『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

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客死

0.38 銀糸を風に靡かせ

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 その言い草に僕は呆れて息を吐く。まるで僕の最年少少佐としての立場に文句があるみたいだ。

「それとも何か……見られては困ることでも、あるんですか?」

 少佐のその言葉に、僕は思わず眉間に皺が寄った。

「見られては困るものがあって欲しい、ということですか?」

「…………まさか」

 睨んだ僕に、西藤は何か含んだトーンで返事を返して、少し考え込む。そして「そうですね」と呟いて、「その話は、また後でしましょう」と小さな声で僕に告げた。賢明な判断だ。これ以上腹を探り合ったって、奥に仕舞い込んだものに腕の長さは届かない。

「研究室編成の件、先に述べた通り、研究員数名の配属が変更となります。第六研究室に居た、水科みずしな風田かざたはご存知ですか?」

 第六研究室、という単語に、隣にいた魁が少し身動ぐのを感じる。

「傳から聞いています。水科隊員は第六の副主任で、風田隊員はその補佐でしょう」

「そうです。彼らが第三研究室に配属が変更となりました」

「いつからです?」

「本日付けで」

「……それは、だいぶ急な話ですね」

 僕は少し言葉を詰まらせて考え込む。そんな話、会議で一度も出なかったはずだ。

 第三研究室は資料や備品保管管理を主だった任務とする研究室だ。一方で第六研究室は機材開発を主だった任務としている。どちらも緊急性のある事案を取り扱う研究室ではない。

 ひょっとして、僕たちに結姫がリークしてくれた “例の実験” のことと関係があるんだろうか。なら、何故それをわざわざ知らせるような形で僕たちを呼び出したんだ。

「…………どういった理由で?」

 しばらくの沈黙のあと、僕は西藤に尋ねた。けれど、彼は表情を変えずに「それは然るべき時に通達する」と言い放った。

「それは ———— 」

 そう、僕が口を開こうとした時だった。

「 ———— 西藤少佐」琉央が僕の言葉を遮った。

「それは、僕が把握していないと困る事案です。研究室間の業務に支障がある」

 西藤が途端に眉間にしわを深く寄せる。そして「君は関係ない」と語気を強めた。

「僕は君の上官と話をしている。首をつっこむな」

「僕にも呼び出しをかけた。それは僕にも発言する権利があるということだ」

「口の利き方をわきまえろ傳。普段研究室に居ない癖に、こういった場になるとそういう風に発言するのか、君と言う人間は。それとも。隣に君の上司がいるから、虎の威を借るようにそうやって口を挟んでもいいと思っているのか?」

「そんなこと ———— 」

「 ———— 黙れ。その虎を守りきるだけの能力など君にないくせに」

「……能力?」

 西藤の言葉に、琉央が珍しく苛ついたように呟いた。隣にいた魁がそっと琉央の服の裾を掴むのが見えた。

「その “カスほど” の同調能力で。よくも、ぬけぬけと委員として籍を置いていられるな、と。そう言ってるんだ」

「…………」

 空気が凍りつく。琉央の浅いため息が聞こえて、魁がそれを抑えるように琉央の背中にそっと手を置く。

 僕も少し思うところがあった。西藤にしてはあからさまにひどい言い様だったからだ。それに、琉央が自分の能力についてひどく気にしているのも、僕はよく理解していた。

「ひどい言い草ですね、西藤少佐」

「僕はその “狐” を信用していないんだよ。研究室上がりで、虎を惑わしているんじゃなかろうかと、思うところがあるんでね」

「お言葉ですが」

 魁が口を開いた。

千金せんきんきゅう一狐いっこえきに非ずと申します、少佐」

「あはは、それはそれは」

 西藤が冷たい声で笑う。そして一歩前へ出た。

「あと狐は何匹いるか。教えてもらおうか? 和泉魁」



———— ブブブブ

 今にも西藤と魁が掴み合いになろうかというその時、僕たちの腕につけていた緊急無線通報装置がけたたましく震えた。

 司令室からだ。一体何だろう。一瞬、嫌な予感がした。

「こちら4番。どうぞ」

『こちら卯ノ花。大変です。今どちらにいらっしゃいますか?』

 焦った、それでいて努めて冷静な結姫の声が伝導イヤフォンから聞こえてきた。

「今防衛本部にいる。どうした』



『研究室内に “三形” が出現しました。直ちに研究室へ向かってください』
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