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現界ノ章:SECTION2『ルメリア襲来編』
EP:SOWRD 028 決意と決起のガールズトーク
しおりを挟む「自惚れてたんだなぁ、私は……」
「————」
蓮花の嘆きと叫びを聞いて、永絆はそんな一言をポツリと漏らした。
格好いい英雄になれるのではないか。誰もが憧れるヒーローになって、今までのみすぼらしい自分を清算出来るのではないか。
そうなってもおかしくない程の力を得て、事実、夜の学校では魔剣慣れしていた藤実を倒すことができ、その後のルメリア戦でも何とか死なずには済んだ。
しかし。
身の丈に合わないだろう超常が、手のひらにすっぽりと収まって自分が思うままに振るうことが出来る——そう、錯覚していただけだった。
実際は、学校での一戦は彼女の助力が無ければ、藤実が操る『操毒』の施された生徒たちを使われてすぐに追い詰められていたかもしれない。
ルメリアとの戦い関しては言うまでもなく、ターチスの奮戦があったからで。
「それどころか、直近で二度も敗北してんのに、それをしょうがないって決めつけてた」
大剣霊同士の戦いを、永絆はどこか別世界での出来事のように思い、「勝てないのは仕方ない。介入出来ないのは仕方ない」と無意識の内に諦めていた。
「その癖、自己犠牲だなんだとカッコつけて、お前を傷付けちまって……」
「ナズ姉……」
慢心して、その度に蓮花に諭されてようやく確かに歩を進められる。
彼女より一回り年を重ねた大人として非情に情けない——ついさっきまでの、蓮花に怒られるまでの永絆ならそう思っていたことだろう。
「お前を対等に見ていなかった、私の落ち度だ」
永絆はゆっくりと起き上がり、蓮花の両肩を優しく掴んで言った。
「馬鹿な私に、気付かせてくれてありがとう」
「…………」
蓮花は暫く言葉を発しなかった。しかし程無くして、彼女は「……うん」と目を瞑って口元に微笑みの曲線を描き、
「気付くの遅すぎだよ、バカナズ姉」
瞳を微かに涙で濡らしてそう返した。
直後に、
「ふん……ッ!」
永絆はその雰囲気をぶち壊すかのように、己の頬に全力のナックルをお見舞いしたのだった。
「ちょっ! ナズ姉!?」
突然の奇行に蓮花も驚きの声を上げ、続けて二発目を実行しようとしている永絆の手を慌てて止める。
「突然どうしたのバカナズ! 熱とあたしの指おしゃぶりで頭燃えちゃったの!?
「お前の指おしゃぶりと献身ぶりには萌えたけどな。……まあ、あれだ。物分かりが悪くて身勝手な私自身への戒めというか、お前や愛火さん、ターチスに掛けた迷惑についてのささやかな詫びというか……」
「だからっ、そういうところがおバカだって言ってんの! ……って、もういいや。そういう馬鹿なところもナズ姉激萌えポイントの一つだもんね」
「おい、私を天真爛漫の萌えキャラみたいに言うな」
「ナズ姉が萌えキャラとか……ぷぷっ」
「おいおいおい、萌えに関してはお前が言ったんだが? お前の方こそ頭燃えてるんじゃないか?」
ジト目でそう突っ込んだ永絆に対し、蓮花は突然勢いよく吹き出す。
その拍子にかかった唾を手でごしごしと拭いて「どうした」と聞く永絆に、蓮花は慈しむような表情になって、
「だって、あたし達、今さっきまで言い合ってたのに……今はもう、いつも通り」
「言い合ってたというか、お前が一方的に説教してくれてたんだけどな。まあ、でも、そういうのが、私達の仲なんじゃないか? そうやって、言いたいことが言えて、いきなり取っ組み合いになってるっていうのも中々いいもんじゃねぇか」
「SMプレイみたいだね」
「すぐいらん事言う」
永絆が突っ込むと同時、蓮花は「よいしょ」と立ち上がって手を差し伸べた。
「あんがとよ」
その手を取って永絆は立ち上がり、
(これから先、この子の手を何回取るのだろう。何度、手を差し伸べられるのだろう……)
自分よりも一回り小さく、白磁のようできめ細かな手。爪の先まできちんと手入れされていて、永絆は自分がいかに自身に対して無頓着だったかが分かる。
「ひゃっ!? どしたのナズ姉!」
手甲に鼻と唇を当てて香りや感触を味わっている永絆の行為に、蓮花は素っ頓狂な声を上げて頬を赤く染めるのだった。
「悪い悪い、蓮花の手が美味しそうに思えたからつい、な」
「ナズ姉も雰囲気ぶち壊してるじゃない……」
「何はともあれ、今すべきことが段々と見えてきたな」
「あたしの手ってそんな効果あるんだ」
そう独り言ち、自分の手の匂いをくんくんと嗅ぐ蓮花のもう片方の手を握り、「わお」
「まずは愛火さんに改めて謝罪とお願いの意思を示さなきゃな」
そう言って永絆は蓮花と共に、愛火が居る水道に向かって彼女と相対した。
「あらぁ、永絆ちゃん。蓮花ちゃんとの逢瀬はもういいのかしらぁ?」
壁にもたれかかってスマートフォンを弄っていた愛火に、永絆は苦笑交じりに、
「怒ってます……よね?」
彼女はパーティードレスで派手に強調されている豊かな胸元にスマホを仕舞い、その動作に相変わらず鼻の下を伸ばしかけた永絆は蓮花に強く足を踏まれ、「ぐぁ!?」涙目になって愛火の反応を待つ。
「怒ってるわよぉ。ええ、非常に怒ってるわぁ……私というものがありながら、永絆ちゃんってば蓮花ちゃんといつまでもイチャイチャイチャイチャしているんですものぉ。嫉妬に狂ってお姉さんの愛の炎が燃え盛っているの……ねえ、感じるかしら?」
違和感が無い程にスムーズな所作で、いつの間にか愛火は永絆の手を掴んで自分のたわわな胸に押し付けていた。
「愛火、さん」
「いいのよぉ、今からでも遅くないわぁ。私と一緒に愛を慈しみ、愛の火花を散らしましょう」
色気による誘惑。いつもの——いや、今までの永絆なら、この流れに翻弄されて愛火の胸元に飛び込んでいいただろう。
でも、今は。
「……愛火さん」
洒落にならない程の殺意を剥き出しにして、既に片手にアイリスを顕現させていた蓮花の動きが、ピタリと止んだ。
愛火も「なにかしら?」と首を傾げる。
永絆はゆっくりと彼女の胸から手を離し、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい、でした……!」
「————」
その唐突な謝罪に、さしもの愛火も目を見開いて驚愕を露わにするのだった。
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