『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

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客死

0.39 忘れ去られた譜たちが

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 全て、僕の所為だった。

 琉央のプランを蹴ってまで一也と一緒に任務に行きたいと望んだのは、本当に、僕の身勝手な主張に過ぎなかった。

 共鳴率が【0.40】以下である事は頭の隅で理解していた。けれど。共鳴率で表せない、感覚的な部分で、僕は一也と一緒に任務を遂行するべきだと思った。無理にでも任務を一緒に行えば、何か、僕たちの関係性に変化があるんじゃないか。そう思ったから。

 まさか。目の前で、あんな事件が起こるなんて思ってもいなかった。それを、たとえ予測不可能な状況が目の前で巻き起こったとしても、考慮できなかった僕に重すぎる責任がある。

 きっと、少しでも一也に寄り掛かろうとした僕に天罰が下ったんだ。零樹の時と、同じように。

 一也が病室に収容されて二日。僕は一度も、一也の顔を見ることができなかった。こういう時に限って、防衛士官としての仕事は忙しい。

 僕はひどく寝不足で、そしてひどく憔悴していた。

 積み重ねられた、切り刻まれた丹化した死体。それを見た時、僕の脳裏によぎったのは、僕たち以外に丹の存在を知る “何者か” の存在だった。そして、その予感通り、目の前に “一人の男” が現れた。赤い輪の装飾品の付いたネックレスを首から掛けたその男に、僕は戦慄した。

 赤い輪。

 それは、真那まな教の宗教的象徴だ。真那教団はこの国を動かす政治家や資産家、そして、国家防衛隊の上層部に信者を多く持つ宗教組織。

 これは、もしかしたら、想像以上に巨大なものが僕たちの目の前に敵として立ちふさがっているんじゃなかろうか、と。僕は思わず背筋が凍った。

 さらに悪いことに、信者であろう “その男” は僕たちの前で “喰人行為” を披露し、丹化第一形態ヒトガタ『蜘蛛人間』へと変貌した。目の前にいた死体をも自身の体に取り込んで————



———— と、ここまで考えて、僕はひどく落胆する。

 あの時、僕がもう少し早く動き出していれば、一也をあんな目に遭わせることはなかったはずなのに。出口のない自責が僕の喉を締める。

 それでも、僕が動けなかったのは、理由がある。

 “あのうた” だ。

 あれが、僕の知っているものだったから。とても動揺した。

Ll uijiはじまりが聴こえる
Jeどうぞ balそう n-i!なります lように

 どこの国のものとも知れない。もしかしたら、僕の頭の中で無意識に生成された妄言かもしれないその言葉を、あの男が口にしていた。夢と、全く同じものだった。

 その声に、僕は剰え、同調に似た感覚で。まるで丹に引き摺り下ろされるように、体を預けようとしていたのだから。あれは、一体どういうことなんだろう。

 あの行為の意味や、そこまでに至った経緯は全くもって不明だ。様々な憶測はできるけれど、“狂信者の奇行” と一言で括ってしまえばそれまでだ。例の “譜” だって、そういう意味があるように感じただけ。夢で見た内容と被ったのも、偶然かも知れない。

 いくつか発見されていた『人間十字架』の反応は、あの『蜘蛛人間』を抑止、無害化した後、ぴったりと止んでしまった。

「切り刻まれた死体の部位ひとつひとつが個体として認識されていたからだろう」

 というのが、琉央の憶測であったけれど。本当にそうなんだろか。

 前回の『亜種』や『カイカイさん』のように、何か別の作用が働いているんじゃないかと。勘ぐってしまいそうになる。



「はぁ……」

 僕は一つ、ため息を吐く。そして、ティーカップに注いだ紅茶を少し口に含んだ。

 執務室の窓から、風が吹き込んでくる。国家防衛隊本部の最北にある部屋に似つかわしい、涼しい風だ。

 ここしばらく、隣に一也がいたものだから。ちょっとしたことで無性に寂しさを感じていけない。

 今日は、結姫もここに来る予定はない。仕事の合間を縫って、きっと一也の面倒を見てくれているんだろうな。

 今日は、本当にひとりだ。

 こういう、複雑な事象が起こった時、物事を客観視することが肝要なはずなのに。感情的になってしまうのは、やっぱり一也のことが少なからず気がかりだからなのかもしれない。

 そう、少なからず。

 魁から「一也の容体が安定した」と報告は受けていた。その言葉にとても安堵したのも確かだった。

 でも「そうだろうな」と、納得している自分もいた。

「体内の丹濃度が信じられないくらい低い数値だったんだよ!」

 魁からそう聞いた時に、既に確信していた。一也が、助かるであろうことを。

 だって。それは、ことなんだから ————



———— プルルルルッ

 不意に、デスクの内線がけたたましく鳴った。

 嫌だな。今日こそは一也の顔を見に早く帰ろうと思ったのに。また、こういう時に限って、“仕事” という名目の下に僕を呼び出す男なのだ。

西藤さいとう秋虎あきとらという男は。
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