冥剣術士ナズナ

アオピーナ

文字の大きさ
上 下
1 / 50
序章

EP:SOWRD 000 二人の王女

しおりを挟む


「んっ……! ぁ……っ!!」
「あやと……っ、あやと……さ……んっ!」
「や……っ……ぁ」

 がっつくなって……と、ホテルの部屋のドアをあけた瞬間に引きこんでキスするのを制された。
 数回キスをして目を見合わせて。濱口は、うう、と少し耐えると、苦笑いをこぼしている奥村を部屋の中へと案内するよう手をひく。ジャケットを預かってそれをハンガーにかけていると、奥村が濱口の腕を引き、それを抱き締めてくる。一方の濱口は、彼の細い体を大きなベッドに押し倒す。奥村は靴を蹴り出して、必死になっている恋人の顔を見て笑った。

「ひでえ顔。欲望まるだしってかんじ」
「だって……っ! あんなに煽られて、オレ……っ、い、一時間が長くて……!」
「うん、ごめん」
「礼人さん、こんな良い部屋とって、どうした、の……?」
「……んーー……」

 自分へのご褒美? と困ったように笑う恋人は、くすくす笑いながら濱口のネクタイに手をかけた。奥村のとっていた部屋はジュニアスイートで、無駄に広い。やたらと広い。濱口が風呂を見て、これはラブホ並み……と感動したくらいには広かった。そこで無駄な妄想をして時間をつぶしていたくらいだ。

「やっと、今日で仕事の目処ついたし……」
「う、ん」
「明日も明後日も休みだから……な」
「えっ、どっちもなんだ? 久しぶりの休み……」
「……ああ。……だから、お前とずっと一緒に居たい」

 そっと手を濱口の頬にかけた奥村は、濱口をじっと見つめると、悪かったな、と苦笑いをこぼした。

「会社で……あんなことして……」
「っ! い、いいって!! 嬉しかったし、オレ……っ!」
「うん……なあ……」

 ねだるように目を閉じられ、濱口はその唇を自分のそれで塞いだ。舌をあわせ、それを吸い、言葉を飲み込むようにキスを繰り返す。はあっと小さな息を吐いた濱口は、ぐいっと自分の頬をつねって痛みを確かめた。

「……何してんだ、お前……」
「だって! 夢だと困るから!」
「なんだよ、それ」
「オレ、礼人さんとできなくて、ずっと夢で……夢で礼人さんとヤってました、ごめんなさい!」

 夢の中でぐちゃぐちゃにしちゃった……どうしよう、と濱口はあまりの状況に混乱しているのかそんなことを暴露してしまう。奥村は一瞬きょとんとした後、あははっ! と珍しく声をあげて笑った。

「なんだよ。謝るくらいのことしてたのか……?」
「いや……その……今日してもらった……こと、とか」
「会議室で口で?」

 そう言って面白そうにその仕草をするのは随分と意地が悪い。

「……うう……デスクに押し倒したりとか……色々……です」

 すみません……と濱口は項垂れるが、奥村は珍しく笑ったままだ。少し意地の悪い笑みを浮かべ、流すような視線を眼鏡の奥から送ってくる。

「オレ、基本的に仕事のことが頭からはなれねえから……」
「?」
「……今日は全部忘れて、お前のことだけ考えてーんだ。……ぐちゃぐちゃにしてくれていいぜ?」
「っ!!!?」

 礼人さん……と呼ぶ声が掠れそうになる。濱口が何もできず震えていると、奥村は困った表情を見せ、とりあえずこれ、とネクタイに指をかけた。

「オレが外した方がいいの? ……お前がほどきてえの?」

 そう訊かれた瞬間に、濱口は奥村の体をベッドに深く沈み込ませるように押し付けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...