上 下
62 / 170

第62話

しおりを挟む

渡り廊下を渡っている途中、ビブスを手にした由紀と相手チームの男子2人が立ち話をしていた。



「ねぇ、連絡先だけでも教えてくんない?」



「私急いでるので・・・」



「いいじゃんいいじゃん、ほら、スマホ出してよ」



いや、立ち話じゃない、どう見てもナンパだ。



由紀、すごく困ってるし・・・見過ごせない。



「ちょっと!何してんのさ!」



由紀を2人から引き離し、由紀の前に立つ。



ナンパの退治は何度かしたことあるし、その時と同じような感じでやればいいはず!



「え、なに?オレこの子に用があんだけど」



「こっちは用ないので。失礼します。・・・行こ、由紀」



冷たくあしらい、由紀の手を引いて体育館に戻ろうとする。



だけど、由紀を引っ張る腕が掴まれた。



後ろを振り向くと、由紀も同じようにもう1人の男に腕を掴まれて動けなくなっているようだ。



「君、気が強いね。君でもいいよ。連絡先交換しよう」



「離してください、これから試合の準備があるんです」



「試合なんてどうでもいいじゃん?オレ、別に勝敗に興味無いし」



腕を振り払うけど、すぐに掴まれてしまって意味が無い。



いい加減にして欲しい、そう思った時私の腕を掴んでいた男が引き離され、肩に腕が回され後ろに引っ張られる。



「すんません、うちの大事なマネージャーなんで手ぇ出さないで貰えます?」



耳の近くから聞こえたのは二海の声。



顔を上げるとそこに居たのはやっぱり二海で、私は二海の腕の中にいる。



それを脳で理解した時、なぜかはわからないけどドキドキと心臓が高鳴り始めた。



「は、はぁ?オレは──」



「聞こえなかった?うちのマネージャーに手ぇ出すなっつってんの」



凄みのある声を出す二海に、男達は舌打ちをして退散していく。



退散していった男達の背中を見つめていると、ふぅ、とため息が聞こえてくる。



 その息でさえ、ドキリと心臓が跳ねた。



「今回の相手は手が早ぇって茂木さんが言ってたけど・・・ホントに油断も隙もねぇな」



私の肩から手を離しながら、退散して行った男たちを睨みつける二海。



二海は離れたはずなのに、私の心臓はバクバクと高鳴り続けていた。



「・・・ありがとう、二海くん。助かったよ」



「あぁ、気にすんな」



由紀の言葉に短く返す二海。



私もなにか言うべきなんだけど、なぜか言葉が出てこない。



「早く戻るぞ、茂木さんスゲー心配してたから」



「そうだね、試合の準備も出来てないし」



由紀は特に動揺することなく、体育館の中へと戻っていく。



だけど、私はその場から動けそうになかった。



慣れないナンパをされたせいなのか、二海に抱き締められたせいなのか・・・。



理由は分からない、けど、動ける気がしなかった。



「・・・辻本、大丈夫か?」



大丈夫かって・・・別に大丈夫だけど・・・。



でも、なんか・・・今は二海の顔を見ると落ち着かない。



でも・・・なんで?



「いや・・・相手しつこかったな~って、思って・・・」



ふいっと二海から顔を逸らしながら答える。



おかしいな・・・二海の顔が見れない。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美少女にフラれたらなぜかダウジング伊達メガネ女子が彼女になりました!?〜冴えない俺と彼女と俺をフった美少女の謎の三角な関係〜

かねさわ巧
青春
まてまてまて! 身体が入れ替わっているってどういうことだよ!? 告白した美少女は俺の好きになった子じゃなかったってこと? それじゃあ俺の好きになった子ってどっち?? 謎のダウジングから始まった恋愛コメディ。

あの空の向こう

麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が 引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。 蒼…日本と外国のハーフ。   髪は艶のある黒髪。目は緑色。   喘息持ち。   病院嫌い。 爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)    職業は呼吸器科の医者。    誰にでも優しい。 健介…蒼の主治医。    職業は小児科の医者。    蒼が泣いても治療は必ずする。 陸斗…小児科の看護師。    とっても優しい。 ※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。  

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

俺のバッドエンドが彼女のハッピーエンドなんてあってたまるか!

めいゆー
青春
主人公・藤原湊は、ある出来事がきっかけで国が管理する学園都市にある、光明学園高等学校に入学することになったのだが、そこは、少し不思議な力を持った者(能力者)や普通の社会での生活が困難になった者達(異端者)の為の学校だった。 そんな学園での生活はいったいどんなものになるのやら・・・ ※初めての投稿なので好き勝手書いてみたいと思います。お目汚しごめんなさい|д゚)

深い青を愛してる

あおなゆみ
青春
僕らはお互いの深い青の夜に存在していた。 二人は前を向くために出会う運命だったんだと思うーー 引退した歌手とそんな彼の曲に救われた女子高生。 図書館で出会った二人が過ごした短い時間と再会。 出会うべき人にはきっと出会える。 エブリスタにも掲載中です

【ショートショート】冬・雪のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても楽しめる作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

色づく世界の端っこで

星夜るな
青春
両親に捨てられた過去を持つ少年が、高校生になったときある部活に引き込まれる。そこから少年の世界は色づく。ことを描いた作品です。(制作の過程で内容が変わる場合があります。) また、話のタイトルの番号がありますが、書いた順番です。

推しの恋路応援前線!

赤いシャチホコ
青春
これは普通の男子高校生、与田佑が『推し』の恋路を応援しつつ、自身の恋路も頑張っていく青春群像劇! 中々進展しない恋の様子を是非とも見守ってください!

処理中です...