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一話

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「エリアーナ、お前との婚約は破棄する!」

学園を卒業して数か月後、突然、私、エリアーナ・オーレンに婚約者である第二王子のレオンからそう宣言された。

ここは王城の一室で、その場には私たち以外にも数人の人々がいたけれど、王子の言葉はその場にいる全員を凍りつかせた。

「理由はお前が聖女だからではない! お前に嫉妬したからだ!」

王子はそう叫んだ。

「お前が聖女と認められたとき、私は自分を恥じた。……お前に嫉妬した自分がみじめで恥ずかしかった!」

レオン殿下はその場にいる人々にそう宣言し、私はその宣言に戸惑っていた。

(どうしよう? どうしたらいいのかしら?)

どうしたらよいかわからなかったので、思わず隣にいる父のオーレン侯爵に目を向ける。すると父は悲しげに首を振ってから言った。

「レオン殿下のお言葉を承りました」

「父上!」

私に背を向けて、父に抗議するレオン殿下。

「父上! 私は本当にエリアーナに嫉妬していたのです! あのころの私は愚かにも、エリアーナを聖女と認めようとしなかった」

「殿下……」

悲しげな顔のレオン殿下の言葉に父は口ごもる。

(ああ、これは……)

父が完全に負けていると思ったときだった。突然、部屋が揺れた。それはまるで地震のように……いや地震よりもずっと大きな揺れだ。

「何事だ!」

父が叫ぶ。すると廊下から焦った声が返ってきた。

「ドラゴンです! ドラゴンが現れました!」

「なんだ、と!」

それを聞いて父は驚く。それはそうだろう、この世界にはドラゴンは実在しないのだ。物語や絵本の中でしかその存在を確認されていないのだから……

けれどレオン殿下には心当たりがあったようだ。その青い目を見開いて言った。

「まさか……あれは古の龍(エンシェント・ドラゴン)?」

「殿下! お下がりください」

部屋の外で、複数の人の慌てる声が聞こえる。

「いえ、下がりません! 殿下をお助けしなくては!」

「そうです! このままでは王城が!」

「近衛騎士の面目にかけても、殿下をお守りいたします!」

それを聞いて父はレオン殿下に言う。

「殿下はお逃げください」

「……父上! いやです! お逃げになるなら私も……」

しかし父は首を振りながら言った。

「いいえ、駄目です。あなた様が死ねばこの国はどうなるというのです?この国には殿下が必要なのです! どうか逃げてくだされ!」

「父上……」

「近衛騎士たちよ、殿下をお守りしろ! 逃げる時間を稼ぐのだ」

「はっ!」

近衛騎士たちは部屋に入ってきて、レオン殿下を囲む。

「いけません!」

そんな近衛騎士たちの姿を見てレオン殿下は叫ぶ。けれど父であるオーレン侯爵はそんなレオン殿下を抱きしめた。そして部屋を飛び出していく。

(……ああ、これは夢なんだわ)

私はその光景を見てそう思った。

そしてレオン殿下は近衛騎士たちによって守られながら、バルコニーへと出て行った。

「大丈夫かしら?」

私はレオン殿下の身を案じるが、正直よくわからなかった。だってこれは夢の世界の出来事なのだから……

けれどそんな私の目に信じられないものが飛び込んできた。空から飛んできた何かがドラゴンに体当たりしたかと思うと、巨大なドラゴンは四散し、中から巨大な翼を持つ白い龍が現れたのだ!

(綺麗……)

そんな光景を見て私は思わずつぶやいた。だがしかし次の瞬間に私は目を疑った。その白い龍が巨大な尻尾を振ったかと思うと、その先にいた騎士たちが吹き飛ばされたのだ。

「た、大変!」

私は思わず父のもとに駆け寄ろうとするが、それは私の周りを守っている近衛騎士たちに止められた。そして近衛騎士たちは私を抱きかかえて窓から離れようとする。

「殿下!」

そんなときにレオン殿下の声が聞こえてきた。そして彼はバルコニーから飛び立とうと翼を広げた白龍に飛びついたのだ!

「いけない! このままでは二人とも……」

私は絶望的な気持ちになった。それはそうだろう、相手は伝説の龍(エンシェント・ドラゴン)なのだ。そんな怪物に人間が勝てるわけがないと誰でも思うだろう。

「レオン殿下! 危ない!」

そんな私の言葉に答えるかのようにレオン殿下は叫ぶ。

「エリアーナ! 私はお前を愛している!」

「えっ?」

(なにを言っているの?)

そんな私の思いなど知らない様子で、レオン殿下は白龍に対して言った。

「白龍よ、お前は嫉妬しただけなのだ」

「……」

突然現れた白い龍はレオン殿下の言葉を黙って聞いている。

「エリアーナは聖女にふさわしく、慈愛に満ちあふれた少女だ。それを嫉妬したお前は彼女を傷つけようとした」

「……」

「お前は賢い龍だろう? そんなことをしてもお前の大切な人が悲しむだけだと知っていたはずだ」

そんなレオン殿下の言葉に白い龍の目に優しい色が浮かぶ。すると白い龍はまばゆい光を放ち、次の瞬間には一人の美しい女性が現れた。白い着物を着た黒髪の女性だった。彼女はその黒い瞳でレオン殿下を見つめ、言った。

「そうかもしれません」

そして彼女は私たちに向き直ると頭を下げた。

「私は白龍のアルビノと申します」

彼女はそう言ってから言葉を続ける。

「お騒がせして申し訳ありませんでした。私の名前はシロガネ・アルビノです。長いのでどうぞシロガネとお呼びください」

その口調は物静かなものだったが、不思議と聞いている人の心を落ち着かせるものだった。それはおそらく彼女が美しい黒髪の女性だったからかもしれない。

「シロガネ様は、その……レオン殿下の婚約者のエリアーナ様に嫉妬されて……」

近衛騎士の一人がそう言うと、彼女は少し悲しそうな顔をする。

「確かに私はエリアーナ様が羨ましかったのです」

(やはりそうだったのね)

そんなシロガネ様の気持ちに気付かないようにレオン殿下が言う。

「しかし私たちは婚約を破棄して、お互いの人生を歩むことにしたのだ!」

そんなレオン殿下の言葉に私も一緒に来た近衛騎士たちも驚きを隠せないが、そんなレオン殿下にシロガネ様が口を開く。

「あなたの言っていることは理解できます」

「そうだろう! 私はエリアーナを愛しているのだ!」

そんなレオン殿下の言葉に、私は少し胸が痛むが、シロガネ様は首を振ると言った。

「けれど私がエリアーナ様に向けた嫉妬とあなたがエリアーナ様に向けている嫉妬は違うものです」

私はこれからどうしようか考えた。
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