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第126話
しおりを挟む茂木さんの隣に立ち、バス停まで歩いていく。
もうすぐ着いてしまうというのに、いまだに渡せず終いだった。
手に持ったのはいいものの、どのタイミングで渡せばいいのか分からない。
タイミングを計っていたら、ついにバス停についてしまった。
「・・・そういえば、今日バレンタインだったね」
「えっ!?・・・えぇ、そうですね。クラスの男子が浮かれてましたよ」
その話題が出されるとは思わなくて、思わず声を上げてしまう。
茂木さん、どんな気持ちでこの話題出したんだろう。
「・・・俺、今年は0個なんだよね」
「・・・・・・え?」
茂木さんが、0個?
だって茂木さん、去年は紙袋2つぐらい抱えて持って帰ってたじゃん。
なんで・・・。
「もらえるかな~って思ってた子からもらえなくてね。今年は諦めるしかないかな」
「・・・へぇ、そうなんですか。可哀想だこと」
フイッと視線を逸らしながら、持っていた包みをキュッと握りしめる。
そして、勢いよく茂木さんの前に突き出した。
「由紀ちゃん、コレ・・・」
「も、茂木さんが可哀想なので、余ったチョコ分けてあげます」
嘘だ。
本当は、茂木さんにしか用意してない。
だけど、素直に言うことが出来ずに思わず口に出してしまう。
「ふふっ、ありがとう。これで0個は免れたよ」
差し出されたチョコを受け取って、嬉しそうに微笑む茂木さん。
そんな姿にキュンッと胸が締め付けられた。
「これ、手作り?すごいね」
「べ、別に!こんなのテキトーにやればできます」
本当は、これも嘘。
何日も前から練習して、上手くできたものを詰めた。
「本当に、俺がもらっちゃっていいの?」
「はい、どうせ持ってても食べきれないので」
違う、そうじゃない。
茂木さんに食べて欲しくて持ってきたんだって、なんで言えないのかな。
「ありがとう、今食べてもいい?」
「・・・どうぞ」
嬉しそうに包みを見つめる茂木さんは、ウキウキとしながら中身を取り出して1口食べる。
そして、すごく美味しそうな表情をして2つ目を食べ始めた。
良かった、美味しそうに食べてる・・・渡せて良かった。
・・・まぁ、渡せたのは良かったけど・・・渡し方がアレってどうかと思うけど。
「ねぇ、聞いていい?」
「なんですか?」
パクパクと食べながら私の方を見つめる茂木さん。
その姿が可愛くてしかたがない。
「・・・これって・・・どっち?」
「どっちって・・・なにがですか?」
茂木さんの言葉の意味がわからず、頭にハテナが浮かぶ。
すると、茂木さんは少し照れくさそうにしながら頬をかいた。
「・・・本命か、義理か。・・・どっち?」
「っ・・・!?えっと・・・」
答えるのを迷っていると、バスが来て目の前に止まる。
早く乗らないと・・・。
「・・・なんてね。別に答えなくて──」
「茂木さんがこうだといいなって考えた方です!!」
「──え?あ、ちょっと、由紀ちゃん!?」
そう言い残して、バタバタと急いでバスに乗った。
やばい・・・顔が熱い。
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