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現界ノ章:SECTION2『ルメリア襲来編』
EP:SWORD 038 大剣霊VS大剣霊
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ターチス・ザミの降臨。それも、昨夜の学校での攻防の時のような『不完全』さは無く、万全を期しての再臨。
そして、この時既に、互いに『霊術項』という縛りは消えている状態でもある。
全開のルメリアに勝てる唯一の対抗馬を、永絆は用意してくれた。そのぼろぼろになった彼女を抱きかかえている蓮花は、熱や『剣霊の刻印』、剣能を駆使した反動で高熱を帯びている頬にそっとキスをして、今一度囁く。
「ありがとう、ナズ姉。……よく、頑張ったね」
乱れた藍髪を、服を、いたわるように、愛おし気に撫でる蓮花。その傍らで、愛火もまた永絆に労いと感謝の念がこもった視線を送りつつ、ある種の予感を抱いていた。
ターチスとルメリア。
二人の戦いは、何かが起こると。そして、想定を超えたものになると。異世界という死線を潜り抜けてきた愛火の研ぎ澄まされた直感が、そう言っていた。
そして、その直感が見事に当たる。
「ターチスお姉様がここに居るということは……ああ、そこの女狐があなたを連れてきたということで……まあ、どうでもいいか」
漆黒の氷で彩られたドレスを翻したルメリアは、右手に黒々とした氷剣を出現させて切っ先を桃髪の姫君に向ける。
「約束は、守って頂きますよ。お姉様」
虚無にも似た闇が宿る夕焼け色の瞳に射抜かれ、しかしターチスは整った鼻梁で笑い飛ばし、
「あの一方的に強いた選択を約束と言うのなら……いよいよお前の思考は破滅を迎えているわね、ルメリア。その証拠に、貴女の狂愛者としての仮面が剥がれているわよ」
そう言って、ターチスもまた、煌々と照り輝く白焔の剣の切っ先を、白髪の少女へ向ける。
纏う衣は、さながらウエディングドレスのように白亜に彩られ、淡い熱の炎を灯している。背中には天使のような一対の翼が猛々しくはためいている。
『節制』の大剣霊と『純潔』の大剣霊。
万物を壊死させる黒き氷と、悪を滅ぼし善を癒す白き炎。
相対的な二つの超常が、今。
「いい加減、ルメのモノになって下さい。お姉様——ッ!」
ルメリアの吶喊をもって、開幕した。
エントランスの床の上でそれを認識していた愛火と蓮花は、そのあまりに強い光と波動の炸裂に、無意識の内に瞬きをした。
故に、二、三秒の間目をつぶったのち、これまた自然に目を開ける。
——既に、エントランスホールが存在しなかった。
「二人は、ど、こ……?」
愛火が掠れた声でそう漏らした刹那、二色の光が視界一面を支配した。
「なななななななにこれぇっ!?」
蓮花が困惑のあまり叫ぶ。それがすぐに掻き消される程、二色の波動も強烈な威力を発していた。
そしてすぐに、蓮花と愛火はその二色が白と黒のみで構成されていることに気付く。
『二色』という概念は分かっていても、それがただのモノクロで、実際には色が灯っているのではないか——そんなことを、二人は反射的に思っていたのだ。
続けて、体温を始めとした温度に微かな変化を覚える。
右半身が冷たく、左半身が暖かい。しかし、その差は微々たるもので、浴場で半身をサウナに、もう一方の半身は外に晒したままでいるような温度差でしかない。
では、辺り一面を支配しているコントラストと温度差は、一体どこから来ているのか。
答えは、直後に判明する。
「あんなに、遠く……」
呆然と呟いた愛火の目の先には、肉眼でぎりぎり把握できる距離に、豆粒程度の二人の影があった。
その二つの影が凄まじい速度でぶつかり合う度に、一拍、二拍ほど遅れて色と衝撃がこちらに訪れるのだ。
まるでカメラのフラッシュが立て続けに起こるが如く、災厄が撒き散らされる。
これが、大剣霊同士の戦い。しかし、同じく超常的な衝突を見据えていた蓮花は、違和感を覚えていた。
「昨日は、こんなに激しくなかった気が……」
勿論、それはあの二人の戦闘という枠組の中でという話。学校での激戦がまるで前座だったと言わんばかりの規模の違い。
それは、今この瞬間もひしひしと感じていて、
「——『霊術項』で段階的に縛る段階は、もう過ぎたようね」
不意に背後より聞こえたターチスの声に蓮花が飛び退けば、
「それは全快で愛し合えることへの喜びと受け取ってよろしいですかぁ? お姉様ッ!」
上空からルメリアの声が降り注ぎ、
「蓮花ちゃんっ!!」
愛火の焦燥し切った叫びでようやく我に返ると同時、蓮花の頭上を漆黒が支配した。
黒い氷、ルメリアの剣霊術。
それに気付いた時にはもう遅く。
それ以上に、白き炎のカーテンが揺らめくのが早かった。
「あら、あらあらあら。見物人を舞踊に巻き込むなんて野蛮な真似、教えたつもりは無いのだけれど」
間髪入れずに、ターチスは炎剣の切っ先でルメリアを穿たんと迫り、黒衣を纏う少女は、その鎧を形作る氷より何倍もの大きさを誇る盾を顕現させて拮抗させる。
轟音が散り、一拍遅れて衝撃波が波紋する。
瞬きすら許さず、生半可な力しか持たない者にれっきとした実力差を見せる戦い。
そこにもはや、呼吸一つの介入すら許さず、指先少しでも間合いに入ってしまえば最後、気付かぬうちに塵と成り果てている未来しか見えない。
次元も世界も異なる二つの超常同士の衝突。蓮花はもはや、引き攣った笑みを零すほかなかった。
「ところで」
ふと、何か思い出したように、ターチスが白焔で屋敷の半分を崩壊させながら言う。
「狂人の演技はどうしたのかしら。あの拙い演目を、わたくしは非常に楽しみにしていたのだけれど」
氷作りの天井や壁がみるみるうちに溶けてゆき、方々で幾つもの爆発が起こっている。見渡せば、所々に青いものが見える。
『剣ノ刻限』のような結界で押しとどめられている海水だろう。
そんな壊滅的な風景を他所に、ルメリアは小さな唇を三日月の形に歪ませ、爆発が背後で起こると同時に答える。
「ルメはルメですよ? ターチスお姉様」
直後、煙のようなものが辺りに蔓延していることに蓮花は気付く。だがその正体を、愛火はすぐに察知した。
——灰が、黒くなっていく。
それが何を意味するか。黒く変色していく噴煙。それが冷気を帯びており、既に色濃く辺り一面を支配しているという状況。
それが一体、何を意味するか。
異世界を知り、魔剣の本場たる『オーディア魔剣響国』の地を踏み、生還してきた愛火にとって、その先の結末を創造することは容易かった。
「蓮花ちゃんっ! 急いで『霧纏衣』を——」
彼女が愛火に何かを言われていると認知した時には既に、それは起こっていた。
屋敷全体が、炭のように消え始めていた。
『壊死』を孕んだ黒氷、それが冷気として蔓延するということは、つまりどんな毒ガスよりも恐ろしい破壊を撒き散らすことを意味している。
愛火はアイスピックを手の内で顕現させ、
「『レイ・レイジング』……!」
繰り出す閃光をその身に纏い、蓮花と彼女が抱える永絆を抱えて跳躍し、その場からの脱出を試みる。
「でも、一体どこへ……」
安全地帯など、どこにあるのだろうか。今この瞬間も、漆黒の冷気は景色を黒く染めていき、壊死の限りを尽くしている。
ルメリアは低く冷たい笑いを零し、ターチスはそんな彼女を真っ向から射抜いている。
瞬間、床が爆ぜ上がった。
真っ白な炎が燃える巨大な柱が冷気に風穴を空け、愛火は直感でそれを理解する。
ターチスが垂らした救いの糸。やはり、彼女はルメリアだけでなく永絆や蓮花、愛火といったここに居る全員を救うつもりなのだ。
「有難いわぁ! 『純潔』の大剣霊!」
愛火はすぐさま白焔の柱の中へと身を投じ、燃え盛っているのに全く熱を感じさせないおかしな感覚に微かな戸惑いを感じつつ、ひとまず安全圏に身を置けたことに安堵する。
「ぐへぇ」
と、気の抜けるような呻き声を自身の腕のあたりから聞き、ようやく愛火は自分が蓮花の首根っ子を掴んでいたことを思い出した。
「あら、ごめんなさい。これが一番手っ取り早かったから」
そう言ってパッと離すと、元気が売りの女子高生はアラサー女子を抱きかかえたまま前に勢いよく転がり、
「ごほっ! ごへっ! おえぇ……っ! お、ぼえてろ……あとで、ごろす」
「あらあらぁ、怖い顔しちゃって」
咳き込んで涙目になりながら、乙女が出してはいけないような低く乱暴な声と口調でそう言った蓮花を、愛火は「そそるわぁ」と淫靡に目を細めて見下ろしていた。
と、そこへ。
『大丈夫かしら? 貴女達』
魔気、もしくは永絆とのパストを利用したのだろう。白炎の柱の外に居るターチスの声が響き渡った。
そして、愛火が改めてお礼を言いつつ色々と聞き出そうと口を開いた矢先、
『突然だけど、わたくしとルメリアは今、この世界で言うところの「大気圏」に居るの。霊力で形成した映像をそちらに送っておくから、それでそちらも戦況を把握して動いて頂戴』
と、さも事もなげに言われて。
愛火は未だに前転後の態勢のままでいる蓮花と顔を見合わせ、
「つまり、どういうこと?」
「……あたしに聞かれても」
そうして蓮花は再び永絆を膝の上で寝かせ、愛火はちょうど自分の目線と同じくらいの高さに浮遊していた白い球に触れ、四角い炎の壁を展開させた。
A4サイズで厚さは二、三センチほどの白い炎で縁どられた画面。そこに、有り得ない光景が広がっていた。
「うそぉん」
思わずそう呟いた愛火と、「わぁお……」と静かに驚きの声を上げた蓮花の目線の先に。
——手のひらで黒氷の隕石を生み出しているルメリアと、同じく手のひらで巨大な白い太陽を生み出しているターチスの姿があった。
そして、この時既に、互いに『霊術項』という縛りは消えている状態でもある。
全開のルメリアに勝てる唯一の対抗馬を、永絆は用意してくれた。そのぼろぼろになった彼女を抱きかかえている蓮花は、熱や『剣霊の刻印』、剣能を駆使した反動で高熱を帯びている頬にそっとキスをして、今一度囁く。
「ありがとう、ナズ姉。……よく、頑張ったね」
乱れた藍髪を、服を、いたわるように、愛おし気に撫でる蓮花。その傍らで、愛火もまた永絆に労いと感謝の念がこもった視線を送りつつ、ある種の予感を抱いていた。
ターチスとルメリア。
二人の戦いは、何かが起こると。そして、想定を超えたものになると。異世界という死線を潜り抜けてきた愛火の研ぎ澄まされた直感が、そう言っていた。
そして、その直感が見事に当たる。
「ターチスお姉様がここに居るということは……ああ、そこの女狐があなたを連れてきたということで……まあ、どうでもいいか」
漆黒の氷で彩られたドレスを翻したルメリアは、右手に黒々とした氷剣を出現させて切っ先を桃髪の姫君に向ける。
「約束は、守って頂きますよ。お姉様」
虚無にも似た闇が宿る夕焼け色の瞳に射抜かれ、しかしターチスは整った鼻梁で笑い飛ばし、
「あの一方的に強いた選択を約束と言うのなら……いよいよお前の思考は破滅を迎えているわね、ルメリア。その証拠に、貴女の狂愛者としての仮面が剥がれているわよ」
そう言って、ターチスもまた、煌々と照り輝く白焔の剣の切っ先を、白髪の少女へ向ける。
纏う衣は、さながらウエディングドレスのように白亜に彩られ、淡い熱の炎を灯している。背中には天使のような一対の翼が猛々しくはためいている。
『節制』の大剣霊と『純潔』の大剣霊。
万物を壊死させる黒き氷と、悪を滅ぼし善を癒す白き炎。
相対的な二つの超常が、今。
「いい加減、ルメのモノになって下さい。お姉様——ッ!」
ルメリアの吶喊をもって、開幕した。
エントランスの床の上でそれを認識していた愛火と蓮花は、そのあまりに強い光と波動の炸裂に、無意識の内に瞬きをした。
故に、二、三秒の間目をつぶったのち、これまた自然に目を開ける。
——既に、エントランスホールが存在しなかった。
「二人は、ど、こ……?」
愛火が掠れた声でそう漏らした刹那、二色の光が視界一面を支配した。
「なななななななにこれぇっ!?」
蓮花が困惑のあまり叫ぶ。それがすぐに掻き消される程、二色の波動も強烈な威力を発していた。
そしてすぐに、蓮花と愛火はその二色が白と黒のみで構成されていることに気付く。
『二色』という概念は分かっていても、それがただのモノクロで、実際には色が灯っているのではないか——そんなことを、二人は反射的に思っていたのだ。
続けて、体温を始めとした温度に微かな変化を覚える。
右半身が冷たく、左半身が暖かい。しかし、その差は微々たるもので、浴場で半身をサウナに、もう一方の半身は外に晒したままでいるような温度差でしかない。
では、辺り一面を支配しているコントラストと温度差は、一体どこから来ているのか。
答えは、直後に判明する。
「あんなに、遠く……」
呆然と呟いた愛火の目の先には、肉眼でぎりぎり把握できる距離に、豆粒程度の二人の影があった。
その二つの影が凄まじい速度でぶつかり合う度に、一拍、二拍ほど遅れて色と衝撃がこちらに訪れるのだ。
まるでカメラのフラッシュが立て続けに起こるが如く、災厄が撒き散らされる。
これが、大剣霊同士の戦い。しかし、同じく超常的な衝突を見据えていた蓮花は、違和感を覚えていた。
「昨日は、こんなに激しくなかった気が……」
勿論、それはあの二人の戦闘という枠組の中でという話。学校での激戦がまるで前座だったと言わんばかりの規模の違い。
それは、今この瞬間もひしひしと感じていて、
「——『霊術項』で段階的に縛る段階は、もう過ぎたようね」
不意に背後より聞こえたターチスの声に蓮花が飛び退けば、
「それは全快で愛し合えることへの喜びと受け取ってよろしいですかぁ? お姉様ッ!」
上空からルメリアの声が降り注ぎ、
「蓮花ちゃんっ!!」
愛火の焦燥し切った叫びでようやく我に返ると同時、蓮花の頭上を漆黒が支配した。
黒い氷、ルメリアの剣霊術。
それに気付いた時にはもう遅く。
それ以上に、白き炎のカーテンが揺らめくのが早かった。
「あら、あらあらあら。見物人を舞踊に巻き込むなんて野蛮な真似、教えたつもりは無いのだけれど」
間髪入れずに、ターチスは炎剣の切っ先でルメリアを穿たんと迫り、黒衣を纏う少女は、その鎧を形作る氷より何倍もの大きさを誇る盾を顕現させて拮抗させる。
轟音が散り、一拍遅れて衝撃波が波紋する。
瞬きすら許さず、生半可な力しか持たない者にれっきとした実力差を見せる戦い。
そこにもはや、呼吸一つの介入すら許さず、指先少しでも間合いに入ってしまえば最後、気付かぬうちに塵と成り果てている未来しか見えない。
次元も世界も異なる二つの超常同士の衝突。蓮花はもはや、引き攣った笑みを零すほかなかった。
「ところで」
ふと、何か思い出したように、ターチスが白焔で屋敷の半分を崩壊させながら言う。
「狂人の演技はどうしたのかしら。あの拙い演目を、わたくしは非常に楽しみにしていたのだけれど」
氷作りの天井や壁がみるみるうちに溶けてゆき、方々で幾つもの爆発が起こっている。見渡せば、所々に青いものが見える。
『剣ノ刻限』のような結界で押しとどめられている海水だろう。
そんな壊滅的な風景を他所に、ルメリアは小さな唇を三日月の形に歪ませ、爆発が背後で起こると同時に答える。
「ルメはルメですよ? ターチスお姉様」
直後、煙のようなものが辺りに蔓延していることに蓮花は気付く。だがその正体を、愛火はすぐに察知した。
——灰が、黒くなっていく。
それが何を意味するか。黒く変色していく噴煙。それが冷気を帯びており、既に色濃く辺り一面を支配しているという状況。
それが一体、何を意味するか。
異世界を知り、魔剣の本場たる『オーディア魔剣響国』の地を踏み、生還してきた愛火にとって、その先の結末を創造することは容易かった。
「蓮花ちゃんっ! 急いで『霧纏衣』を——」
彼女が愛火に何かを言われていると認知した時には既に、それは起こっていた。
屋敷全体が、炭のように消え始めていた。
『壊死』を孕んだ黒氷、それが冷気として蔓延するということは、つまりどんな毒ガスよりも恐ろしい破壊を撒き散らすことを意味している。
愛火はアイスピックを手の内で顕現させ、
「『レイ・レイジング』……!」
繰り出す閃光をその身に纏い、蓮花と彼女が抱える永絆を抱えて跳躍し、その場からの脱出を試みる。
「でも、一体どこへ……」
安全地帯など、どこにあるのだろうか。今この瞬間も、漆黒の冷気は景色を黒く染めていき、壊死の限りを尽くしている。
ルメリアは低く冷たい笑いを零し、ターチスはそんな彼女を真っ向から射抜いている。
瞬間、床が爆ぜ上がった。
真っ白な炎が燃える巨大な柱が冷気に風穴を空け、愛火は直感でそれを理解する。
ターチスが垂らした救いの糸。やはり、彼女はルメリアだけでなく永絆や蓮花、愛火といったここに居る全員を救うつもりなのだ。
「有難いわぁ! 『純潔』の大剣霊!」
愛火はすぐさま白焔の柱の中へと身を投じ、燃え盛っているのに全く熱を感じさせないおかしな感覚に微かな戸惑いを感じつつ、ひとまず安全圏に身を置けたことに安堵する。
「ぐへぇ」
と、気の抜けるような呻き声を自身の腕のあたりから聞き、ようやく愛火は自分が蓮花の首根っ子を掴んでいたことを思い出した。
「あら、ごめんなさい。これが一番手っ取り早かったから」
そう言ってパッと離すと、元気が売りの女子高生はアラサー女子を抱きかかえたまま前に勢いよく転がり、
「ごほっ! ごへっ! おえぇ……っ! お、ぼえてろ……あとで、ごろす」
「あらあらぁ、怖い顔しちゃって」
咳き込んで涙目になりながら、乙女が出してはいけないような低く乱暴な声と口調でそう言った蓮花を、愛火は「そそるわぁ」と淫靡に目を細めて見下ろしていた。
と、そこへ。
『大丈夫かしら? 貴女達』
魔気、もしくは永絆とのパストを利用したのだろう。白炎の柱の外に居るターチスの声が響き渡った。
そして、愛火が改めてお礼を言いつつ色々と聞き出そうと口を開いた矢先、
『突然だけど、わたくしとルメリアは今、この世界で言うところの「大気圏」に居るの。霊力で形成した映像をそちらに送っておくから、それでそちらも戦況を把握して動いて頂戴』
と、さも事もなげに言われて。
愛火は未だに前転後の態勢のままでいる蓮花と顔を見合わせ、
「つまり、どういうこと?」
「……あたしに聞かれても」
そうして蓮花は再び永絆を膝の上で寝かせ、愛火はちょうど自分の目線と同じくらいの高さに浮遊していた白い球に触れ、四角い炎の壁を展開させた。
A4サイズで厚さは二、三センチほどの白い炎で縁どられた画面。そこに、有り得ない光景が広がっていた。
「うそぉん」
思わずそう呟いた愛火と、「わぁお……」と静かに驚きの声を上げた蓮花の目線の先に。
——手のひらで黒氷の隕石を生み出しているルメリアと、同じく手のひらで巨大な白い太陽を生み出しているターチスの姿があった。
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