、一生懸命「幸せな結婚生活」を
捏造して書き連ねた手紙を書いては送っていた。嘘でも家の者を
安心させたかったのだ。
しかしそれが届いていなかったということは――。
「グレーデン家の者たちの仕業……ですか」
ルキウスは溜息をつく。
「エミーリア殿から色々伺ってはおりましたが、こんなことまで……
何が目的なのか、さっぱり分からない」
「手紙のやり取りですら、このような調子ではお尋ねするのが怖い
のですが……念のため結婚生活がどんなものだったのかを、
タリア様ご自身の口からお話していただけますか?」
ルキウスがそう言うので正直にすべてを話すと、ルキウスの表情が
だんだん険しくなっていき、最後には「昨晩オルト様を止めるべきでは
なかった……」と呟くと両手の 拳を握りしめた。
屋敷の者たちもエミーリアの前では従順だったし、グレーデン家の
名誉を守るため使用人として言えない部分もあったのだろう。
昨晩「経緯を知っている」と言ってくれたルキウスだが、すべてを
把握している訳ではなかったようだ。
「も、もう終わったことだし、お兄様には上手に伝えてもらえる
かしら……?」
アリウスやお義母さま、グレーデンの屋敷の者たちには同情も未練も
何もないが、若手文官筆頭の兄が本気で騎士団長のアリウスと対立すれば
内戦になりかねない。
「それはもちろん心得ております。全部率直にご報告したら、オルト様
は憤死してしまわれますから」
それなら良かった……のかな?
ルキウスの鬼気迫る表情を見ていると、簡単にはそう思えない。
私自身はグレーデン家とパメラと縁が切れて、この先殺される運命を
回避できれば、それで良いのだけれど。
「ああ、それにしてもエミーリア殿の提案が成功していれば! いや、
タリア様が誘拐された後でも、私がグレーデンの屋敷から強引にでも
タリア様を連れ帰っていれば良かった……! 本当に申し訳ありません!」
ルキウスは思考の流れをそのまま口にしながら、拳で頭をガシガシと擦る。
嫁ぐ前には、見たことのない彼の姿に私は動揺を隠せない。
いつも冷静沈着で大人びた所作で、私たち兄妹を支えてくれる頼りになる騎士。
屋敷の外では「 黒薔薇の騎士」と呼ぶ女性ファンもいる気品ある容姿。
――そのイメージが急速に崩壊していく。
「え……ちょっと、ルキウス? そんなキャラだったかしら?」
「グレーデン家の屋敷を追い出されてからは、もっと酷かったのですよ」
ルキウスの前にお代わりの紅茶を置くと、レミーがさらっと教えてくれた。
「侍女に変装してグレーデンの屋敷に入り込んでタリア様を奪還すると息まいて
いたんですから」
「女装して?」
「旦那様も対抗して『それなら自分も侍女になる!』と言い出す始末で」
「お兄様まで――」
……なぜ二人とも、あえて侍女に限定するのか。
「埒が明かないので、私が侍女に立候補したのです」
「そういう経緯だったのね……。ありがとう、レミー。あなたの決意に
心から感謝するわ」
ちょっと方向性が暴走しているけれど、二人とも私を想っての行動なのは
分かる。
それは素直に嬉しい。
レミーに暴露されて顔を赤らめ、より強い力で頭を拳で擦っていたルキウスに、
少し照れくさいけれど正直に気持ちを伝える。
するとルキウスは更に顔が赤くなったと思ったら、レミーが淹れてくれた
紅茶を一気に飲み干した。
「だ……大丈夫?」
「……失礼しました。ですがもうご心配なく。これからは、この屋敷の者たち
はもちろん、オルト様が新しく雇われた護衛騎士たちも全力でタリア様を
お守りいたします!」
ルキウスはその場で 跪くと、胸に手を置き、まるで騎士の叙任式
のような格式ばった 佇まいで約束してくれた。
ルキウスが整った風貌なだけに、この場面だけ切り取ると、まるで絵画の
ように美しい。
今までは近すぎてピンと来なかったけれど、 黒薔薇の騎士と呼ばれるだけ
はある。
「ありがとう」
感謝の気持ちを込めて礼を言いつつ、実感する。
私には、こうして大切に思ってくれる味方がいる。
まだ先のことは何も決まってはいないけれど、きっとなんとかなる。
自然とそう思えた。
暖かく穏やかな空気が部屋に満ちる。
――しかしそんな雰囲気は5分ともたなかった。
部屋の外から慌ただしくドアをノックする音が響いたかと思うと、
困惑した表情の侍女が部屋に飛び込んできた。
「た、大変です、タリア様! アリウス・グレーデン騎士団長が
いらっしゃいました!」
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