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一話
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王城の、とある一室。
他の賓客用の豪華な部屋と比べると随分質素だが、ここが聖女のための隔離部屋らしい。
事前に通達を受けた案内役が私にいくつかの質問をし、それに対して私が答えると、何やら書き足していた。
「ふむ……なるほど」
書き終えたそれを何度も読み直してから、彼女は私に言った。
「……この度は災難でしたね」
そして、同情の籠った目で私を見る。
「ご安心下さい聖女様。貴女に罪はありません」
それは私が聖女だから言った言葉ではないのだろう。本心から言ってくれているのだと、その真摯な態度から読み取れる。
彼女は私を慮りながらも、やはり私の罪を疑っていたようだ。それもそうだろう。普通は信じられない話だ。こんな荒唐無稽な話など、誰が信じるものか。
「今までここで努めてきた事を、この後も続けてください」
「わかりました」
「……では、これから貴女が過ごす部屋や生活の諸々について説明します」
そういって、彼女は聖女に用意された待遇を話してくれた。
生活にかかる費用は国が負担すること。食事も一流の料理人が作ること。贅沢な暮らしであること。そして、外出は許可なく出来ないということ。
「ただし、必要最低限の生活用品などは用意できますので、どうしても欲しいものがあればお申し付け下さい」
「はい」
「……ちなみに、何か欲しい物はありますか?」
私は少し考え込む。
そして、思いついたことを口にした。
「私の居た世界で使っていた筆記具が……」
「はい?何でしょうか?」
「いえ、なんでもありません」
この世界には存在しないものを手に入れるのは無理だろう。そう判断して、私は首を横に振った。
聖女としての生活が始まったが、私にはやる事がない。暇である。
そしてそれはとても苦痛であった。元の世界に帰りたいという思いは募るばかりである。
(何か、考えないと……)
けれど何も思いつかなかったので、私はベッドの上で横たわり、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
すると突然、部屋の扉がノックされる。
「聖女様!開けて頂けますか!」
若い男性の声だ。切羽詰まった様子である。何か問題が起きたのだろうと察した私は急いでベッドから降り、部屋の扉を開けた。
そこにいたのは衛兵だった。彼は険しい表情で私に告げる。
「聖女様に面会を望む者がいます」
どうやらこの軟禁生活も終わるようだ。
この隔離部屋を訪れるのはこの国の重鎮ばかりだが、今日訪れたのは今までに見たことのない人物だった。
彼は私を部屋に通すと、自分は扉の外で待機していると言い、部屋を後にした。
「あの……私に何か御用でしょうか」
困惑しながら尋ねると、男は申し訳なさそうな顔で答える。
「突然の訪問で申し訳ありません。貴女にお願いがあって参りました」
男は私の前に跪くと、そのまま深々と頭を下げた。そして顔を上げて口を開く。
「どうか我らを救って頂きたい」
(ああ……やはりこの世界はだめだわ)
男の言葉を聞いて、私は心の中で悪態をついた。
それからの日々は、私が知る平和な世界とはかけ離れたものだった。
他の賓客用の豪華な部屋と比べると随分質素だが、ここが聖女のための隔離部屋らしい。
事前に通達を受けた案内役が私にいくつかの質問をし、それに対して私が答えると、何やら書き足していた。
「ふむ……なるほど」
書き終えたそれを何度も読み直してから、彼女は私に言った。
「……この度は災難でしたね」
そして、同情の籠った目で私を見る。
「ご安心下さい聖女様。貴女に罪はありません」
それは私が聖女だから言った言葉ではないのだろう。本心から言ってくれているのだと、その真摯な態度から読み取れる。
彼女は私を慮りながらも、やはり私の罪を疑っていたようだ。それもそうだろう。普通は信じられない話だ。こんな荒唐無稽な話など、誰が信じるものか。
「今までここで努めてきた事を、この後も続けてください」
「わかりました」
「……では、これから貴女が過ごす部屋や生活の諸々について説明します」
そういって、彼女は聖女に用意された待遇を話してくれた。
生活にかかる費用は国が負担すること。食事も一流の料理人が作ること。贅沢な暮らしであること。そして、外出は許可なく出来ないということ。
「ただし、必要最低限の生活用品などは用意できますので、どうしても欲しいものがあればお申し付け下さい」
「はい」
「……ちなみに、何か欲しい物はありますか?」
私は少し考え込む。
そして、思いついたことを口にした。
「私の居た世界で使っていた筆記具が……」
「はい?何でしょうか?」
「いえ、なんでもありません」
この世界には存在しないものを手に入れるのは無理だろう。そう判断して、私は首を横に振った。
聖女としての生活が始まったが、私にはやる事がない。暇である。
そしてそれはとても苦痛であった。元の世界に帰りたいという思いは募るばかりである。
(何か、考えないと……)
けれど何も思いつかなかったので、私はベッドの上で横たわり、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
すると突然、部屋の扉がノックされる。
「聖女様!開けて頂けますか!」
若い男性の声だ。切羽詰まった様子である。何か問題が起きたのだろうと察した私は急いでベッドから降り、部屋の扉を開けた。
そこにいたのは衛兵だった。彼は険しい表情で私に告げる。
「聖女様に面会を望む者がいます」
どうやらこの軟禁生活も終わるようだ。
この隔離部屋を訪れるのはこの国の重鎮ばかりだが、今日訪れたのは今までに見たことのない人物だった。
彼は私を部屋に通すと、自分は扉の外で待機していると言い、部屋を後にした。
「あの……私に何か御用でしょうか」
困惑しながら尋ねると、男は申し訳なさそうな顔で答える。
「突然の訪問で申し訳ありません。貴女にお願いがあって参りました」
男は私の前に跪くと、そのまま深々と頭を下げた。そして顔を上げて口を開く。
「どうか我らを救って頂きたい」
(ああ……やはりこの世界はだめだわ)
男の言葉を聞いて、私は心の中で悪態をついた。
それからの日々は、私が知る平和な世界とはかけ離れたものだった。
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