上 下
97 / 170

第97話

しおりを挟む

読み合わせを始めてしばらくだった頃、ようやく台本無しでセリフを言えるようになった。



だけど、二海はまだ台本をチラ見しながらじゃないとセリフが飛んじゃうみたい。 


 
“・・・俺だって大っ嫌いだっつーの。でも・・・俺のそばにいるのはお前がいい。ヒスイ。お前の人生を、俺にくれないか?”



毎回このセリフの時だけ台本を見つめるのだ。



「なぁ、二海。お前、さっきっから同じところ突っかかってんじゃねぇか」



「う、うるせぇよ」



同じく演劇に出るクラスメイトから指摘を受ける。



二海も自覚があるのか強くは言い返さない。



「そんなに難しいセリフじゃねぇだろ?ほら、台本没収!ちゃんと言えるようになるまで家に返さねぇぞ!」



「わ、わかってるっーの」



「はい、じゃあヒスイの告白シーンから!」



そう言ってスタートをかけるクラスメイト。



私も告白シーンばっかり繰り返されるとさすがに恥ずかしくなるんだけど。



「“本当のことを言うわ、アレックス。私はあなたが嫌い。大っ嫌いよ。なのに、あなたのことを忘れることなんて出来ないの。・・・私を、選んでくれる?”」



二海のことをみつめながら、台本通りのセリフをいう。



二海はいつもここで台本を見るけど・・・今回は没収されてるから見ることは出来ない。



「“俺だって大っ嫌いだっつーの。でも・・・俺のそばにいるのは・・・お前がいい。ヒスイ。お前の人生を、俺にくれないか・・・?”」



少し照れているような仕草を見せながら言い切った二海。



だけど、私とは視線は合わなかった。



「・・・で、この後にキスする素振りして終わり・・・なんだけど──」



「だーかーらー!!二海!!辻本の目を見て言えっての!!」



練習を見ていたクラスメイトが二海に対して文句を言う。



確かに、いつも練習してる時も目は合わないけど・・・。



「本格的な練習じゃねぇだろ!?セリフさえあってりゃあいいじゃねぇか!!」



「本格的な練習じゃなくても今のうちからやっとかねぇとあとでできなくなんだろ!?」



「っ・・・」



不服そうな顔をしつつも、押し黙る二海。



二海がそんなふうになるの珍しいかも。



「ほら!もう1回──」



キーンコーンカーンコーン



もう1回と言いかけたその時、チャイムが鳴り響く。



「チッ・・・終わりかよ・・・。二海、次の練習までに辻本の顔見て言えるようになっとけよ」



「・・・無茶言うなよ・・・」



解放されたからか、クラスメイトからの圧からなのかため息をついた二海。



そんな彼が可愛くて仕方なかった。



しおりを挟む

処理中です...