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百舌
0.33 やっと辿り着いたこの場所で
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目の前に広がる光景に戦慄した。
現場はオレたちの屯所近くの都市公園だった。
オレとシュンさんはそれぞれ準備を整えて、公園の中央にある広場まで進行した。
薄暗い広場まで進んだ時、木々の隙間から見えたのは目玉がたくさんくっついた『カイカイさん』と交戦する琉央さんの姿だった。激しい戦闘の痕が所々に見える。
「そこに待機していてね」
少し焦ったように、でも優しくシュンさんが言った。
オレは走って行くシュンさんの後ろ姿を見送って、言われた通りその場所に待機した。
いや。
そうすることしか、オレにはできなかった。
目の前で起こっている状況を、脳みそで理解することに必死だったし、恐怖で足が竦んでいた。
『カイカイさん』という存在は知っていた。
名前だけは都市伝説で有名だったし、魁君からも詳しい内容は聞いていた。でも、実際に見るのは初めてだった。
地面にワイヤーで押さえつけられている、ヌルヌルとした肉の塊も。
転がっている長く変形した腕も。びちゃびちゃと、音を立てて、ぐねぐねと蠢く切り捨てられたなにかも。
地面に溜まる赤黒い液体も。
琉央さんを攻撃している、また別の、首のないそいつも。
怖かった。気持ち悪かった。
こっちに来たらどうしよう。そう思った。
今にもこっちに気が付いて、襲ってくるんじゃないかと気が気じゃなかった。
落っこちている腕や足が大きい赤黒い芋虫みたいで。そいつらだって今にもこっちに向かってきそうで、背中が凍った。
怖い。なのに、全部、目が離せない。
生き物とは思えないほど素早くグニュグニュと蠢く腕と、人の両足と全く同じ動きをする赤黒い脚。
心臓がうるさい。
ホラー映画みたいだと頭の端で思った。
でも、これは映画なんかじゃない。
風で舞う土埃が汗ばんだ顔に張り付くような感覚も、熱された地面の匂いも。遠くでぐちゃぐちゃと響く音も。全部。まさしく本物だった。
琉央さんが、無駄のない動きでそいつの攻撃を受け止めた。
そして次の瞬間、攻撃を跳ね返した琉央さんが、目にも留まらぬ速さでワイヤーを投げるのが見える。
驚いた。
琉央さんがああやって戦っているのを、オレは想像したことも無かった。すぐに思い浮かぶ琉央さんは、コンピュータの画面と睨めっこしていたり、静かに書類に目を通す姿だったからだ。
でも、丹の殲滅と言う任務に身を置いているのに、戦闘技術を身につけていない方がどうかしてる。
琉央さんも、委員会のメンバーだったんだな、と。心底、失礼ながら感心して。
同時に、酷く悔しくなった。到底、追い付けないと思った。
オレだって、空手や柔道を高校の授業でやり始めたけれど。全然、まだ基礎だっておぼつかないのに。
焦る。まだ知らない事ばかりで。
早く。早く。オレは早くシュンさんの隣に立ちたいのに。
そうしないと。
どうして。なんで、オレはこんなにも ————
———— その時だった。
そいつの傍に落ちていた、芋虫みたいな腕が独りでに動き始めた。
「っ……!」
オレは体が震えた。
腕から無数の目玉が生えてきて、どこかを睨みつけて、そのまま指で地面を走り始めたからだ。
どんどん加速する。
向かう先を見守る。木陰で見えない。
少し姿勢を変えて、琉央さんの後ろ側が見える位置に移動した。
「———— 魁君っ!!」
思わず声が出た。
魁君がそこに倒れていた。
左腕から血が流れていた。魁君目掛けて腕が突進する。
マズい。咄嗟に思った。
魁君が死ぬ。
気が付いた時には体が動いていた。
オレが飛び出したところで出来ることなんてなにも無いことはわかっていた。
手が魁君に迫る。
魁君が銃に手を伸ばしたのが見えた。
まだ意識がある!
必死にオレは走った。
あと少し。
ダメだ、奴が早すぎる。
間に合わない!
魁君!!
現場はオレたちの屯所近くの都市公園だった。
オレとシュンさんはそれぞれ準備を整えて、公園の中央にある広場まで進行した。
薄暗い広場まで進んだ時、木々の隙間から見えたのは目玉がたくさんくっついた『カイカイさん』と交戦する琉央さんの姿だった。激しい戦闘の痕が所々に見える。
「そこに待機していてね」
少し焦ったように、でも優しくシュンさんが言った。
オレは走って行くシュンさんの後ろ姿を見送って、言われた通りその場所に待機した。
いや。
そうすることしか、オレにはできなかった。
目の前で起こっている状況を、脳みそで理解することに必死だったし、恐怖で足が竦んでいた。
『カイカイさん』という存在は知っていた。
名前だけは都市伝説で有名だったし、魁君からも詳しい内容は聞いていた。でも、実際に見るのは初めてだった。
地面にワイヤーで押さえつけられている、ヌルヌルとした肉の塊も。
転がっている長く変形した腕も。びちゃびちゃと、音を立てて、ぐねぐねと蠢く切り捨てられたなにかも。
地面に溜まる赤黒い液体も。
琉央さんを攻撃している、また別の、首のないそいつも。
怖かった。気持ち悪かった。
こっちに来たらどうしよう。そう思った。
今にもこっちに気が付いて、襲ってくるんじゃないかと気が気じゃなかった。
落っこちている腕や足が大きい赤黒い芋虫みたいで。そいつらだって今にもこっちに向かってきそうで、背中が凍った。
怖い。なのに、全部、目が離せない。
生き物とは思えないほど素早くグニュグニュと蠢く腕と、人の両足と全く同じ動きをする赤黒い脚。
心臓がうるさい。
ホラー映画みたいだと頭の端で思った。
でも、これは映画なんかじゃない。
風で舞う土埃が汗ばんだ顔に張り付くような感覚も、熱された地面の匂いも。遠くでぐちゃぐちゃと響く音も。全部。まさしく本物だった。
琉央さんが、無駄のない動きでそいつの攻撃を受け止めた。
そして次の瞬間、攻撃を跳ね返した琉央さんが、目にも留まらぬ速さでワイヤーを投げるのが見える。
驚いた。
琉央さんがああやって戦っているのを、オレは想像したことも無かった。すぐに思い浮かぶ琉央さんは、コンピュータの画面と睨めっこしていたり、静かに書類に目を通す姿だったからだ。
でも、丹の殲滅と言う任務に身を置いているのに、戦闘技術を身につけていない方がどうかしてる。
琉央さんも、委員会のメンバーだったんだな、と。心底、失礼ながら感心して。
同時に、酷く悔しくなった。到底、追い付けないと思った。
オレだって、空手や柔道を高校の授業でやり始めたけれど。全然、まだ基礎だっておぼつかないのに。
焦る。まだ知らない事ばかりで。
早く。早く。オレは早くシュンさんの隣に立ちたいのに。
そうしないと。
どうして。なんで、オレはこんなにも ————
———— その時だった。
そいつの傍に落ちていた、芋虫みたいな腕が独りでに動き始めた。
「っ……!」
オレは体が震えた。
腕から無数の目玉が生えてきて、どこかを睨みつけて、そのまま指で地面を走り始めたからだ。
どんどん加速する。
向かう先を見守る。木陰で見えない。
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「———— 魁君っ!!」
思わず声が出た。
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魁君!!
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