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客死
0.42 遊星たちが連なり落ちるように
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「丹化第三形態は人間の脳を内包しています。したがって、知能が高い生命体……人間と対峙していると思った方がよろしいでしょう」
かすみ先生が腕を捲ってバンドを操作し始める。無線を入れるみたいだ。
「こちら第四研02、01応答してください」
かすみ先生が呼びかけると、向こうから応答があったようで、何かを小声で話している。
内容は聞き取れなかったけれど、結姫先生と話しているみたいだ。シュンさんにもこの状況が伝わるはずだ。
オレは横目で小窓から廊下を覗く。斜向かいのドアを開けてカイカイさんが中に入ってゆくのが見えた。動きはすごくゆっくりだ。どこか負傷したのかもしれない。もしかしたら、あのまま中に閉じ込められるかも。
かすみ先生が通信を切る気配を感じた。オレがかすみ先生の方を向くと「結姫先生へ連絡を入れました。委員長にも伝達されるでしょう」と先生がオレに向かって微笑んだ。
「……あの、かすみ先生」
「はい?」
「カイカイさんが今向かいの部屋に入って、次はここに来ると思う。でも、あいつ怪我してるみたいなんで、……あそこに閉じ込められるかも」
オレが言うと、かすみ先生は「名案です」と明るい顔になった。
そして、ぶつぶつ呟きながらまた一番奥の棚へ近寄って、何かを漁り始めた。
「現在、研究室全倉庫の鍵はロックが掛かりません。しかし、ドアは内開きです。ドアノブを紐で括って外から他の場所に引っ掛けることができれば…………、ありました!」
そう言ってこちらを向いた先生の手には、釣り竿のリール部分だけを取り出したような小さい器具があった。
「自動リールです。リールのボタンを押せば、力がなくとも強く対象を縛ることができます。あとは機密組織の倉庫のドアの耐久性を信じましょう」
オレは少し口元が緩むのを感じながら「はい」と返事を返してリールを受け取る。そして、さっき受け取ったライトを脇に抱えて、もう一度小窓から外を覗いた。
カイカイさんが入って行ったドアの横に重そうな金属製の網棚が見える。その棚を倒してドアを塞いで、ドアノブと棚をリールで括り付ければきっと上手くいくはずだ。
今しかない。オレはリールを強く握りしめて息を深く吸った。
「行きます」
オレが言うと、かすみ先生が強く頷いた。
かすみ先生が音を立てないように倉庫のドアを開けた。オレはそこからそっと出て、カイカイさんが入った倉庫のドアまで静かににじり寄る。
カイカイさんが倉庫の奥をゆっくり徘徊しているのを感じる。近付くほど、どんどんカイカイさんの聲も近くなる。
『 』
オレは息を潜めて、首にかけていた音叉を肘に叩いて口に咥えた。
それから、そっとドアの横にある目当ての網棚に近付いて、棚の上の方にワイヤーを括り付けた。
下には重そうな荷物がある。ワイヤーで下に向かって引っ張れば、このまま棚が横向きに倒れてドアを塞いでくれるはずだ。
『きて』
ゾッとする。やつの聲だ。臍から脳天まで得体の知れない感覚が駆け上がる。
音叉の音に集中する。
手からリールが落ちそうになるのを堪えて、やっとの思いでワイヤーを括り付ける。
あとはドアノブにもう一方を引っ掛ければ————
『どこ』
『ここ』
『にげないで』
『いなくなった』
『る』
———— 瞬間。
『いや』
『やめて』
音叉の音が掻き消える。
水の中で溺れる。
そんな恐怖に似た感覚が背中に走った。
息が吸えない。
感覚が奪われる。
ダメだ!
「『っ、!』」
オレは思わず息を思い切り吸った。
脇に抱えていたライトが床に落ちて、カランッと音が響いた。
『 』
マズい! 気付かれた!
『ああああああああ』
やつの聲がオレの意識の後を追って襲ってくる。
カイカイさんが奥からこちらに向かってくるのが、倉庫に立ち並んだ棚の隙間から見える。
「一也さん!」
後ろから聞こえる悲鳴のようなかすみ先生の声を聞きながら、オレは咄嗟にドアノブを握って、そのままドアを思いっきり閉めた。
手に持っていたワイヤーを震える手で、手こずりながらもやっとの思いで括り付けた。
その時。
———————— ガチャンッ
「うわっ」
ドアが内側に思い切り引っ張られる。
その衝撃でオレは思わず尻餅をついた。手からリールがこぼれ落ちる。
ドアが無理やりこじ開けられる。
ワイヤーが引っかかって途中まで開いたドアの隙間から、カイカイさんが顔を覗かせた。
オレはその顔に気を取られる。体が固まった。
『あけて』
『けさないで』
『てをだして』
ドアの隙間から伸ばされた腕が目前に迫ってくる。
体が動かない。
ダメだ。このまま刺される!
かすみ先生が腕を捲ってバンドを操作し始める。無線を入れるみたいだ。
「こちら第四研02、01応答してください」
かすみ先生が呼びかけると、向こうから応答があったようで、何かを小声で話している。
内容は聞き取れなかったけれど、結姫先生と話しているみたいだ。シュンさんにもこの状況が伝わるはずだ。
オレは横目で小窓から廊下を覗く。斜向かいのドアを開けてカイカイさんが中に入ってゆくのが見えた。動きはすごくゆっくりだ。どこか負傷したのかもしれない。もしかしたら、あのまま中に閉じ込められるかも。
かすみ先生が通信を切る気配を感じた。オレがかすみ先生の方を向くと「結姫先生へ連絡を入れました。委員長にも伝達されるでしょう」と先生がオレに向かって微笑んだ。
「……あの、かすみ先生」
「はい?」
「カイカイさんが今向かいの部屋に入って、次はここに来ると思う。でも、あいつ怪我してるみたいなんで、……あそこに閉じ込められるかも」
オレが言うと、かすみ先生は「名案です」と明るい顔になった。
そして、ぶつぶつ呟きながらまた一番奥の棚へ近寄って、何かを漁り始めた。
「現在、研究室全倉庫の鍵はロックが掛かりません。しかし、ドアは内開きです。ドアノブを紐で括って外から他の場所に引っ掛けることができれば…………、ありました!」
そう言ってこちらを向いた先生の手には、釣り竿のリール部分だけを取り出したような小さい器具があった。
「自動リールです。リールのボタンを押せば、力がなくとも強く対象を縛ることができます。あとは機密組織の倉庫のドアの耐久性を信じましょう」
オレは少し口元が緩むのを感じながら「はい」と返事を返してリールを受け取る。そして、さっき受け取ったライトを脇に抱えて、もう一度小窓から外を覗いた。
カイカイさんが入って行ったドアの横に重そうな金属製の網棚が見える。その棚を倒してドアを塞いで、ドアノブと棚をリールで括り付ければきっと上手くいくはずだ。
今しかない。オレはリールを強く握りしめて息を深く吸った。
「行きます」
オレが言うと、かすみ先生が強く頷いた。
かすみ先生が音を立てないように倉庫のドアを開けた。オレはそこからそっと出て、カイカイさんが入った倉庫のドアまで静かににじり寄る。
カイカイさんが倉庫の奥をゆっくり徘徊しているのを感じる。近付くほど、どんどんカイカイさんの聲も近くなる。
『 』
オレは息を潜めて、首にかけていた音叉を肘に叩いて口に咥えた。
それから、そっとドアの横にある目当ての網棚に近付いて、棚の上の方にワイヤーを括り付けた。
下には重そうな荷物がある。ワイヤーで下に向かって引っ張れば、このまま棚が横向きに倒れてドアを塞いでくれるはずだ。
『きて』
ゾッとする。やつの聲だ。臍から脳天まで得体の知れない感覚が駆け上がる。
音叉の音に集中する。
手からリールが落ちそうになるのを堪えて、やっとの思いでワイヤーを括り付ける。
あとはドアノブにもう一方を引っ掛ければ————
『どこ』
『ここ』
『にげないで』
『いなくなった』
『る』
———— 瞬間。
『いや』
『やめて』
音叉の音が掻き消える。
水の中で溺れる。
そんな恐怖に似た感覚が背中に走った。
息が吸えない。
感覚が奪われる。
ダメだ!
「『っ、!』」
オレは思わず息を思い切り吸った。
脇に抱えていたライトが床に落ちて、カランッと音が響いた。
『 』
マズい! 気付かれた!
『ああああああああ』
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