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13.囚われの身

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「そ、そんな、困ります! 私は今から――」

 窓の景色が恐ろしいスピードで飛び去っていくのを見て、私は叫びながら
隣の男に抗議の意思を込めて振り向こうとした――その瞬間、全身がビリリ
と痺れ、目の前が真っ暗になった。

 
 そこから先は記憶がない。
 
 気が付くと、私は固い板の間で寝かされていた。
 ご丁寧にも身体の上には、薄い毛布がかけられている。

 ぼんやりとした目に映るのは、ゴツゴツとした岩石。
 そしてそんな光景の前には無骨な黒い金属の格子がある。  


 ――ここは?

 身を起こして状況を把握しようとして思い出した。

 ――そうだ。私は覆面の男たちに馬車ごと誘拐されたんだった。

 慌てて寝たふりに戻ろうとする前に、覆面の一人に見つけられてしまった。
 彼らは用心深く、アジトのようなこの場所でも覆面を付けたままだ。

「……女が目覚めました!」

 その言葉に、焚火に薪をくべていた男がこちらを向く。
 馬車で私の隣にいた男だ。

「――食事が終わったら手足を縛り、目隠しをしろ」
「牢に収監しているのです。そこまでする必要が……?」
「念には念をだ」
「はっ」

 あの男は命令すると、他の人たちにも何事か指示をしているのが見えた。
 やはり賊のリーダー格のようだ。

 男の指示を実行しようと、覆面の一人がこちらに近づいてくる。

 ――目隠しされる前に、少しでも状況を把握しておかないと。
 
 これから先どのような状態に置かれてしまうのか分からないが、どんな
展開になったとしても、常に状況を把握しておくに越したことはない。

 
 まず私は牢に囚われているのは確かのようだ。
 そして目覚めてからそこはかともなく漂う生命の存在。

 目立つ動きにならぬよう、そっと視点を移動させる。
 すると少し離れた場所に、馬の頭が見えた。

 
 ――牢馬車か。

 私が囚われているのは、馬が簡易的な牢屋を引く牢馬車だった。
 追っ手が来たときに、すぐに人質である私ごと逃げるためなのだろう。

 大きな洞窟らしき場所に、焚火を囲むように覆面の人たちがそれぞれの
作業をしていて、その一番奥まったところに私を乗せた牢馬車を含めた馬
や馬車が置かれている。
 その中の1つには私がグレーデンの家から乗ってきた馬車もあった。

 ――他には? 何か彼らの素性が分かるようなものは?
  
 懸命に視線を彷徨わせていると、至近距離から「悪く思うなよ」と声が
して強引に目隠しをされた。

 タイムアウトだ。

 もとより私に抵抗しようという意思はない。
 そのまま大人しく手と足を縛られる。

 ここまで手慣れた様子で命令を遂行した覆面の男は、用事が済むとすぐに
牢から出ていった。
 そして施錠をするガチャガチャという大きな音がしたかと思うと、私は
そのまま放置された。

 それ以降、危害を加えようとする者はおろか、話しかけてくる者すらいない。
   この牢の中にさえいれば、私に用はないらしい。

 殺されたり、拷問されたりすることは今のところなさそうなので、とりあえず
一安心する。


 となると次に気になるのは、彼らの目的だ。

 彼らは私が誰なのか知っていた。
 それなら騎士団長の妻であり、王宮の文官筆頭のトリス・ファストラルの妹だ
ということも当然承知しているはず。
 それもロクティア王国を筆頭に人間と魔族の戦いが目前のこのタイミングで。

 状況的に、私を人質にすることで、魔族に有利な条件を引き出そうとしている
――と考えるのが妥当だ。

 今は王宮からの返事を待っている――そんなところか。
  
 実際彼らはいつでも動ける準備を整えており、牢の中の私を縛り上げるほどに
用意周到だし、今現在も無駄口は一切聞こえてこない。

 ――私、もしかして歴史を変えてしまうの?

 グレーデン家での一連の出来事だけでも十分すぎるほど疲弊していたのに、歴史
のターニングポイントの一つになってしまうなんて荷が重すぎる……!


 いや、待って。
 それほど重大な局面なら、あえて「見捨てられる」可能性もあるのでは?

 アリウスと兄は当然私の命を救おうと動くだろうが、国、そして人間の命運が
かかっているのだ。
 王宮内で「私の誘拐事件は無かったこととして隠蔽し、戦争に突き進む」ことに
決まってしまったら私は――。

 恐ろしい可能性に気づいてしまった。
 嫌な汗が背中を伝う。
 それでも目隠しされたうえ手足を縛られた状態で、自力救済など到底不可能。

 今の私には、祈ることしか出来なかった。
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