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第125話
しおりを挟む茂木さんにチョコを渡せないまま、部活が終了してしまった。
「・・・どうしよう・・・コレ・・・」
部室で帰る準備をしながらバッグに入れていた茂木さん宛のチョコレートを見つめる。
茂木さん、部活に顔出してなかったし・・・もう帰っちゃったもんね。
「・・・結局渡せなかったの?それ」
「だって!!直接会って渡す機会なかったんだもん!!」
茉弘が帰り支度をしながら私の方を向いて声をかけてくる。
私だって、茂木さんの教室に行って私に行こうとしたよ!
だけど茂木さんはいないし、周りには変な目で見られるしで、会えないまますぐ退散してきちゃったんだもん。
「・・・はぁ・・・今年は諦めるしかないかなぁ・・・」
「えぇ・・・だって、せっかく作ったんでしょ?もったいないって」
「・・・そうは言っても、渡そうにも茂木さんはもういないし・・・しかたないでしょ?」
ため息をつきながらバッグのジッパーを閉める。
あぁ・・・やっぱりあの時、退散せずに茂木さん探せばよかった。
「そうは言っても──」
「あ、良かった。まだいた。2人共、部活おつかれ様。差し入れ持ってきたよ」
茉弘が何か言いかけた時、開いていた部室の扉からヒョコっと茂木さんが袋を持ちながら顔を出した。
う、嘘・・・茂木さん!?
いるはずがないと思っていた人物の登場に、思わず息を飲んだ。
「やったー!!差し入れ!!茂木先輩、ありがとうございます!」
嬉しそうに茂木さんに駆け寄る茉弘。
私は、バッグの中からチョコの入った包みを手に取った。
渡すなら、今しかない。
「ほら、由紀ちゃんも良かったら──」
「あの!茂木さん!!」
茂木さんの言葉を遮りながら声をかける。
茉弘もいるけど・・・今は、そんなこと考えてられない。
「ん?どうしたの?」
「えっと・・・あの・・・さ、差し入れって、なんですか・・・?」
後ろに隠したチョコを差し出せず、差し入れのことを聞いてしまう。
あーんもう!!こんなこと言いたいんじゃないのに!!
「あぁ、ピザまんだよ。2人共ピザまん派だったよね?」
「・・・はい、そうです。ありがとうございます」
茂木さんからピザまんを受け取る。
うぅ・・・渡したいのに・・・今すぐにでも渡したいのに・・・!
「・・・・・・そうだ、由紀ちゃんって今日バスで帰る?」
少し間を開けてから問いかけてくる茂木さん。
「あ、はい。バスです」
「じゃあ、バス停まで送ってくよ」
「え、・・・ありがとうございます、お願いします」
まさか送ってくれるとは思わなくて、反応が遅れる。
よし・・・これで渡すまでの猶予ができた。
その事に喜んでいると、茉弘が耳元に顔を寄せてくる。
「良かったね、渡せるチャンスだよ。・・・ちゃんと渡してきなよ?」
「・・・うるさいわね、わかってるわよ・・・。茂木さん、帰りましょう」
茉弘の内緒話に、悪態をつきながら荷物を持って茂木さんに声をかける。
「うん、行こ。・・・茉弘ちゃん、またね」
「はい!また!」
茉弘に手を振って部室を後にする。
猶予は、バス停に着くまで。
それまでに、渡すぞ・・・!!
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