冥剣術士ナズナ

アオピーナ

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現界ノ章:SECTION2『ルメリア襲来編』

EP:SOWRD 029 奮い立つ女達

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 永絆の意図を把握している蓮花は、口元を緩めてアイリスを霧散させた。もう、問題無いと安心したのだろう。

 永絆は頭を下げたまま、嘆くような調子で続ける。

「私は……どこまでも曖昧で、そのクセ自分勝手なエゴをあなたや蓮花に押し付けてきた。自己犠牲とか承認欲求とか、そんな手前勝手な都合ばかりを野放しにして……私は私に幻想を見ていたんだ。さっきも、愛火さんなら大丈夫って勝手に決めつけて、ドラゴンが踏みつけたアパートに、一時的に置いていってしまって……」

 愛火は、真剣な面持ちで永絆の謝罪の言葉に耳を傾けている。

 永絆は顔を上げ、そして蓮花と繋いで手と反対の手で愛火の手を取り、彼女に真摯な眼差しを向けて続ける。

「でも、そんな自己中でみっともない真似は終わりにする。そのうえでこんな頼み事をするのは図々しいって分かってる……分かってるからこそ、包み隠さずに言います。……私に、力を貸して欲しい。ターチスを奪還するために、ルメリアと戦うために、あなたの力が欲しい」
 
 不意打ちのような形で手を握られた挙句、真面目な表情と声音でそう言われて、愛火は自分の頬に赤が差していることに気付かない。
 しかし、驚きと気恥ずかしさは態度に出ており、

「その……永絆ちゃん、あなたって本当に女たらしね」

「へ?」

 予期せぬ回答に、永絆は目を丸くする。そんな彼女の反応を見て、愛火はひとたびいつもの調子を取り戻し、クスクスと微笑んで永絆に握られた手にもう片方の手を重ねて言った。

「大丈夫よ。私は、どんなことがあってもあなたの味方ですもの。あなたを慈しみ、愛し、想いゆらめく炎に思いの薪をくべてゆく……それが、私の信条」

 長い睫毛に縁どられた瞳を伏せてやけに芝居がかった口調でそう言った愛火に対し、蓮花は、

「ちょっとちょっと~? 勝手に二人だけの空気を展開しようとしないで下さぁいっ。ナズ姉の隣とお口と腕の中と胸元はこの片喰蓮花が予約済みなんですが? もう既に伴侶も同然なんですが?」

「なんだ、そのマウントの張り方は」

 小さな口を尖らせてそう主張する蓮花に、苦笑で突っ込む永絆。

 とりあえず、言うこと言って愛火からも良い返事を貰ったので、改めて三人でターチス奪還作戦の概要でも話し合おうと、そう言おうとした矢先。

「……ふむぅ。蓮花ちゃんは、大事なところを見落としているわぁ」

「む? 大事なところってナズ姉の大事なところかな? 何を言っているんでしょうねぇ、この年増は。あたしがナズ姉の大事なところを見落とすなんてあり得ないんですけど? 昨晩だって、疲れて汗だくになっていたナズ姉のブラウスとスラックスを無理やり脱がして、湿ったパンティーも取り換えて、白くて綺麗なすべすべお肌に慎ましやかながらもそれなりに弾力があって形のいいおっぱい、意外と手入れがされていた秘部をまじまじと視姦して、嗅姦して、触姦して……じゅるり、ぐへへ。あの感触、感覚は最高に美味であった」

 聞き捨てならない蓮花の言葉に、永絆は耳を赤くして介入する。

「お、お前! そこまでしてたのか!? ひょっとして、他にももっとハードなことを私の身体に……!?」

 可愛い女の子大好き! そんな子とならエッチも大好き! という感じのキャラで通ってきた永絆だが、そしてガサツで捻くれているが、彼女も一応女子。
 花も恥じらうかは分からないが、乙女の部類には入る。

 よって、いくら心を赦した少女が相手であっても、夜這い紛いの行為——ましてや、数日単位で求愛行動がアクティブになっている蓮花のそれとなると、嫌でもそれなりの危険性は感じてしまうものだ。

 ガラにも無く己を抱き、身を震わせて蓮花を警戒するような目付きで見る永絆。

 蓮花は、ハッとしてトリップ状態から我に返り、両手をブンブンと振って、

「ち、違うよ!? そーゆう妄想……じゃなかった。漫画があってだね!? だから、昨日からの疲れもあって、現実と混同しちゃってさ、あははははは」
 
 下手くそな言い訳に、永絆の疑心は潰えない。というか、蓮花の発言は多分本当のことなのだろう。

 皮肉にも、永絆はたった今、今まで蔑ろにしていた自分の身体を大切に気遣っていこうと思ったのだった。

「まあ、それはともかくとして。私は、極力ヴァージを使わないようにする。そんでもって……」

 永絆は右腕に宿る刻印を掲げ、

「さっきも言ったように、こいつを使ってターチスを復活させることに専念しようと思う。けど、多分こいつの使い道はそれだけじゃない気がする」

「だけじゃない……っていうのは?」

 肩を組んで至近距離で見つめて問う蓮花に戸惑いを見せないよう、わざとらしく咳払いして別の方に目を移して答える。

「使い方によっちゃあ、この刻印はGPSみてぇな役割を発揮すると思うんだ」

「確かに、大剣霊との契約者は気力の度合いによっては、相手がどこに居るのかを把握できるようになっていると聞いたことはあるけれど……」

 頬に手を当てて思案に耽る愛火に、永絆は
「そう」と応じ、

「多分、それは相手も然りでしょう? だから、さっきルメリアは不完全ながらも術式を振りかざして襲撃して来れた。ターチスが私の位置情報が分かっていて、ルメリアは何らかの手段でそれを把握したから」

「じゃあ、その逆をナズ姉がやるっていうこと?」

「あ、ああ。そんな感じ……ってうか、近過ぎね?」

 蓮花が喋るたび、というか呼吸をするたびに、永絆の頬はこそばゆい感覚を覚えているのだ。
 それだけではなく、肩を貸してくれるという名目で抱きつかれた腕は、制服のブラウスから覗かせるパールピンクの下着――に包まれた双丘の狭間で、心地よい感覚を味わっている。

「えへへ……だってナズ姉はあたしのもので、あたしはナズ姉のものなんだからっ」

「可愛いけど、今はそれどころじゃないっていうか、まあ可愛いし可愛いから可愛いんだけど」

 語彙力の著しい欠陥と愛火の笑顔に暗雲が立ち込め始めていることに気付き、永絆は再度咳払いをして話を元に戻す。

「つまり、話は簡単だ。私はターチスのこれを使いこなす。そんで、蓮花と愛火さんは……」

「ルメリアをぶっ倒す」

「そのために、存分に力を振るうわぁ」

 自分が言うよりも早く蓮花と愛火がそう言ってくれて、永絆はこれ以上に無いくらいの心強さを感じる。

 改めて、永絆は短く息を吐き、

「そんじゃまあ、ちゃっちゃとお姫様を助けにいくとしますか。そんで、あのヤンヘラ大剣霊をぶった斬る……と言いたいところだが、ルメリアの対処法についても実は考えてある」

「対処法?」

 頬を擦り寄せて問う蓮花に、永絆は「ああ」と応え、

「そもそもの話、ルメリアは——」

 永絆が話した対処法。

 それは方法というにはあまりにみっともなく、永絆自身でなければ思いつかないようなもので。

 けれども、最も合理的でもあるその案に、愛火は不敵に笑んで言った。

「いいじゃなぁい。人間が強大な怪物に挑むというのがどういうことであるかを、永絆ちゃんはよく分かっているわぁ」

 異世界帰りの、それも魔剣のみならず大剣霊やそれ以外の、数多の底知れない力を幾度となく肌で感じてきただろう愛火のお墨付きも貰ったところで、永絆たちはとうとう動き出す。

 救出劇と呼ぶにはあまりにも惨めで情けない戦いに向けて。



 上機嫌で可愛らしい鼻歌が、薄暗い空間に響き渡っていた。

 薄闇に包まれた細長い廊下の奥に鎮座する、氷で作られた凍てつく牢獄。

 そこに、小柄な肢体をローブに纏う真っ白な少女の姿があった。

 一人の想い人への愛に狂い、愛を謳い、愛に歪む、『節制』の冠名からは程遠い思想を持つ大剣霊——ルメリア・ユーリップ。

 少女はローブのフードを脱いで短い白銀の髪を露わにし、斜めに切り揃えられた前髪の下から夕焼け色の瞳を覗かせて、三日月の形に白桃色の唇を歪めた。

「お目覚めですか? 愛しの愛しのターチスお姉様……」

 四方の壁に掛けられた松明の先で揺れる白い炎に照らされて、ベッドの上で目覚めた女の姿を朧に映す。

 ターチス・ザミ。『純潔』の大剣霊にして、この世界では魔剣使いとなったばかりの波月永絆と契約を交わしている。

 そんな彼女の姿を見て、ルメリアはより一層唇を裂けさせ、頬を赤く染めていく。

 普段ならば勝ち気に煌めいている黄色の双眸は、疲労と困惑が相まって微かに揺れている。

 背まで伸びた艶やかな桃髪は乱れており、黒いドレスに包んでいる筈の白磁の素肌は全て外界に晒され、豊満な胸まで露わになって髪と同色の乳房は髪の毛先に隠れていて、下半身を覆う毛布以外は一糸まとわずといった状態だ。

「ルメ、リア……?」

「はいっ。お姉様のお弟子で、伴侶で、始まりと終わりの地点であるルメですよぉっ」

 常の覇気を感じさせないか細い声で名前を呼ばれ、ルメリアは既に疼きが止まらない下腹部を抑えて太ももを擦り合わせながら、猫撫で声で応える。

 我慢はとっくに限界を迎えており、ターチスの目覚めを待ったのは、どうせなら彼女の表情や声、身体の脈動や温もりを感じながらそれを成したいと思ったからだ。

「ねえ、ルメリア……ここは一体……」

 そう問うてから程無くして、どうやらターチスは自分が置かれた現状を把握したみたいだ。

「ターチス姉様と初夜を成すために用意した、最高の舞台ですっ!」

 ルメリアが両手を広げてそう言うと同時、壁際で揺れる白焔がひときわ煌々と光り出し、ターチスの全体像を照らす。


 四肢が凍って氷漬けのベッドに拘束され、無数の噛み痕が肌に刻まれている様を――。
 
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