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百舌
0.38 時は瞬く間に過ぎ去った
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オレは、とてつもなく後悔した。
あんまり寝てなかったし。目の前で魁君が死にかけたりして、動揺してたし。シュンさんがやつれた顔をしていたし。そんな。色んなどうしようもない、馬鹿みたいな言い訳を瞬時に頭の中で用意し始めるくらいには。
どれだけ時間が経ったんだろう。それでも、シュンさんは何も言わなかった。
オレは、とうとうこの沈黙に耐えられなかった。
「ごめんなさい」
オレの言葉に、シュンさんが一言、いや、と呟いたのが聞こえた。
「出すぎたこと、言いました」
オレはそうとも言って、ベンチに座って足をあげて膝を抱え込んだ。そして膝に顔を埋めて、深く息を吸って、静かに吐きだした。
少しして、シュンさんの小さく息を吸う音が聞こえた。
「とても……気を、遣わせてしまっていたみたいだね」
優しいシュンさんの声に、オレは思わず顔を上げた。いつの間にか隣に座ったシュンさんが、困ったような、泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「どうして、そこまで僕のためにしてくれるのかな……」
そうやって、シュンさんが何かに耐えるように言うから。
「あなたの寂しさが、多分わかるから」
オレは即答した。
「でも、言葉だけで “わかるよ” って言われたって、そんなのただの慰めにしかならないってオレも知ってる。口先だけなら誰だって言える。だから、オレは本当にわかるよって言うために、口だけじゃなくて、行動で示します」
「そう」
「オレ……、父さんも、母さんも死んで。引き取ってくれそうな親戚も思い当たらなかった。だからなんのために、どうやって生きればいいのか分かんなかった。それに、あんまりにも急で。寂しかったし、悔しかったんだと思う。だから、その寂しさを切り捨てるためにここに来たけど……。でも。結局、ここに来ただけじゃ、そんなの捨てきれなかった。
戸籍を捨てて、この世にいない存在になっても……、気持ちは捨てられなかった。ずっと寂しくて、辛くて、知らない幸せそうな誰かが恨めしくて、どうしようもなくて。
だけど…………。シュンさんも同じ寂しさを耐えてるって。それを、会った時に何となく感じて。琉央さんの話を聞いた時に納得しました。あぁ、この気持ちに耐えてる人はオレだけじゃなかったって。……そう思ったら、安心した。
そのおかげで、生きていても、きっと大丈夫だって思えた。心に、生きるためのつっかえができたみたいに」
「そう……」
「だから、シュンさんのためにオレも何かしたい」
オレは真剣に言ったつもりだった。なのに、シュンさんは「ふふふっ」と笑って首を傾げて目を細めた。
「僕は会ったばかりの君を殺そうとしたのに? どこからそんなこと…… ———— 」
「———— あんなんじゃ死なないです。手加減してたクセに」
「そうかな」
「それに、ここにいて分かったけど、あの反応がきっと普通だと思う。オレも知らない奴があそこにいたら逃げないようにとっ捕まえますから」
「あはっ、頼もしいね」
おどけて笑うシュンさんに、オレはまたむっとして、眉間にシワを寄せて「本当です」と強く主張した。
すると、笑っていたシュンさんが急に黙り込んだ。そして唇を薄く開けて息を浅く吸う。今まで笑っていたのが嘘みたいに、真剣な顔だった。
「ダメだよ」
シュンさんの声色は変わらなかった。
「君は、君自身を大切にした方が ———— 」
「———— してます。オレは……オレの気持ちを、大事にしてる」
オレがあんまりにもはっきり答えたからかもしれない。シュンさんは驚いた顔をして、目を見開いていた。
それでも、オレはじっとシュンさんを見つめ続けた。
これが口からの出任せじゃないって、必死で伝えたかった。
シュンさんが目を逸らす。
そして、ひどく震えた声で、一言
「やっぱり、君はとっても優しい人だね」
そう小さく呟いた。
あんまり寝てなかったし。目の前で魁君が死にかけたりして、動揺してたし。シュンさんがやつれた顔をしていたし。そんな。色んなどうしようもない、馬鹿みたいな言い訳を瞬時に頭の中で用意し始めるくらいには。
どれだけ時間が経ったんだろう。それでも、シュンさんは何も言わなかった。
オレは、とうとうこの沈黙に耐えられなかった。
「ごめんなさい」
オレの言葉に、シュンさんが一言、いや、と呟いたのが聞こえた。
「出すぎたこと、言いました」
オレはそうとも言って、ベンチに座って足をあげて膝を抱え込んだ。そして膝に顔を埋めて、深く息を吸って、静かに吐きだした。
少しして、シュンさんの小さく息を吸う音が聞こえた。
「とても……気を、遣わせてしまっていたみたいだね」
優しいシュンさんの声に、オレは思わず顔を上げた。いつの間にか隣に座ったシュンさんが、困ったような、泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「どうして、そこまで僕のためにしてくれるのかな……」
そうやって、シュンさんが何かに耐えるように言うから。
「あなたの寂しさが、多分わかるから」
オレは即答した。
「でも、言葉だけで “わかるよ” って言われたって、そんなのただの慰めにしかならないってオレも知ってる。口先だけなら誰だって言える。だから、オレは本当にわかるよって言うために、口だけじゃなくて、行動で示します」
「そう」
「オレ……、父さんも、母さんも死んで。引き取ってくれそうな親戚も思い当たらなかった。だからなんのために、どうやって生きればいいのか分かんなかった。それに、あんまりにも急で。寂しかったし、悔しかったんだと思う。だから、その寂しさを切り捨てるためにここに来たけど……。でも。結局、ここに来ただけじゃ、そんなの捨てきれなかった。
戸籍を捨てて、この世にいない存在になっても……、気持ちは捨てられなかった。ずっと寂しくて、辛くて、知らない幸せそうな誰かが恨めしくて、どうしようもなくて。
だけど…………。シュンさんも同じ寂しさを耐えてるって。それを、会った時に何となく感じて。琉央さんの話を聞いた時に納得しました。あぁ、この気持ちに耐えてる人はオレだけじゃなかったって。……そう思ったら、安心した。
そのおかげで、生きていても、きっと大丈夫だって思えた。心に、生きるためのつっかえができたみたいに」
「そう……」
「だから、シュンさんのためにオレも何かしたい」
オレは真剣に言ったつもりだった。なのに、シュンさんは「ふふふっ」と笑って首を傾げて目を細めた。
「僕は会ったばかりの君を殺そうとしたのに? どこからそんなこと…… ———— 」
「———— あんなんじゃ死なないです。手加減してたクセに」
「そうかな」
「それに、ここにいて分かったけど、あの反応がきっと普通だと思う。オレも知らない奴があそこにいたら逃げないようにとっ捕まえますから」
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「やっぱり、君はとっても優しい人だね」
そう小さく呟いた。
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