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一話

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「『悪役令嬢は婚約者に裏切られる運命にある』と思っていませんか?」
「……っ!」
まさにそうだ。その通りだ。だから、私はもう誰とも恋愛する気になれなくて..............
「『聖女になった悪役令嬢は婚約破棄される運命にある』と」
「.......................え?」
一瞬、何を言っているのか分からなくて、私は目を瞬かせた。そんな私を見て、お父さまは笑う。それはひどく優しい微笑みだった。私の記憶にあった顔とよく似ていて、胸がつきりと痛む。
「それはただの『思い込み』だよ」
「思い込み?」
「ああ、そうだ」
お父さまは頷いて、私を抱き上げる。そして優しく頭を撫でてくれた。
「リリアーネは、巷で噂されているような極悪な悪役令嬢なんかじゃない。聖女なんだ」
「でも私は..................」
「リリアーネの頑張りを僕はよく知っている。辛くても弱音を吐かずに頑張っているリリアーネは偉いね」
お父さまは優しい口調でそう言った。思いもよらぬ言葉を受けて、私は動揺してしまう。
「本当に...................? 私は悪役令嬢のように悪い子じゃないの?」
「ああ」
「ただのリリアーネでいていいの...................?」
「もちろんだよ。ずっと、そう言っているだろう?」
お父さまは私の目をしっかりと見つめて頷いた。そして安心させるように微笑む。その笑顔は記憶のままだ。優しく包み込むような笑顔。私の大好きな笑顔でお父さまは言った。
「リリアーネがどうかなんて関係ないよ。僕は可愛い娘である君を心から愛しているんだ」
「............................っ!!」
その瞬間、私の中の何かが音を立てて崩れ落ちた。今まで積み上げてきたものが一気に崩れ落ちていった。そうして、私の中に残されるのは何もなくなった空っぽの私だけになる。もう誰も私を聖女だなんて言わないだろう。私はただのリリアーネだ。悪役令嬢でもなんでもない、普通の女の子。
「お父さま...............!」
私が涙をぼろぼろと流しながら抱きつくと、お父さまはしっかりと抱きとめてくれた。優しく背中を撫でてくれる手にひどく安心する。
ああ、この手を.......................。
ずっと求めていたのだ。
「お父さま、私はお父さまのことが大好きよ」
「........................ああ、僕もリリアーネのことが大好きだよ」
お父さまは私の涙を指で拭うと、頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくて私は泣きながら笑う。
それはずっと欲しかった愛情だった。欲しいものをくれる人はもうどこにもいないと思っていたのに……。
お父さまが私を探しに来てくれたことが嬉しくて、私はしばらく泣き続けたのだった。
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