44 / 107
露命
0.30 ひみつを埋める
しおりを挟む
夜の8時。
ちょうど、カフェのテーブルでシュンちゃんのお手伝いをしていた頃だった。含満先生、通称みっちゃんから俺のプライベートスマホに連絡があった。
『ツツジくん。お疲れ様。
無事任務完了しましたよ。
ご心配のレンくんですが、
見事一撃で無害化成功しておりました。
さすが少佐様の相棒ですね。
以上。含満』
俺は思わず、おぉ、と呟いて隣にいたシュンちゃんにその画面を見せびらかした。
「カズ、はじめてのおしごと大成功だって~」
すると、シュンちゃんはお上から配布されたつまらない資料を見たまま「そう、よかった」と呟いた。
つれない。いつもは「むやみに外部と連絡とるなんて危ないだろ」だとか「どこで連絡先交換したの」だとか小言が飛んでくるのに。そう思いつつ、俺はそのままシュンちゃんを見つめる。
シュンちゃんはつい10分くらい前からずっと同じ格好で同じ資料を読み続けている。動かすのは目とページをめくる手だけ。
最近、特に、一也が委員会に入ってから、シュンちゃんは様子がおかしかった。
琉央くんから無理やり聞き出した情報によると、一也がシュンちゃんの前の相棒に似ていることが原因らしい。
(そういった、人の心情の関わる情報については、琉央くんの情報網が役に立たないことが多いけど。おそらく、今回に限っては、間違っていないような気がした)
現世に興味がないようなシュンちゃんにとって、零樹さんが唯一と言っていいほど特別な存在だったのは俺にも十分すぎるくらい伝わっていた。シュンちゃんが嬉々として話す昔話は、全部零樹さんのことだったから。
俺自身は零樹さんに会ったことがない。けれど、シュンちゃんが取り乱している様子からするに、かなり似てるんだろうなぁと推測できた。
俺はまとめていた書類をファイルに入れて、シュンちゃんの手元にそっと置く。そして、ねぇ、と声をかけた。
「カズのこと」
「うん?」
「避けてるでしょ」
「……そう見える?」
「見える。バレバレ。シュンちゃんらしくないよ。まぁ、詳しい事はよくわかんないし、最近死ぬほど忙しいのは本当だろうけど」
俺が言うと、シュンちゃんは書類をテーブルに置いてため息をついた。
「僕、稚拙なんだ、そういうところ」
「そんな風には思わないけど。まぁ、カズがかわいそうだなぁとは思う~」
俺の言葉にシュンちゃんは黙り込んでじっと前を見つめる。
シュンちゃんの崇高な思考回路は、俺にはさっぱりわからない。けれど、このままだと一也とシュンちゃんの関係は何も進まなそうだな、というのはなんとなく察していた。
しょうがないな。うちの古参はみんな手が掛かるんだから。
(2人しかいないけどね。てか、4人のうち2人も手が掛かるなんてこの組織ヤバくない?)
「今日、カズすっごく頑張ったらしいし、あったかいご飯作って待っててあげようかなぁ、と思ってたんだけど~……」
言いながら俺はシュンちゃんの顔を覗き込む。シュンちゃんが眉間にしわを寄せた。
「僕に作れって?」
「それ~! 話が早くて助かる~。ねぇねぇ! もう資料読み終わったでしょ? 俺、久しぶりにシュンちゃんのトマトとナスのパスタ食べたい~! ねぇねぇ!」
俺が肩をぺしぺし叩くと、シュンちゃんが「わかった、わかったよ」と言いながら椅子から立ち上がった。
そして「トマト缶あったかなぁ」とか言いながら厨房に向かう。
お、案外とノリノリじゃん。シュンちゃんお料理好きだしなぁ。
あ、そうだ、と俺は思い付いてシュンちゃんの後を追う。
「シュンちゃん明日午後からでしょ? お酒飲みたい! 一緒に飲も! 白ワインあったよね!」
「もぉ、体に障っても知らないからね?」
「大丈夫! 大丈夫!」
俺は言いながら、冷蔵庫の隣の小さなワインセラーを覗く。
ちょっと前に買っておいた樽熟成の白ワインがあったはずだ。
シュンちゃんは、お酒飲ませると少しは素直になるからね。と、口実と言う名の言い訳をしつつ、お目当のワインに手を伸ばす。
少しして、トマト缶を見つけたらしいシュンちゃんの鼻歌が奥から聞こえてくる。
俺はその歌を聴きながらテーブルの上を片付ける。
そのうちに、にんにくとオリーブオイルのいい匂いがしてくる。途端にお腹が空いてきた。
毎回思うけど、シュンちゃんの料理は、匂いからして美味しそうだ。
俺も料理はよくするけど、シュンちゃんみたいにお店で出せるレベルのものは作れない。
確か、調理師免許持ってたんじゃなかったかな。それじゃ敵うわけないよね。ってかいつそんなもの取ったんだろう。ウケる。
俺はおとなしくサラダとスープの用意でもするか。
思いながら、俺は一足先にグラスに注いだワインを一口、口に含んだのだった。
ちょうど、カフェのテーブルでシュンちゃんのお手伝いをしていた頃だった。含満先生、通称みっちゃんから俺のプライベートスマホに連絡があった。
『ツツジくん。お疲れ様。
無事任務完了しましたよ。
ご心配のレンくんですが、
見事一撃で無害化成功しておりました。
さすが少佐様の相棒ですね。
以上。含満』
俺は思わず、おぉ、と呟いて隣にいたシュンちゃんにその画面を見せびらかした。
「カズ、はじめてのおしごと大成功だって~」
すると、シュンちゃんはお上から配布されたつまらない資料を見たまま「そう、よかった」と呟いた。
つれない。いつもは「むやみに外部と連絡とるなんて危ないだろ」だとか「どこで連絡先交換したの」だとか小言が飛んでくるのに。そう思いつつ、俺はそのままシュンちゃんを見つめる。
シュンちゃんはつい10分くらい前からずっと同じ格好で同じ資料を読み続けている。動かすのは目とページをめくる手だけ。
最近、特に、一也が委員会に入ってから、シュンちゃんは様子がおかしかった。
琉央くんから無理やり聞き出した情報によると、一也がシュンちゃんの前の相棒に似ていることが原因らしい。
(そういった、人の心情の関わる情報については、琉央くんの情報網が役に立たないことが多いけど。おそらく、今回に限っては、間違っていないような気がした)
現世に興味がないようなシュンちゃんにとって、零樹さんが唯一と言っていいほど特別な存在だったのは俺にも十分すぎるくらい伝わっていた。シュンちゃんが嬉々として話す昔話は、全部零樹さんのことだったから。
俺自身は零樹さんに会ったことがない。けれど、シュンちゃんが取り乱している様子からするに、かなり似てるんだろうなぁと推測できた。
俺はまとめていた書類をファイルに入れて、シュンちゃんの手元にそっと置く。そして、ねぇ、と声をかけた。
「カズのこと」
「うん?」
「避けてるでしょ」
「……そう見える?」
「見える。バレバレ。シュンちゃんらしくないよ。まぁ、詳しい事はよくわかんないし、最近死ぬほど忙しいのは本当だろうけど」
俺が言うと、シュンちゃんは書類をテーブルに置いてため息をついた。
「僕、稚拙なんだ、そういうところ」
「そんな風には思わないけど。まぁ、カズがかわいそうだなぁとは思う~」
俺の言葉にシュンちゃんは黙り込んでじっと前を見つめる。
シュンちゃんの崇高な思考回路は、俺にはさっぱりわからない。けれど、このままだと一也とシュンちゃんの関係は何も進まなそうだな、というのはなんとなく察していた。
しょうがないな。うちの古参はみんな手が掛かるんだから。
(2人しかいないけどね。てか、4人のうち2人も手が掛かるなんてこの組織ヤバくない?)
「今日、カズすっごく頑張ったらしいし、あったかいご飯作って待っててあげようかなぁ、と思ってたんだけど~……」
言いながら俺はシュンちゃんの顔を覗き込む。シュンちゃんが眉間にしわを寄せた。
「僕に作れって?」
「それ~! 話が早くて助かる~。ねぇねぇ! もう資料読み終わったでしょ? 俺、久しぶりにシュンちゃんのトマトとナスのパスタ食べたい~! ねぇねぇ!」
俺が肩をぺしぺし叩くと、シュンちゃんが「わかった、わかったよ」と言いながら椅子から立ち上がった。
そして「トマト缶あったかなぁ」とか言いながら厨房に向かう。
お、案外とノリノリじゃん。シュンちゃんお料理好きだしなぁ。
あ、そうだ、と俺は思い付いてシュンちゃんの後を追う。
「シュンちゃん明日午後からでしょ? お酒飲みたい! 一緒に飲も! 白ワインあったよね!」
「もぉ、体に障っても知らないからね?」
「大丈夫! 大丈夫!」
俺は言いながら、冷蔵庫の隣の小さなワインセラーを覗く。
ちょっと前に買っておいた樽熟成の白ワインがあったはずだ。
シュンちゃんは、お酒飲ませると少しは素直になるからね。と、口実と言う名の言い訳をしつつ、お目当のワインに手を伸ばす。
少しして、トマト缶を見つけたらしいシュンちゃんの鼻歌が奥から聞こえてくる。
俺はその歌を聴きながらテーブルの上を片付ける。
そのうちに、にんにくとオリーブオイルのいい匂いがしてくる。途端にお腹が空いてきた。
毎回思うけど、シュンちゃんの料理は、匂いからして美味しそうだ。
俺も料理はよくするけど、シュンちゃんみたいにお店で出せるレベルのものは作れない。
確か、調理師免許持ってたんじゃなかったかな。それじゃ敵うわけないよね。ってかいつそんなもの取ったんだろう。ウケる。
俺はおとなしくサラダとスープの用意でもするか。
思いながら、俺は一足先にグラスに注いだワインを一口、口に含んだのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員
眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~
潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
彷徨う屍
半道海豚
ホラー
春休みは、まもなく終わり。関東の桜は散ったが、東北はいまが盛り。気候変動の中で、いろいろな疫病が人々を苦しめている。それでも、日々の生活はいつもと同じだった。その瞬間までは。4人の高校生は旅先で、ゾンビと遭遇してしまう。周囲の人々が逃げ惑う。4人の高校生はホテルから逃げ出し、人気のない山中に向かうことにしたのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる