聖女としてのお務めを遂行することにしましたが、次々と

mkrn

文字の大きさ
上 下
1 / 1

一話

しおりを挟む
王城の、とある一室。
他の賓客用の豪華な部屋と比べると随分質素だが、ここが聖女のための隔離部屋らしい。
事前に通達を受けた案内役が私にいくつかの質問をし、それに対して私が答えると、何やら書き足していた。
「ふむ……なるほど」
書き終えたそれを何度も読み直してから、彼女は私に言った。
「……この度は災難でしたね」
そして、同情の籠った目で私を見る。
「ご安心下さい聖女様。貴女に罪はありません」
それは私が聖女だから言った言葉ではないのだろう。本心から言ってくれているのだと、その真摯な態度から読み取れる。
彼女は私を慮りながらも、やはり私の罪を疑っていたようだ。それもそうだろう。普通は信じられない話だ。こんな荒唐無稽な話など、誰が信じるものか。
「今までここで努めてきた事を、この後も続けてください」
「わかりました」
「……では、これから貴女が過ごす部屋や生活の諸々について説明します」
そういって、彼女は聖女に用意された待遇を話してくれた。
生活にかかる費用は国が負担すること。食事も一流の料理人が作ること。贅沢な暮らしであること。そして、外出は許可なく出来ないということ。
「ただし、必要最低限の生活用品などは用意できますので、どうしても欲しいものがあればお申し付け下さい」
「はい」
「……ちなみに、何か欲しい物はありますか?」
私は少し考え込む。
そして、思いついたことを口にした。
「私の居た世界で使っていた筆記具が……」
「はい?何でしょうか?」
「いえ、なんでもありません」
この世界には存在しないものを手に入れるのは無理だろう。そう判断して、私は首を横に振った。
聖女としての生活が始まったが、私にはやる事がない。暇である。
そしてそれはとても苦痛であった。元の世界に帰りたいという思いは募るばかりである。
(何か、考えないと……)

けれど何も思いつかなかったので、私はベッドの上で横たわり、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
すると突然、部屋の扉がノックされる。
「聖女様!開けて頂けますか!」
若い男性の声だ。切羽詰まった様子である。何か問題が起きたのだろうと察した私は急いでベッドから降り、部屋の扉を開けた。
そこにいたのは衛兵だった。彼は険しい表情で私に告げる。
「聖女様に面会を望む者がいます」
どうやらこの軟禁生活も終わるようだ。
この隔離部屋を訪れるのはこの国の重鎮ばかりだが、今日訪れたのは今までに見たことのない人物だった。
彼は私を部屋に通すと、自分は扉の外で待機していると言い、部屋を後にした。
「あの……私に何か御用でしょうか」
困惑しながら尋ねると、男は申し訳なさそうな顔で答える。
「突然の訪問で申し訳ありません。貴女にお願いがあって参りました」
男は私の前に跪くと、そのまま深々と頭を下げた。そして顔を上げて口を開く。
「どうか我らを救って頂きたい」
(ああ……やはりこの世界はだめだわ)
男の言葉を聞いて、私は心の中で悪態をついた。
それからの日々は、私が知る平和な世界とはかけ離れたものだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のお話をしていたと思ったら、ドラゴンがやってきて

mkrn
恋愛
王太子に婚約破棄をされているところーー。

妹の婚約者だと言う男性に、声をかけられまして

mkrn
恋愛
乙女ゲームに転生した私は、妹の婚約者と出会うことに

悪役令嬢だと噂されている私は、父の優しさに包まれて

mkrn
恋愛
数々のご令嬢達に悪役令嬢だと噂されていますがーー。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

前世は悪役令嬢だったのですが、今世ではヒロインになりまして

mkrn
恋愛
「私、前世で何か悪いことをしてしまったんでしょうか」 「キャロル、それは何回目だ?」 「う……すみません」 項垂れると、頭上から溜息が降ってくる。顔を上げると、うんざりした様子のお父様と目が合う。その後ろではお母様が困ったように微笑んでいた。 私の名前はキャロル・オリバー。伯爵家の娘である私は、たった今死んだばかりの前世の記憶を持って生まれてしまったらしい。今生の記憶も当然あるけれど、私が物心つく頃にはすでに私はキャロル・オリバーだった。

聖女になり決意しましたが、神官の彼はいつでもそばにいてくれて

mkrn
恋愛
私は聖女になりたくて、それを願った。だから私はここにいる。 でも、同時に私はこうも思っている。 (どうして……) 『私』は『私』であることを放棄したはずなのに。 『聖女』であることを選んだはずなのに。 (どうして『彼』は……) なぜ、『彼』だけが――こんな場所で私と再会しているのだろうか?

転生した先は悪役令嬢でしたが、魔法の道具を作って強くなってみせます

mkrn
恋愛
ゲームの世界に転生したら、魔法が使える世界でーー。

婚約破棄された私は涙を流していましたが、夢で出会った隣国の王子と恋に落ちる

mkrn
恋愛
「お嬢様!」 私のもとに駆けつけたエマが悲鳴を上げます。床に座り込んで震えている私を抱き締めるようにしてくれました。彼女の体は温かくて柔らかかったです。 そんなエマを抱き締めた私の瞳から涙が溢れました。 「どうなされました?大丈夫ですか?」

処理中です...