1 / 1
一話
しおりを挟む
「『悪役令嬢は婚約者に裏切られる運命にある』と思っていませんか?」
「……っ!」
まさにそうだ。その通りだ。だから、私はもう誰とも恋愛する気になれなくて..............
「『聖女になった悪役令嬢は婚約破棄される運命にある』と」
「.......................え?」
一瞬、何を言っているのか分からなくて、私は目を瞬かせた。そんな私を見て、お父さまは笑う。それはひどく優しい微笑みだった。私の記憶にあった顔とよく似ていて、胸がつきりと痛む。
「それはただの『思い込み』だよ」
「思い込み?」
「ああ、そうだ」
お父さまは頷いて、私を抱き上げる。そして優しく頭を撫でてくれた。
「リリアーネは、巷で噂されているような極悪な悪役令嬢なんかじゃない。聖女なんだ」
「でも私は..................」
「リリアーネの頑張りを僕はよく知っている。辛くても弱音を吐かずに頑張っているリリアーネは偉いね」
お父さまは優しい口調でそう言った。思いもよらぬ言葉を受けて、私は動揺してしまう。
「本当に...................? 私は悪役令嬢のように悪い子じゃないの?」
「ああ」
「ただのリリアーネでいていいの...................?」
「もちろんだよ。ずっと、そう言っているだろう?」
お父さまは私の目をしっかりと見つめて頷いた。そして安心させるように微笑む。その笑顔は記憶のままだ。優しく包み込むような笑顔。私の大好きな笑顔でお父さまは言った。
「リリアーネがどうかなんて関係ないよ。僕は可愛い娘である君を心から愛しているんだ」
「............................っ!!」
その瞬間、私の中の何かが音を立てて崩れ落ちた。今まで積み上げてきたものが一気に崩れ落ちていった。そうして、私の中に残されるのは何もなくなった空っぽの私だけになる。もう誰も私を聖女だなんて言わないだろう。私はただのリリアーネだ。悪役令嬢でもなんでもない、普通の女の子。
「お父さま...............!」
私が涙をぼろぼろと流しながら抱きつくと、お父さまはしっかりと抱きとめてくれた。優しく背中を撫でてくれる手にひどく安心する。
ああ、この手を.......................。
ずっと求めていたのだ。
「お父さま、私はお父さまのことが大好きよ」
「........................ああ、僕もリリアーネのことが大好きだよ」
お父さまは私の涙を指で拭うと、頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくて私は泣きながら笑う。
それはずっと欲しかった愛情だった。欲しいものをくれる人はもうどこにもいないと思っていたのに……。
お父さまが私を探しに来てくれたことが嬉しくて、私はしばらく泣き続けたのだった。
「……っ!」
まさにそうだ。その通りだ。だから、私はもう誰とも恋愛する気になれなくて..............
「『聖女になった悪役令嬢は婚約破棄される運命にある』と」
「.......................え?」
一瞬、何を言っているのか分からなくて、私は目を瞬かせた。そんな私を見て、お父さまは笑う。それはひどく優しい微笑みだった。私の記憶にあった顔とよく似ていて、胸がつきりと痛む。
「それはただの『思い込み』だよ」
「思い込み?」
「ああ、そうだ」
お父さまは頷いて、私を抱き上げる。そして優しく頭を撫でてくれた。
「リリアーネは、巷で噂されているような極悪な悪役令嬢なんかじゃない。聖女なんだ」
「でも私は..................」
「リリアーネの頑張りを僕はよく知っている。辛くても弱音を吐かずに頑張っているリリアーネは偉いね」
お父さまは優しい口調でそう言った。思いもよらぬ言葉を受けて、私は動揺してしまう。
「本当に...................? 私は悪役令嬢のように悪い子じゃないの?」
「ああ」
「ただのリリアーネでいていいの...................?」
「もちろんだよ。ずっと、そう言っているだろう?」
お父さまは私の目をしっかりと見つめて頷いた。そして安心させるように微笑む。その笑顔は記憶のままだ。優しく包み込むような笑顔。私の大好きな笑顔でお父さまは言った。
「リリアーネがどうかなんて関係ないよ。僕は可愛い娘である君を心から愛しているんだ」
「............................っ!!」
その瞬間、私の中の何かが音を立てて崩れ落ちた。今まで積み上げてきたものが一気に崩れ落ちていった。そうして、私の中に残されるのは何もなくなった空っぽの私だけになる。もう誰も私を聖女だなんて言わないだろう。私はただのリリアーネだ。悪役令嬢でもなんでもない、普通の女の子。
「お父さま...............!」
私が涙をぼろぼろと流しながら抱きつくと、お父さまはしっかりと抱きとめてくれた。優しく背中を撫でてくれる手にひどく安心する。
ああ、この手を.......................。
ずっと求めていたのだ。
「お父さま、私はお父さまのことが大好きよ」
「........................ああ、僕もリリアーネのことが大好きだよ」
お父さまは私の涙を指で拭うと、頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくて私は泣きながら笑う。
それはずっと欲しかった愛情だった。欲しいものをくれる人はもうどこにもいないと思っていたのに……。
お父さまが私を探しに来てくれたことが嬉しくて、私はしばらく泣き続けたのだった。
12
お気に入りに追加
13
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
悪役令嬢の庶民準備は整いました!…けど、聖女が許さない!?
リオール
恋愛
公爵令嬢レイラーシュは自分が庶民になる事を知っていた。
だってここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。
さあ準備は万端整いました!
王太子殿下、いつでも婚約破棄オッケーですよ、さあこい!
と待ちに待った婚約破棄イベントが訪れた!
が
「待ってください!!!」
あれ?聖女様?
ん?
何この展開???
※小説家になろうさんにも投稿してます
逃げた先の廃墟の教会で、せめてもの恩返しにお掃除やお祈りをしました。ある日、御祭神であるミニ龍様がご降臨し加護をいただいてしまいました。
下菊みこと
恋愛
主人公がある事情から逃げた先の廃墟の教会で、ある日、降臨した神から加護を貰うお話。
そして、その加護を使い助けた相手に求婚されるお話…?
基本はほのぼのしたハッピーエンドです。ざまぁは描写していません。ただ、主人公の境遇もヒーローの境遇もドアマット系です。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる