『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

文字の大きさ
上 下
39 / 107
朝顔

0.25 時は僕を置いていく

しおりを挟む
牽牛けんぎゅう町の葬儀場に到着したのは18時を少し過ぎた頃だった。

 だいぶ日が長くなった。この時間でも辺りはまだ明るい。

 けれど、周りは田畑ばかりで街灯は多くない。もう少ししたら途端に真っ暗になって、星がよく見えるに違いない。

 気分転換にはいい場所だ。恐らく、近頃ことに気を揉んでいる一也にとって。

「ハクさん」

 呼ばれて振り返る。早々に車を降りた一也、もとい、レンが、後部座席の荷物を漁りながらこちらを見ていた。

 ハクというのは僕の偽名だ。基本的に外に出たら、どんな状況下でもお互いに偽名で呼び合う規則になっている。

 偽名に加えて、今日の僕は納棺師、レンはその手伝いをしている弟子という設定が付与されている。

 今回の任務は、この葬儀場に運ばれてきた赤い斑点のある遺体、つまり、進行が極めて遅い軽度の丹電子障害に侵された死体の無害化が主な目的だ。

「荷物はどれを持っていくの?」レンが尋ねてくる。

「1番の黒いリュックだけでいい。不安なら補助で5番のバッグを持っていけばいい」

「分かった」

 レンが答えて、手際よく荷物を整理し始める。彼はとても真面目で要領がいい。管理番号を振った荷物の一覧や、任務に使う道具の名称もあっという間に覚えてしまった。

 今回は “協力者” も既に現場で待機していると聞いている。任務の難易度も低い。この調子なら、僕が手出ししなくともレン一人で十分やり遂げられるだろう。

 故人の体内にある微量の丹と同調し、表皮に針を刺した衝撃で無害化させる。今までの特訓の復習にちょうどいい事案だ。一発で殲滅出来れば上等だし、失敗しても何度だってやり直せる。

 死体と聞かされた当初はレンも戸惑っていた。|(目的地が葬儀場だと伝えた途端落ち着いて話を聞いていたが)

 後々聞けば、道端に転がっている死体でも想像していたらしい。ドラマの見過ぎだと内心笑った。

 きっと何も聞かされずに委員会に入会したのだろうし、未知の状況に遭遇し、その上世界を救えだの大人達から過度な期待を掛けられる。

 突拍子もない思考に陥っても無理はない。僕もかつて、そうだったような気がする。

 荷物を持ったレンを伴って葬儀場に入る。小ぎれいで広めの建物だ。受付に一言声を掛けて、そのまま奥のエントランスに進んだ。

 見知った顔が見えた。本部の言っていた “協力者” だ。書類を読んでいるらしい。まだこちらに気が付かない。

 懐かしい。協力者とは彼女の事だったか。

「お久しぶりです。先生」

 声を掛けると、先生は読んでいた書類から顔を上げてこちらを向いた。

 目があって、途端に表情が明るくなる。

「お久しぶり。待ってたわ」

 そう言った先生は、少し前に会った時と変わらない様子だった。

 白髪の髪を綺麗に上にまとめて、紺のパンツスーツ姿だ。結構な歳のはずなのに、いつまでも若々しい。

 レンが僕の隣で丁寧に会釈する。

「こちら、僕の所で働き始めた瑞乃みずのです」

 紹介すると先生は嬉しそうに、あらぁ、と表情を緩めた。

「瑞乃君、初めまして。ハク君の元上司の含満ふくみつ佐保さほです」

 元上司、というのは嘘ではない。ここでは納棺師の、と言う枕詞を含んでいるが、実際は緊急対策研究室で上司と部下の関係だった。

 僕は警衛委員会に加入する1年ほど前から研究室の研究員として勤めていた。その時に世話になったのが先生だった。

 先生は今年の3月に定年退職し、現在は協力者として研究室に有用な情報を提供していると聞いた。

「先生、今日はよろしくお願いします」

 僕が言うと、先生は上品に笑った。

「こちらこそ。お手伝いに来てもらって悪いわね」

「いえ」

 先生は「早速で悪いけれど」と言いながら僕たちを奥の部屋へと促した。
しおりを挟む
▶︎ TSUKINAMI project【公式HP】
▶︎ キャラクター設定
X(旧Twitter)|TSUKINAMI project【公式HP】

<キャラによる占いも好評公開中!>
▶︎ キャラが今日の運勢を占ってくれる!
X(旧Twitter)|Cafe Dawn【仮想空間占いカフェ】
====================
TSUKINAMI project とは
アートディレクターの赤月瀾が
オリジナルキャラクターで
いろんなことをするコンテンツ。
====================
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

扉の向こうは黒い影

小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。 夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『怪蒐師』――不気味な雇い主。おぞましいアルバイト現場。だが本当に怖いのは――

うろこ道
ホラー
『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」

もしもし、あのね。

ナカハラ
ホラー
「もしもし、あのね。」 舌足らずな言葉で一生懸命話をしてくるのは、名前も知らない女の子。 一方的に掛かってきた電話の向こうで語られる内容は、本当かどうかも分からない話だ。 それでも不思議と、電話を切ることが出来ない。 本当は着信なんて拒否してしまいたい。 しかし、何故か、この電話を切ってはいけない……と…… ただ、そんな気がするだけだ。

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

処理中です...