『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

文字の大きさ
上 下
70 / 107
代赭

1.00 シノの夢 /hn

しおりを挟む
 自室に帰った僕は、インソムニア不眠症にしては珍しく、いつの間にか目を閉じて横になっていた。

 そして浅い眠りに就いた、そのひと時に、いつもと同じ夢を見た。

 同じと言ってもその夢達は、連続した短編小説のように、少しずつ違う場面で僕の前に現れる。何編もある夢の中で、今日は一番穏やかでとても優しい夢を見た。

 とはいえこの夢達が、僕を睡眠から遠ざけているインソムニアの原因で、僕が占いや心理学を学ぶきっかけになったのだけれど。

 子供の頃から全く同じ夢達を見る。

 これは、一体何なのだろう。



   * * *



 代赭色の砂漠の上。

は静かに息をして、隣にいる■■と呼応共鳴する。

 彼は暗い色の髪と汚れた顔を黒い外套がいとう頭巾ずきんで隠している。

 けれど、夜の闇を湛えたその瞳は真っ直ぐに前を見据えていて、そしてその視線と同じく、彼は真っ直ぐの聲に応えてくれる。

(顔はよく見えない。彼は一体誰なんだろう)

 まだ目指す地は遠い。

 頭をぎる。俺達僕たちと故郷で別れた二人のこと。

 彼等は無事、着いただろうか。

(彼等?)

 考えるだけで心が重くなるけれど、どんなに悔い重ねても、もう後戻りは出来ない。

は使命を全うしなければならない。

に居る■を殺す。

 その為だけにはこの地獄の様な世界で懸命に生きてきたのだから。

(一体何のことだろう?)

 例え、この先どんな事になったとしても。

(どんな事になっても?)

『シノ』

ぶ聲がする。

『少し休もうシノ。もう暗くなる。砂を掘って、寝床を作ろう』

も名を喚ぼうとするけれど、聲が上手く出てこない。

 その代わり『あとどれくらいで着くだろう』との口から零れた。

(けれど、これは僕の意志じゃない。夢の中では最初から何もかも、一字一句全て決まっていてる。それがまるで正解みたいに)

『さっき赤い天辺てっぺんが見えた。あと少しだよ』

 深く、優しい聲がする。

 この聲が好きだ。連れ去られたが、自分の体に戻ってくる気がするから。

(どういう意味なんだろう。僕はに居るはずなのに)

は『そうだね』と言って、荷物を近場の低木の傍に降ろす。

 そして、枝葉を集めて火を点けて、獣除けに小水を周りにばら撒いた。

 だんだん暗くなってくる。

 焚き火の傍に二人で座り、持ってきた干し肉を少し食べる。

『あの二人は大丈夫かな』

が謂った。

『大丈夫だよ。僕達に次いで強いだよ? きっときちんと群勢を率いて、僕達が着く頃にはもしかしたら決着が付いているかもしれない』

『そうだね』

(決着とは何だろう?)

は膝を抱えて手を焚き火にかざす。

 どんどん寒くなってくる。

は隣の温もりに身体を寄せて、ひとつ息を吐いた。

『考えたら、長い旅路だったね』は聲を零す。

 彼も『うん』と謂って、外套を身体に巻きつけて身動みじろぐ。

『でもね、こんな事を言うのはよくない事なのかもしれないけど』

『なに?』

『僕は、この長い出来事の中で……この世に生まれ落ちてよかったと思ったんだ』

『どうして』

『こうやって、シノに会えたから』

は彼の聲に、ぐっと唇を噛んで、自分の外套に包まって膝を抱える。

『どこからそんなこと…… ———— 』は謂う。

(まるで、本当に僕に言われているようで。僕もと同じ気持ちになる)

 嬉しいんだ。心底、涙が出るほどその言葉が。

 それでも、この先を考えると悲しくて、ひどく寂しい気持ちになる。

 そして思う。

を知っていると。

(知っている? 僕が知っているのか? それとも夢の中の僕・が知っていることなのか?)

『僕も不安だよ』彼が謂う。

呼応共鳴しての考えを読み取ったように。

『でも■を殺したら、きっと僕達のような命はもう生まれない。だから、次に悲しみが生まれないように、僕達がやらなくちゃいけない』

『■を殺したら、どうなると思う?』

『わからない……でもね』彼が聲を零す。

『たとえ、この世のことわりが崩れて世が滅んでも……僕は……シノが生きていればいい。シノが、僕の生きるつかなんだから』

は悲しくなって、眉間に皺を寄せる。

 そんな事を謂って欲しいんじゃない。

 それでも、世に落ちるはずがなかったこの命をつかとさえ謂ってくれる彼に、僕はひどく心を寄せてしまう。

(僕は、生まれるはずがなかった命なのか?)

『そう云うところが……』

は思わず零した。

『嫌いだ』と謂おうとした。

 けれど、思い直して『羨ましい』と言葉を変えた。

『どうして?』彼が謂う。

『俺は、そんな風に人を信ずることができないから』

『そうかな。僕はシノが羨ましいよ。シノみたいに僕も自分を信じていたかった』

 自分を信じる。そんな事、至極当たり前な気がする。

 だって、生まれた時から手元にあるものなんて “自分” しか無いじゃないか。

(確かにそうだと思う。けれど、それは僕の気持ちにそぐわない)

『俺達が逆だったら……何か変わっていたと思う?』

が謂うと、彼は首を傾げて笑った。

『もしもの話は解らないよ』

 少しいとまが空いて、彼が『ねぇ』と言葉を零した。

『シノも寂しい気持ちなら、一緒にうたうたって。昔みたいに』

(今更、なんて子供じみた事をするんだろう)

 昔。どれくらい昔のことだったかと思いを巡らせる。

 そして思い出したのは、本当に遠い記憶。

 お互いに小さかった時の事。

『僕とシノで、心配事を半分こしよう』彼が謂う。

(僕と彼は、どれ程前から一緒に時を過ごしていたんだろう)

 彼が戸惑いがちに、微かにに身体を寄せた。

 外套越しに温もりを感じる。そして、それさえ懐かしく感じる。

『ねぇ、もっと深く呼応共鳴して』

 彼が謂った。

(歌を歌うなんて、突飛な発想だ。そう思うのに)

は彼の言葉に素直に頷いて、彼と一緒に譜を口遊くちずさむ。

Ll uijiはじまりが聴こえる

(これは何処の言葉なのだろう)

 懐かしい。

 深く呼応共鳴する。

の意識が掬い上げられるように。

(なぜ僕は意味を知っているのだろう)

 自分自身を思い出す。

(この聲を持つ、彼は誰なのだろう)

Ill r-rtlawそして Soi nney僕に Chw okgwa思い出させた
MMokk Solriqa
MMo sba姿
sal he mshiy名残も Yol u-n遥か kamlkoliJo Molli遠く霞めども
yiaLL嗚呼
N ldljinak-it君と共に Hk keney Gwillいた時のこと ha』

 そして最後、彼は真名まなを喚んだ。

 まるで、今生の別れのように。

(そして、この夢の終わりを告げるように)


Ll jilljallおやすみ 梓乃シノ
しおりを挟む
▶︎ TSUKINAMI project【公式HP】
▶︎ キャラクター設定
X(旧Twitter)|TSUKINAMI project【公式HP】

<キャラによる占いも好評公開中!>
▶︎ キャラが今日の運勢を占ってくれる!
X(旧Twitter)|Cafe Dawn【仮想空間占いカフェ】
====================
TSUKINAMI project とは
アートディレクターの赤月瀾が
オリジナルキャラクターで
いろんなことをするコンテンツ。
====================
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

扉の向こうは黒い影

小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。 夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『怪蒐師』――不気味な雇い主。おぞましいアルバイト現場。だが本当に怖いのは――

うろこ道
ホラー
『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」

もしもし、あのね。

ナカハラ
ホラー
「もしもし、あのね。」 舌足らずな言葉で一生懸命話をしてくるのは、名前も知らない女の子。 一方的に掛かってきた電話の向こうで語られる内容は、本当かどうかも分からない話だ。 それでも不思議と、電話を切ることが出来ない。 本当は着信なんて拒否してしまいたい。 しかし、何故か、この電話を切ってはいけない……と…… ただ、そんな気がするだけだ。

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

処理中です...