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第85話

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私、修学旅行は沖縄だったはずなんだけど・・・。



「ごめん、私、覚えてない」



「辻本さんは優しいから、誰を助けても覚えてないのかもしれないけど・・・俺、あの時からずっと君のことが好きなんだ」



「え・・・?」



突然の告白に私は目が点になる。



山崎くんを見ると、私のことを真っ直ぐ見つめている。



その目は、とても優しいものだった。



「ねぇ、辻本さん。俺と付き合って」



徐々に近付いてくる山崎くん。



そんな彼から距離を取りたくて、後ろに後ずさった。



こんなにストレートに気持ちを伝えられたことがないから戸惑ってしまう。



「ちょ・・・ちょっと待って!!私、本当に覚えてなくて・・・!!修学旅行だって、奈良じゃなくて沖縄だったし・・・!!」



後ろにさがりながら言葉を口にしていたけど、後ろが壁だったようでこれ以上後ろに下がれなくなった。



それでも山崎くんは私との距離を詰めていき、壁側に追いやった。



「覚えてなくてもいいよ。俺がちゃんと覚えてるから。ね?俺のこと好きになって?」



山崎くんは壁に手を付きながら甘くささやいてくる。



いわゆる、壁ドンというやつだ。



世の中の女の子は、これが好きらしいけど、私は苦手みたいだ。



距離も近いし、逃げ場がない感じがして少し怖さを感じてしま。



「そ、そんなこと言われても・・・!!」



急に好きになってと言われても、自分の感情はコントロール出来るものじゃない。



無理難題を課せられてるようなものだ。



「そっか・・・。どうしたら、好きになってもらえるかな?」



そう言って、顔を近付けてくる山崎くん。



あまりの距離の近さに、私は息を飲んだ。



しかもこの強引さを見て、連れ去られそうになった時のことを思い出してしまう。



それもあいまって、目の前にいる山崎くんの事が怖くなってきた。



「・・・ここでキスしたら・・・少しは意識してくれるかな?」



するりと私の頬に手を添える山崎くん。



「や、やめて・・・」



山崎くんの胸元を強めに押し返す。



これ以上は、さすがにヤバい。 



そう思ったけど、山崎くんはビクともしない。



それどころか、さらに距離を詰めようと私の方へ近付こうとさえしている。



「照れてるの?そんな姿も可愛いね」



「て、照れてないから!お願い、やめて・・・!!」



私の必死の抵抗も、照れてると勘違いされているみたい。



私にはこの人を止められない。



もう、ダメかもしれない・・・そう思った時、二海の顔が浮かんだ。



なんだかんだ言いつつ、二海は私のことを助けてくれていた。



「・・・二海っ・・・」



そんな彼の名前を呼び、助けを求める。



でも、そんなこと言っても、二海が来るわけじゃない。



わかってる、けど・・・呼びたくなった。



「辻本!!」



その声とともに、私の頬に触れていたはずの手が離れていった。



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