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第102話
しおりを挟むモヤモヤ気分が晴れないまま、劇が始まった。
序盤、中盤と問題なく進んでいく。
だけど、演技をしている最中、さっき二海に告白した女の子が客席にいるのがわかった。
その事で、さっきの告白シーンを思い出してしまい、さらにモヤモヤしてしまう。
グルグルとさっきの言葉がうずまき、私を支配する。
私が早く答えを出してれば、こんな想いをしなくて済んだのかな。
「“なんだよ、言いたいことがあるなら早く言えっての”」
「!」
二海のセリフで我に返る。
今は劇の最中なのに、私、すごい考え事してた・・・!!
しかも、告白シーンなのに告白のセリフがとんでしまう。
・・・仕方ない、か。
「・・・私、ずっと思ってた」
「!?」
台本と違うセリフを言い出したせいで、二海は困惑している。
だけど、セリフを思い出せないから、このまま続けさせてもらう。
「アンタはすぐ腹立つこと言うし、暴言ばっかだし、性格だって最悪よ。本当に大っ嫌いだった」
ほぼ初対面だってのに、人のことをゾウだのイノシシだのって罵るし。
口を開けば罵詈雑言、言い合いをしてばっかだった。
「でも、アンタの優しさに触れてちょっとずつ認識が変わってきた」
なんだかんだで助けてくれたことを思い出しながら言葉を紡ぐ。
客席から見れば役を演じているように見えるし、二海にもアドリブだけど役になりきってるように見えるだろう。
その状況が、私を少し素直にさせてくれている。
「あの時のこと、なかったことにしないで。私は──二海のことが好きなの。私の事、選んでくれる?」
「っ──・・・!?」
思わず二海の名前を出してしまうけど、そんなこと気にする余裕は私にはなかった。
目の前にいる二海の答えが、気になってしまって仕方ない。
二海を見つめながら、二海の言葉を待った。
「・・・・・・俺だって好きだっつーの。・・・俺のそばにいるのはお前がいい。辻本。お前の人生を、俺にくれないか?」
二海は、ヒスイではなく私の名前を呼んで答えを出してくれた。
たとえ、役になりきった答えだとしても嬉しい。
そのまま二海が近付いていき、幕が下がり始める。
キスする素振りだけでいいんだよね、そう思っていた時──
チュッというリップ音と共に、唇に柔らかい感触が触れた。
思わず目を開けると、二海が目を閉じて私にキスをしてきていた。
火が出そうなほど頬が熱くなり、ドキドキと胸が高鳴ってくる。
観客がキャーッという歓声に包まれる。
「公開告白するとか、大胆すぎ」
「っ・・・!?」
ゆっくりと離れる二海・・・そして、愛おしそうに笑いながら、一言こう呟く。
その表情に、キューッと胸が締め付けられた。
「・・・なんで、キスしたの・・・?」
「あんな可愛い顔しながら告白してくるお前が悪い」
その言葉と共に幕が下がりきった。
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