『鴉』「遺伝子が定めた相棒と共鳴せよ」天涯孤独の高校生が “国家機密組織” に加入し怪異達に立ち向かう

赤月瀾

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雲雀

0.21 かつて僕たちが

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———————— ブォン


 空気が圧縮されたような大きい音がして、エレベーターのドアが開いた。

 前を歩く二人が無言でエレベーターを降りる。前を見ると、そこは大きい空港の待合室みたいな、広いエントランスが広がっていた。

 四角い大きめのタイルが敷き詰められた天井そのものが光源になって、エントランス全体を照らしている。白いタイル貼りの床が光を反射させて空間が一層明るく見えた。

 太くて白い円柱が等間隔に立っていて、その側を白衣を着た人が何人か歩いている。感心していたら、オレの涙もあっという間に引っ込んだ。

「ここが第一エントランスだ」

 琉央さんが言った。

 オレが琉央さんの方を向いたら、安心したように微かに微笑んでくれた。また心配をかけてしまったみたいだ、と思ったけれど琉央さんの顔が、おそらく珍しくて、オレはそちらに気を取られて謝りそびれてしまった。

「僕等がよく使うのがこの第一エントランス。第七エントランスまである」

琉央さんの言葉に「へぇ、広い……」とオレは的外れな相槌を打つ。

「簡単に案内するけど、見ての通りここは広い。迷わないように僕について来て」

 琉央さんが言うのと同時に、魁君がにやにやしながらオレに顔を近づけてくる。

「琉央くん方向音痴だから、最初の方シュンちゃん居ないとすぐ迷子になってたらしいよ」

「もう迷子にはならない」間髪入れずに琉央さんが言った。

 魁君のひそひそ声は琉央さんにも聞こえていたみたいだ。

「僕は覚えるのに時間を要する。だけど、覚えたら忘れない。君と違って」

「それどーゆー意味!?」

「君は覚えたと言ってすぐ忘れる。僕は覚えてないことは覚えてないときちんと言う」

「なにその言い方、マジぷんすこなんだけどー!」

 琉央さんが眉間にシワを寄せる魁君を見て少し口角を上げる。そして「行くよ一也」と呟いた。

 オレは琉央さんの横に並んで歩く。ニヤける琉央さんの横顔が見えた。恐らく、物凄く珍しい顔なんだろうなと思う。魁君にはこうやって笑うのか。

 オレが驚いていたら、後ろから「ねぇ」と、魁君に呼びかけられた。

「一也は? 道覚えるの得意?」

「……どうだろう」オレは少し戸惑いながら呟く。

「いつも、いつのまにか覚えてるから。よく分からない、です」

「偉いねぇー! さすがどっかの誰かとは違うね」

「バレバレだけど、誰・とは聞かないであげるよ」

 そう言った琉央さんの顔は見えなかった。けれどきっと笑ってるような気がする。

「どちらにせよ!」そう魁君が言いながら軽やかな動きでオレの前に立ち塞がる。

「迷子になったら俺たちの事、遠慮なく呼んでね。通信機、後で支給されるはずだから」

「あ、はい」

「あ・と! 敬語は禁・止」

「……」

「おっけ?」

「あ、りがとう…」

 オレは少し吃りながら下を向く。

 魁君は、その様子に満足したようにオレの隣に並んだ。

 琉央さんに連れられて、エントランスを真っ直ぐ突っ切る。そして、奥に延びる少し広い長い廊下を進んだ。

 迷路みたいなところだ。通路は左右に延びる道も含めて全部白い壁でおんなじ様だし、どこにも目印がない。

 第一エントランスから真っ直ぐ道なりに、近々使いそうな施設を簡単に説明してもらったけれど、きっと明日には忘れていると思う。

 メモはするなと言われたけど。これは地図なしじゃ方向音痴でなくても迷子になるだろうな。

 琉央さんからは、説明された場所以外は機密保持の問題とか制限があるから入るな、と言われた。入りたいとも思わないけど、とりあえず、何かあったら魁君を呼ぼう。オレは素直にそう思ったのだった。

 一通り案内し終わったらしい琉央さんが「さて」と呟いた。

「目的地に行こうか」

 そうしてまた暫く、真っ直ぐ道なりに進んでいく。すると、今まで白い壁と床だったのが、急にコンクリート打放ちの壁に変わって、床も薄緑色のゴム製になっている場所まで辿り着いた。

 その変わり目に頑丈そうな鋼鉄製の凹みが埋め込まれている。天井を見ると、シャッターが見える。凹みはシャッターのレールみたいだ。

 まるで、この奥に危険なものがあるぞ、と言っているみたいだ。

「ここ、オレも入っていいの?」

「むしろ、俺たちしか入れない場所って感じ~」

 魁君の言葉に、オレは眉間にシワを寄せながら「なるほど?」と納得いかないまま呟いた。
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