『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

文字の大きさ
上 下
38 / 107
朝顔

0.27 たった一つの後悔だ

しおりを挟む
「よくわかったね」

 琉央さんが微かに笑う。

「……真ん中に写ってるのは?」

「シュンの前の相棒」

「相棒なんていたの」

「いたよ。ただ、一也がここにくる前に殉職した」

「っ………そう、なんだ」

 殉職。オレはその言葉に息を飲んで、また写真に目を落とす。

 その人を挟んで、右側に瀧源さん、左側に琉央さんが写っている。琉央さんは今より少し襟足が長い。そして瀧源さんは、満面の笑みで相棒に寄りかかって、今よりも遥かに子供に見えた。

「瀧源さん、幼い」

「いつも零樹れいじゅさ……その相棒にくっついて歩いて。鳥の雛みたいだったよ」

「へぇ……」

 オレは『零樹さん』と呼ばれた人に視線を移す。どことなく、この顔をどこかで見たことがようなある気がした。

「似てるんだよ」と琉央さんが言う。

「一也に、その……零樹さんが」

「……そう?」

「似てる。表情、仕草、趣味趣向、特徴が」

「へぇ……」

 ふと視界に入ったバックミラーで、写真の中の零樹さんと同じ角度で自分の顔を写してみる。

 確かに、髪を少し伸ばしたら結構似ている気がした。見たことがあるような気がしたのは、おそらく自分だったらしい。

「でも」琉央さんが呟く。

「声が、特に似てるんだよ」

「声?」

「瓜二つなんだ。聞けば聞くほど」

「ふぅん……」

 オレは黙り込んで写真をまじまじと見つめる。誰かに声が似てるなんて初めて言われた。そもそも、自分の声を意識して話した事なんて一度もなかった。

「だから」と、琉央さんは考えるようにぽつりと呟いた。

「アイツも……心中複雑なんだ。おそらく。君と零樹さんが似ているから。アイツの気持ちは、僕には到底分かりかねるが」

「……そう」

「そう」

 琉央さんはそう呟いたきり。そのまま、暫く何も言わなかった。

 オレは外を眺めながらぼうっと考え事をする。

 確かに。

 死んでしまった、大切な人にそっくりな人が、正にの代わりとして目の前に現れたら。

 かなり動揺するんだろうな。遠く霞んだ思考回路で想像する。

 死んだ母さんにそっくりな人が、母さんの代わりとして目の前に現れたら?

 似ている表情でオレを見つめて。似ている仕草で手を握って。似ている声で「一也」と呼ばれたら?

 ダメだ。涙が出そうだ。耐えられない。

 オレは考えるのをやめて外を眺めることに集中する。

 夕暮れに染まる高速道路の防音壁が涙で霞んで見える。オレはそっと、涙を溢さないように目を閉じる。

 瀧源さんにとって、きっと零樹さんはかけがえの無い存在だったんだろうな。

 あの様子だと、きっと随分早くからこの組織にいるんだろうし。長い時間、一緒にいたなら。きっと一層。

 似ている。なのに全くの別人が前にやって来たら。

 嫌だな。

 代わりがオレなんかじゃ。尚更、嫌だろうな。代わりになれるわけがない。

 オレは深くため息を吐いて、目を開く。まだ視界がぼやけていた。

 視線だけ写真に向ける。零樹さんも歪んで見える。感傷的な気持ちだからか、また涙が出そうになる。

 ズルいな、と。心底思う。隣にいる満面の笑みの瀧源さんが、やっぱり驚くほど幼くて。

 悔しい。

 オレはまた窓に寄りかかって外を眺める。

 高速道路の防音壁の隙間から赤焼けた空と赤い太陽が見えて、車の動きに合わせて光がチカチカ漏れる。

 オレにいろんな変化が訪れても、やっぱり世界の様子や現象は変わらない。そう、なんだか不思議な気分になる。

 暫く外を眺めていた。同じ景色の繰り返し。



 そしてふと、あぁ、そうか、と納得する。

 なんで、瀧源さんのことがあんなに気になっていたのか。分かった気がした。

 似てるんだ。大切な人を失った気持ちを背負っているところが。

 あの人の、本心の在りかを見失ったような目線が。オレが気持ちを隠している仕草に似ているから。

 全部投げ出してしまいたいのに、そう出来ない悲しさを。あの人から何となく感じたのかも。

 だから、怖いんだ。同じ気持ちを共有できてしまうから。オレの気持ちの奥底を覗かれた気分になるのかも。

 納得して、もう一度写真を見る。

 だけど、それを知っているからこそ。助けてあげたい。役に立ちたい。「オレもそうだよ」って言ってあげたい。

 だからきっと、オレはあの人のことが、こんなにも気にかかるんだ。
しおりを挟む
▶︎ TSUKINAMI project【公式HP】
▶︎ キャラクター設定
X(旧Twitter)|TSUKINAMI project【公式HP】

<キャラによる占いも好評公開中!>
▶︎ キャラが今日の運勢を占ってくれる!
X(旧Twitter)|Cafe Dawn【仮想空間占いカフェ】
====================
TSUKINAMI project とは
アートディレクターの赤月瀾が
オリジナルキャラクターで
いろんなことをするコンテンツ。
====================
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

申し訳ありません

aiuchi
ホラー
ショートショート。思いがけず恩師に再開できるかと思ったその時――、

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

扉の向こうは黒い影

小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。 夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

『怪蒐師』――不気味な雇い主。おぞましいアルバイト現場。だが本当に怖いのは――

うろこ道
ホラー
『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」

もしもし、あのね。

ナカハラ
ホラー
「もしもし、あのね。」 舌足らずな言葉で一生懸命話をしてくるのは、名前も知らない女の子。 一方的に掛かってきた電話の向こうで語られる内容は、本当かどうかも分からない話だ。 それでも不思議と、電話を切ることが出来ない。 本当は着信なんて拒否してしまいたい。 しかし、何故か、この電話を切ってはいけない……と…… ただ、そんな気がするだけだ。

処理中です...