『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

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客死

0.39 纏綿な聲を響かせ

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『おいで』
『いるでしょう』
『でておいで』



 ベッドに横たわったまま、じっと感覚を研ぎ澄ませる。

 “丹”だ。確かに感じる。痺れるような感覚がする。間違いない。移動している、ということは “三形” 以上、カイカイさんか?

 でもどうして、こんなところに丹がいるんだろう。夢か、幻覚?

 浅く息を吸って自分の感覚を確かめる。酸素マスクの苦しさも、微かに動かした指先がシーツに擦れる感覚も現実味のある感触だ。

 途端に手が震えてくる。緊張。でもそれ以上に、“丹” と同調した時の感覚がフラッシュバックして、自分の感覚を失わせているのを感じた。

 心臓がうるさい。オレはゆっくり息を吐いて、気持ちを落ち着かせるように努めた。

 こんな時、どうしたらいいんだろう。

 シュンさんだったらどうするだろう。きっと、シュンさんだったら。はじめに機動を確保して、それから情報を収集するはずだ。

 オレは震えて力が抜けた手を叱咤して、酸素マスクを静かに外した。それから、点滴の針を母さんに教わった通りにそっと抜く。ベッド脇の机に置いてあった無線機を耳の後ろの骨がちょうど当たる位置に貼り付けて、小型スピーカーを耳の中に入れた。

 無線機のスイッチが内蔵された多機能バンドを腕にはめて電源を入れると、途端に結姫先生の声が聞こえてきた。

『———— 研究室内に “三形” が出現しました。直ちに研究室へ向かってください』

「了解。直ちに向かう。君は今どこにいる。答えろ」

 シュンさんの声が答える。

 良かった。シュンさんにもこの状況が伝わったらしい。

『私は国家防衛隊本部南棟の司令室です。少佐は今どこにいらっしゃいますか』

『僕も琉央も魁も本部北の3階だ。西藤少佐と一緒にいる。今から現場に向かう向かう。他に情報があれば末端に情報を送れ』

『わかりました』

 結姫先生とシュンさんの応答を聞きながら、オレは少し迷った。

 オレが無事であることを知らせた方がいい気がしたけれど、今のチャンネルは全研究室員と防衛士官上官を含めた緊急用チャンネルだ。

 オレがここにいることは、きっと他の人にバレないほうがいいはずだ。

 外の気配を確認する。丹は近くにいないみたいだ。

 オレは隊員専用のチャンネルに合わせて、小さい声で呼び掛けた。

「3番、こちら6番、どうぞ」

『6番、無事か?』

 間髪入れずにシュンさんから返事があった。焦った声で、ノイズが混じっている。

「大丈夫です」

 オレが応えると、よかった、と漏れるようなシュンさんの声が聞こえて、オレはそれだけでホッとした。震えていた手に血が回って力が入るのを感じる。

『今から向かう。状況を伝えろ』

「はい。いま第四研究室の倉庫にいます。丹が近くを歩く気配を感じました。おそらく倉庫から出た廊下にいると思います。隠れて様子を見ています。以上です」

『わかった。お前は屯所から現場に駆けつけた。? 僕たちが行くまでそのまま隠れて時間を稼げ。何か情報があれば逐一僕たちに連絡しろ。以上』

「了解」

 オレは通信を切って、そっとドアの近くまで近付く。

 ドアの脇にある小窓から廊下を覗くと、赤い影が廊下をウロウロしているのが見えた。

 やっぱり、カイカイさんだ。こんなところまでどうやって入り込んだんだ。


———— ブーーーーーン


 警報が廊下のスピーカーから聞こえてくる

『警戒体制。警戒体制。研究室内に丹が出現しました。第四研究室付近に信号を確認 ———— 』

 こんなに奥まで入り込んでいる今になって警報が鳴り始めるなんて、警備体制が厳重な研究室にしては遅すぎる。

 嫌な予感がした。

 研究室に侵入した丹が、もしアイツだけじゃなかったら。

 そもそも、あいつはどこからこんなところまで入り込んだんだ。

 まさか。シュンさんが言っていた “内通者” がアイツをここに送り込んでいたとしたら?

 オレは顔を小窓に寄せて廊下の様子を観察する。

 廊下は一本道だ。ここまで来るには第四研究室を通るか、非常用通路を進んでくる必要がある。

 カイカイさんは研究室がある方向へゆっくりと進んでいる。緊急用シャッターが閉じているのが小窓の端から見えた。

 幸い、アイツが研究室に侵入することはなさそうだ。



『どこ』
『ここにきて』



 ゾッとして思わず息が止まる。仲間を探している聲だ。幸いまだオレの存在には気付いていないらしい。

 オレはその場に静かにしゃがみ込んでゆっくり息を吐いた。

 国家防衛隊本部からここまでは車で急いで20分くらい。

 どうにか凌しのがないと。オレ一人でどうにかできる相手じゃない。

 オレはもう一度、廊下の奥を見ようと小窓に頬を寄せた。


 その時だった。
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