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百舌
0.34 ついに君はいなくなって
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「っう……」
右肩の方から小さなうめき声が聞こえて、思考が脳みそに戻ってくる。
横目で見ると、シュンさんが小さく伸びをして、ついでにあくびをしていた。目が覚めたみたいだ。
「大丈夫ですか?」
オレが尋ねると、シュンさんは「うぅん」とか言いながら更にもう一回大きく伸びをした。
そして間を置いて、小さく驚いたように息を吸った。
「っあれ……、零じゅ…… ———— 」
シュンさんが驚いた顔でこちらを見た。口が開きっぱなしの焦った顔と目があった。
「シュンさん?」
声を掛けた。
途端に「あ」とシュンさんが気まずい顔になる。
慌てたシュンさんの膝から書類が落ちて、廊下にバラバラと散らばった。
「あ……はは、一也。……えっと、大丈夫。ごめんね」
「何やってんですか、あんた」
「えへへへ、恥ずかしいところ、見られちゃったな」
シュンさんがベンチから降りて、そそくさと散らばった書類を片し始める。オレもそれを手伝おうとベンチを降りる。
書類にはよく分からない難しい文章が並んでいた。その上、一瞬『機密』みたいな字が見えたような気がした。こんなに撒き散らかして大丈夫なのか?
手元に束ねた書類を軽く整えてシュンさんに手渡す。シュンさんがへらへらしながらそれを受け取った。
まだ焦った顔してる。きっと、オレと零樹さんを間違えたから。
「シュンさん」と、オレは思わず呟いた。
「……なぁに?」
「ごめんなさい。オレ、琉央さんから全部聞きました。零樹さんのこと」
「……」
シュンさんは無表情だった。
「だから、気にしないでください」
オレが言うと、シュンさんは少し泣きそうな顔で、はぁ、とため息を吐いた。
「…………ごめんね。ちょっと。嫌な夢を見て。寝ぼけてただけだから。忘れてほしいな」
シュンさんは書類を膝の上で束ねて、傍に置いてあったファイルに突っ込んだ。
「僕は、とても失礼な奴だね……。許してほしい。でも……言い訳をするとね。君が、あんまりにも零樹に……前の相棒に、似ているから。思い出すんだ。君を見てると。だからと言って、寝ぼけ眼で人違いをするなんて。失礼極まりない話なんだけれど…… ———— 」
「別にっ……そんな事ないです」
「———— あはは、君はほんとうに優しいんだね」
まるで捨て台詞を吐くみたいなシュンさんに、オレは少しむっとした。でもその気持ちが分かる気がして、複雑な心持ちだった。
きっと、そのせいだ。
「別に……オレのこと、零樹さんの代わりにしてくれていいです」
オレはつい、そのせいで、そうやってシュンさんを困らせるような言い方をしたんだと思う。
シュンさんの顔は、怖くて見れなかった。
なのに、言葉を止めることができなくて、オレは下を向いたまま、言い訳みたいに小さく言葉を続けた。
「……オレ、頑張るから。あなたの背中を守れるくらい、任務を一人前に遂行できるくらい、あんたの前から死んでいなくならないように、強くなるから。その時は……代わりじゃなくて、オレを、本当の相棒にして……ほしい、です」
言って、少し間があった。けれどシュンさんは何も言わなかったし、微動だにもしなかった。
右肩の方から小さなうめき声が聞こえて、思考が脳みそに戻ってくる。
横目で見ると、シュンさんが小さく伸びをして、ついでにあくびをしていた。目が覚めたみたいだ。
「大丈夫ですか?」
オレが尋ねると、シュンさんは「うぅん」とか言いながら更にもう一回大きく伸びをした。
そして間を置いて、小さく驚いたように息を吸った。
「っあれ……、零じゅ…… ———— 」
シュンさんが驚いた顔でこちらを見た。口が開きっぱなしの焦った顔と目があった。
「シュンさん?」
声を掛けた。
途端に「あ」とシュンさんが気まずい顔になる。
慌てたシュンさんの膝から書類が落ちて、廊下にバラバラと散らばった。
「あ……はは、一也。……えっと、大丈夫。ごめんね」
「何やってんですか、あんた」
「えへへへ、恥ずかしいところ、見られちゃったな」
シュンさんがベンチから降りて、そそくさと散らばった書類を片し始める。オレもそれを手伝おうとベンチを降りる。
書類にはよく分からない難しい文章が並んでいた。その上、一瞬『機密』みたいな字が見えたような気がした。こんなに撒き散らかして大丈夫なのか?
手元に束ねた書類を軽く整えてシュンさんに手渡す。シュンさんがへらへらしながらそれを受け取った。
まだ焦った顔してる。きっと、オレと零樹さんを間違えたから。
「シュンさん」と、オレは思わず呟いた。
「……なぁに?」
「ごめんなさい。オレ、琉央さんから全部聞きました。零樹さんのこと」
「……」
シュンさんは無表情だった。
「だから、気にしないでください」
オレが言うと、シュンさんは少し泣きそうな顔で、はぁ、とため息を吐いた。
「…………ごめんね。ちょっと。嫌な夢を見て。寝ぼけてただけだから。忘れてほしいな」
シュンさんは書類を膝の上で束ねて、傍に置いてあったファイルに突っ込んだ。
「僕は、とても失礼な奴だね……。許してほしい。でも……言い訳をするとね。君が、あんまりにも零樹に……前の相棒に、似ているから。思い出すんだ。君を見てると。だからと言って、寝ぼけ眼で人違いをするなんて。失礼極まりない話なんだけれど…… ———— 」
「別にっ……そんな事ないです」
「———— あはは、君はほんとうに優しいんだね」
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