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客死
0.40 うまれ落ちた数多の贄を知る
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———————— カラ、
何かが床に落ちる音がした。
途端にカイカイさんが進んでいた方向とは反対側に向かって四つん這いで走ってゆく。キャーーーーッ、と女性の悲鳴が聞こえた。
誰かが襲われた!?
オレは思わず勢いよくドアを開けて外に飛び出した。全力でカイカイさんを追いかける。カイカイさんの奥、ドアの前で倒れ込む人影が見えた。
かすみ先生だ!
「おい!! こっちだ!!!!」
オレは咄嗟に叫んで、側に積んであったティッシュ箱をカイカイさんに向かって全力で投げつけた。
ティッシュ箱はカイカイさんの背中に命中した。そして、そいつの動きがゆっくりと止まって、今度は勢いよくこっちを向いた。
オレは首から下げていた音叉を膝に叩いてから前歯に咥えた。それから全力でカイカイさんを喚んだ。
「『来い! オレのところに!!!』」
一瞬、意識が持っていかれそうになる。
感覚が手元からこぼれ落ちて、息が止まった。
オレは音叉の音を頼りに肺を無理やり動かす。霞んでいた視界が戻ってくる。
今だ。
オレは反対側に踵を返した。
廊下の脇に積んである荷物を倒しながら、かすみ先生がいる場所から引き離すように廊下の反対側に向かって走る。
カイカイさんが四つん這いで、勢いよくこちらに走ってくるのが視界の端に見えた。走りながら振り返ると、蜘蛛みたいに天井を伝ってカイカイさんがオレの真上までやって来ていた。
瞬間。カイカイさんがオレに襲いかかった。
同時に、オレは進行方向を反転させて、今度はかすみ先生の方へ全力で走った。
———————— ガッシャンッ
獲物を失ったカイカイさんが緊急用シャッターに激突したらしい。シャッターがひしゃげる大きな音と、側にあった荷物が衝撃で崩れる音が同時に後ろから響いてくる。
かすみ先生のもとにたどり着いたオレは、カイカイさんから目を離さないようにしながら、かすみ先生をオレの背中の後ろに引き寄せた。
額に汗を滲ませた先生は、肩で息をしながらオレを見上げた。
「なんでこんなところにいるんすか!?」
息を切らしながらオレが尋ねると、かすみ先生は申し訳なさそうに「すみません」と呟いた。
「あの倉庫に様子を見に行こうとしていたら、急に緊急扉が閉じて出られなくなって。私としたことが、面目ありません」
「怪我は?」
「私は大丈夫です。……それにしても、一也さん。お目覚めになったんですね」
よかった、と、かすみ先生に抱きしめられる。オレは居た堪れなくて、咳払いで誤魔化した。
「っ、シュンさんたちが、こっちに向かってるって。時間を稼げって言われました」
「はい把握しています。無線で ———— 」
と、かすみ先生が言ったところで、緊急用シャッターの近くで荷物に埋もれていたカイカイさんが物音を立てながら這い出して来るのが見えた。
「一也さんこっちです」
かすみ先生が俺の腕を引いて立ち上がった。
そして、オレが寝ていた部屋の隣にある倉庫の扉を開けてオレに入るように促す。
オレが中に入ったのを確認して、かすみ先生が静かにドアを閉めた。
「現在、緊急警戒体制中で倉庫の鍵が閉まりません。ですが、時間は稼げるでしょう」
かすみ先生は言いながら薄暗い倉庫の奥に進んでゆく。そして、一番奥にあった棚の下の方で何かをゴソゴソと漁り始めた。
「カイカイさんは光が苦手です」
尋ねようとするオレより先に、かすみ先生が呟いた。何かを探しているみたいだ。
「強い明かりを照射すれば、しばらくの間動きを止めることが可能です…………あった!」
言ったかすみ先生の手には、工事現場で使うような四角い置き型のライトが握られていた。
「広範囲レーザー投射機です。万一に備えてお持ちください。軽量型で1万ルーメンしかありませんが、レーザですので目を焼く程度の力はあります。三形の顔に照射すれば怯ませて一時的に動きを止められるはずです……理論上ですが」
普段穏やかな先生の饒舌な説明に驚きながら、オレは先生から手渡されたライトを受け取った。
「ボタンを押すだけで稼働します。軽量型なので、最大出力での連続稼働は20秒しか持ちません。使用の際は目を逸らしてください」
「わかりました」
オレは言って、ライトを両手で持ってボタンの位置を確認する。赤いゴムで覆われたボタンが照射面の後ろに付いていた。
先生がドアの方に近寄って行って、ドアの横にある小窓から外の様子を伺う。
オレも後ろから外を覗く。ドン、と音がした。近場にあるドアを開けて回っているみたいだ。
「ドア開けてくんのかよ」
オレが呟くと、先生はため息をついて「恐ろしいです」と頷いた。
何かが床に落ちる音がした。
途端にカイカイさんが進んでいた方向とは反対側に向かって四つん這いで走ってゆく。キャーーーーッ、と女性の悲鳴が聞こえた。
誰かが襲われた!?
オレは思わず勢いよくドアを開けて外に飛び出した。全力でカイカイさんを追いかける。カイカイさんの奥、ドアの前で倒れ込む人影が見えた。
かすみ先生だ!
「おい!! こっちだ!!!!」
オレは咄嗟に叫んで、側に積んであったティッシュ箱をカイカイさんに向かって全力で投げつけた。
ティッシュ箱はカイカイさんの背中に命中した。そして、そいつの動きがゆっくりと止まって、今度は勢いよくこっちを向いた。
オレは首から下げていた音叉を膝に叩いてから前歯に咥えた。それから全力でカイカイさんを喚んだ。
「『来い! オレのところに!!!』」
一瞬、意識が持っていかれそうになる。
感覚が手元からこぼれ落ちて、息が止まった。
オレは音叉の音を頼りに肺を無理やり動かす。霞んでいた視界が戻ってくる。
今だ。
オレは反対側に踵を返した。
廊下の脇に積んである荷物を倒しながら、かすみ先生がいる場所から引き離すように廊下の反対側に向かって走る。
カイカイさんが四つん這いで、勢いよくこちらに走ってくるのが視界の端に見えた。走りながら振り返ると、蜘蛛みたいに天井を伝ってカイカイさんがオレの真上までやって来ていた。
瞬間。カイカイさんがオレに襲いかかった。
同時に、オレは進行方向を反転させて、今度はかすみ先生の方へ全力で走った。
———————— ガッシャンッ
獲物を失ったカイカイさんが緊急用シャッターに激突したらしい。シャッターがひしゃげる大きな音と、側にあった荷物が衝撃で崩れる音が同時に後ろから響いてくる。
かすみ先生のもとにたどり着いたオレは、カイカイさんから目を離さないようにしながら、かすみ先生をオレの背中の後ろに引き寄せた。
額に汗を滲ませた先生は、肩で息をしながらオレを見上げた。
「なんでこんなところにいるんすか!?」
息を切らしながらオレが尋ねると、かすみ先生は申し訳なさそうに「すみません」と呟いた。
「あの倉庫に様子を見に行こうとしていたら、急に緊急扉が閉じて出られなくなって。私としたことが、面目ありません」
「怪我は?」
「私は大丈夫です。……それにしても、一也さん。お目覚めになったんですね」
よかった、と、かすみ先生に抱きしめられる。オレは居た堪れなくて、咳払いで誤魔化した。
「っ、シュンさんたちが、こっちに向かってるって。時間を稼げって言われました」
「はい把握しています。無線で ———— 」
と、かすみ先生が言ったところで、緊急用シャッターの近くで荷物に埋もれていたカイカイさんが物音を立てながら這い出して来るのが見えた。
「一也さんこっちです」
かすみ先生が俺の腕を引いて立ち上がった。
そして、オレが寝ていた部屋の隣にある倉庫の扉を開けてオレに入るように促す。
オレが中に入ったのを確認して、かすみ先生が静かにドアを閉めた。
「現在、緊急警戒体制中で倉庫の鍵が閉まりません。ですが、時間は稼げるでしょう」
かすみ先生は言いながら薄暗い倉庫の奥に進んでゆく。そして、一番奥にあった棚の下の方で何かをゴソゴソと漁り始めた。
「カイカイさんは光が苦手です」
尋ねようとするオレより先に、かすみ先生が呟いた。何かを探しているみたいだ。
「強い明かりを照射すれば、しばらくの間動きを止めることが可能です…………あった!」
言ったかすみ先生の手には、工事現場で使うような四角い置き型のライトが握られていた。
「広範囲レーザー投射機です。万一に備えてお持ちください。軽量型で1万ルーメンしかありませんが、レーザですので目を焼く程度の力はあります。三形の顔に照射すれば怯ませて一時的に動きを止められるはずです……理論上ですが」
普段穏やかな先生の饒舌な説明に驚きながら、オレは先生から手渡されたライトを受け取った。
「ボタンを押すだけで稼働します。軽量型なので、最大出力での連続稼働は20秒しか持ちません。使用の際は目を逸らしてください」
「わかりました」
オレは言って、ライトを両手で持ってボタンの位置を確認する。赤いゴムで覆われたボタンが照射面の後ろに付いていた。
先生がドアの方に近寄って行って、ドアの横にある小窓から外の様子を伺う。
オレも後ろから外を覗く。ドン、と音がした。近場にあるドアを開けて回っているみたいだ。
「ドア開けてくんのかよ」
オレが呟くと、先生はため息をついて「恐ろしいです」と頷いた。
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