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Two people and one person 4

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   1.
「は?」
 いつもの事ながら不思議でならない。
 俺の兄貴は、なんでこんなに可愛いんだろう。
 によによと締まらない顔で困惑するルーを見つめる。
「だからー。明日から10日間休みでしょ? 俺とデートしよ? 朝から出かけたいから、今日はこっちに帰ってきてよ」
「・・・突然言われても・・・」
「困らないよね?」
 う、と言葉に詰まるルーに、さらに脂下(やにさ)がる。
「だって、仕事は全部俺とチャックが片付けたし、そもそもルーは休まないから予定が入ることはない。違う?」
 ルーが、眉間に皺を寄せながら下唇をほんのちょっと出す。
(お。悩んでる悩んでる)
 一見不機嫌そうな表情だけれど、これは彼の悩んでいる時の表情。しかも、かなりの確率でOKを出す前の仕草だったりする。生まれた時から見ている俺だからこそわかるってもんだ。
ああ、あと一人いるか。この表情を正しく読み取る人物が。
「たまには休みを満喫したら? 折角の長期休暇だし。俺も実家に帰ってくるし」
クライアントとの電話を終えたチャックが、椅子を軋ませ背もたれに大きく凭れながらそう言った。
もう一人はこの人。
俺の恋敵であり、恋人であり、同僚であるチャーリーだ。そして、もしかしたら俺よりもルーの信頼を得ているかもしれない人物。俺よりも近くに居ることを許されている人。
ぶっちゃけ悔しいし羨ましい。
・・・ねえ、ルー。俺は、いつになったらそこに入れてくれるの?
「・・・わかった。でも、2日だけな。休みの間にやりたい事があるんだよ」
「やりたい事ってなに?」
「・・・・・・」
「ルー。やりたい事って?」
 詰め寄って表情と語気を強めにしたら、大きなため息と共にキーボードに手を伸ばした。男にしてはすらりと細い指が滑らかに動き、すぐに止まる。そして、目の前のモニタを指さした。
 そこには、オンライン数学コンテストの文字。
(まじか、この人・・・)
「なるほどね。このタイミングで長期休暇なんて変だなと思ったらそういうことね」
 俺の代わりにチャックが呆れたように言った。
 ルーはばつが悪そうに斜め上を見つめている。
「・・・だって、楽しそうじゃん・・・」
「まあ、わからなくはないよ? 俺も数学好きだし。だったら、最初っからそう言ってよ。一緒にやったのに」
「俺はパス。甥っ子と宜しくやってくるから、二人で存分にどうぞ。飛行機に遅れるから帰るわ。じゃ、お疲れ~」
「お疲れ」
「お疲れ様~」
 ひらりと手を振りチャックは帰っていった。
 その後ろ姿を見送ってとルーに向き直ると、ちょっと緊張したように背筋を伸ばした。
「お、おれ、一人でやってみたいんだ」
「? うん」
「だから、一緒には、やりたくない」
 なぜか上目遣いのルー。そして、いつもは潤滑に動く口がどこか片言だ。
「? そっか」
 ルーの意図を図りかねていると、ぐっと眉間に皺が寄り左頬を思いっきりつままれた。
「あだだだだだっ⁉」
「お前! 頭いいのになんでわかんないんだよっ!」
 頬が一番伸び切ったところで解放された。
 ちょっと伸びたかもしれない。あと、痣になったかもしれない。
「頭よくても言ってくんないとわかんないこともあるでしょっ⁉」
「だから! 俺は一人でやってみたいの! お前とは一緒にやらないの!」
 子供の様に言い放ったルーの言葉でピンとくる。
(あ、なるほど。そういう事か)
 理解して、ルーの可愛さに心の中でもんどりうっていると、変な目で見てきた。なんだ、こういう事は言葉にしなくても伝わっちゃうわけね。
「ルーの楽しみは取らないって。一緒にやったのにって言ったのは、俺も参加したのにっていう意味。わかった?」
「・・・わかった。でも、なんかその顔むかつく」
「可愛い弟に向かってなんてこと言うの、あんた」
「可愛い盛りはとっくに過ぎてるし」
 じとりとした瞳で見上げてくるルーに、いたずらしたくなるのはなぜだろう。
「じゃあ、今はどうなの?」
 ぐっと顔を近づける。驚いた様にルーが身体を引くと、背もたれがぎぎっと文句を言った。
 表情も驚いているルーの膝に乗り上げ、さらに顔を近づけ繰り返す。
「今は、どうなの?」
「・・・っ」
「ねえ・・・言葉にして教えて。ルー・・・」
 表情は不機嫌そのものなのに、目元は赤く潤んでいる。可愛い。食べちゃいたい。
 もしかして、キスを期待しちゃってる?
 耳元で囁くようにそう言ったら、面白い様に反応を返してきた。まるでオオカミの前の兎だ。ぷるぷると震えて・・・堪らない。
 舌なめずりをしそうになって思いとどまる。
(いけないいけない。焦っちゃだめだ)
 明日からのデート計画はもう始まっているのだから。
「ま、いっか。夕飯始まる前に帰ろ」
 なにもなかったかのように身体を引いて立ち上がる。自分のロッカーから鞄を取り出すと、そこで漸く振り返る。
 ぽかんとこちらを見つめている。どうも彼の予想と違ったようだ。
(あんたの予想の中の俺は、どんな事しようとしていたのかな?)
 気分はまさに肉食獣のそれ。ご馳走を目の前にして、その極上の味を想像して涎を垂らして、一番美味しく頂けるその瞬間を見極めている所。
 だからこそ余計に普通を演出する。
 どうしたの、と言いながら不思議そうに首を傾けて見せた。そうしたら、彼は真っ赤になって俯いて立ち上がり速足でロッカーに近づき乱暴に鞄を取り出すと、その勢いのまま部屋の外に向かう。
 ルーは俺よりも身長が高いから、俯いていても表情は丸見えだったけどね。
「待ってよ、ルー。俺の車で帰るんだからねっ」
 

   2.
「あっははははっ!」
 子供の様に純粋に楽しさから湧き上がる笑い声をあげているのはルー。
そして、その向かいで苦い顔をする俺。
さらに、俺の足元でぐちゃぐちゃになったクレープを手にして呆然と佇む子供と、ただひたすら謝り続ける母親。ルーが笑い転げるほどに恐縮していく・・・なんだかこっちが悪者の気分だ。
今回被害にあったのは、クレープと俺のズボン。
経緯はこうだ。
ウィンドウショッピングをしながら通りを歩いていた。平日だけど、人通りはそれなり。ここは観光客の買い物スポットになっているから。
あーでもないこーでもないと話をしながら歩いていると、女性の「待ちなさい!」という切羽詰まった声が聞こえてきた。
目を向けると手を伸ばした若い女性。
とっさにルーを守る様に立ち止まって身構えたら視界の下に何か入り込んできて、あっと思った時には足に衝撃を感じていた。
そして、今に至る。
「あ、あの・・・本当に申し訳ありません。お金を払っていたら走り出してしまって・・・」
「そ、そうなんですね・・・」
 会話なんて弾むわけもなく、愛想笑いをしあう俺と母親。
すると、爆笑していたはずのルーがすっと前に移動し子供の目線に合わせるように、しゃがみこんだ。
「クレープ、ぐちゃぐちゃになっちゃったね。だから俺と、もう一回買いに行こっか」
「え、で、でも・・・」
「俺も食べたくなっちゃったので。ついでです」
 困惑する母親にしゃがんだままでふんわりと笑いかけるルー。
 ってかさ、あんまり愛想ふりまかないでくれる?
 母親、ちょっとぽっとしてんじゃんか。
その間に入る様に一歩前に進むと、愛想よく母親に話しかける。
「いいじゃないですか。奢らせてください」
 母親が明らかにどきっとした表情をした。
(よし、ルーの事は消えた)
「ほら、二人とも早く~」
 いつの間にか立ち上がって子供を抱き上げたルーが、通りの曲がり角で俺たちを呼んでいた。
 ほんと、人たらし。
一言二言話しかけただけで子供を懐かせてる。
「さ、いきましょうか」
「は、はいっ」


クレープを買った後、親子と別れた。クリーニング代はもちろんもらっていない。
未だホイップクリームでべとべとのズボンでルーと階段に並んで座り、クレープを食べている。
ちょっとデートプランから外れちゃったけど、こういうのもありだ。うん。今後のデートプランの選択肢の一つにしよう。
「で。どうする、それ?」
「目立つわけじゃないから、ランチの時にちゃちゃっと洗おうかなって」
「じゃあ、俺に任せてくれる?」
「ん?」
「俺に、ザンをコーディネイトさせて」
行こう、と手を引かれ連れてこられたのは、ルーが気に入っている店。入るや否や全店員が俺たちを取り囲む。
おいおい、どんだけたらしこんでるんだよ。あんた。
「今日はね、俺の弟の服を買いに来たんだ。いい感じのある?」
 明らかにルー狙いの店員たちが周りにいる状況が耐えられなくて口を開く。
「俺が選ぶから、ルーが決めてよ」
「え、そう? みんなごめんね。やっぱり俺たちで見て回るから」
 来た時と同じ様に蜘蛛の子を散らすように去っていく店員達。っつーか、ほかに客がいるのに俺達だけに群がってきてさ・・・本当、勘弁してよ。他の客が見てるじゃん。
心の中で頭を抱えていると、ルーが俺の腕を引いて歩きだす。
「これなんかいいんじゃない?」
完全に立てていたデートプランから外れちゃったけど・・・いいな、これも。俺の事だけを考えて、俺の服をルーに選んでもらうのって・・・。
(独り占め感がすごい。なんかいい。すごくいい)
気付くと1時間経っていた。
ルーのお気に入りブランドなだけあって、種類も豊富だし、デザインも生地もいい。
悩みに悩んでカジュアルにまとまった。そして、無理やり俺に合わせてルーもコーディネイトしてやった。
だって、あまりに俺の服装とちぐはぐしてるんだもん。この後も一緒にいるんだし、少しくらいカップルアピールしたいじゃん。
なんだかんだで俺に甘いルーは、渋々ながらも俺の選んだ服を着てくれた。
カジュアル、とまではいかないけれど普段のルーの服装のイメージとは違う軽やかなそれに、俺は大満足だ。思わず何度も腕を組みながらうなずいてしまった。
ポイントは、さりげないペアルック。たぶん、少しファッションに興味がある人ならわかるんじゃないかくらいのレベル。
ルーは気付いていない。
そもそも気付いていたら着てくれないだろう。
店を出てルーの腕を取って街を歩く。俺たちを追いかける視線がさっきよりも増えたような気がする。
嫌だけど気持ちいい。この人は俺のだってアピールできるのだから。
鼻歌を歌いだしそうな俺をルーは不思議そうに見ていたけれど、すぐに気にするのを止め、上機嫌の俺にエスコートされる事にしたようだ。大人しく俺に腕を絡めて横を歩いている。
「そろそろ、お昼どう?」
「そうだね、いっぱい歩いてお腹すいちゃった。次はどこに連れて行ってくれるの?」
「俺たちが行きにくくてルーが好きそうな所」
「えー。どこだろ?」
「行ってからのお楽しみ。こっちだよ」
到着したのはふわっふわのパンケーキがある昔ながらのカフェ。地元民の憩いの場。
でも最近、ガイドブックに隠れた名店として名前が載っちゃって、ランチには少し遅めの時間だけれど店内は8割がた埋まっている。
店内の奥まった席が空いていたから、ウエイトレスに声を掛けてそこを陣取り、店内に背を向ける席にルーを座らせた。これから見られるだろう可愛らしい表情を俺だけが占領できるようにする為だ。
「お決まりになりましたら、そのベルでお呼びください」
ちりん、と美しい音色と共にベルとメニューがテーブルに置かれた。
いち早くメニューを開いたルーの瞳がきらきらと輝き始める。
ああ、やっぱり。思った通りだ。
俺の兄は、本当に可愛い顔をする。30歳の185㎝の長身の男なのに、だ。
これもいい、あれもいいと猫背になりながら何度もページを行き来している様子を見つめる。
たぶん、孫を見るじいさんばあさんよりもまなじりが下がっているだろう自信がある。いや、自信しかない。
「決まりそう?」
「うーん・・・」
今は、眉間に皺を寄せながら真剣にメニューの検討に入っている。
「とりあえず、今日のルーの一番と二番を頼まない? 他のはまた来た時に食べようよ」
メニューに釘付けだった瞳が、一瞬間をおいて持ち上がる。
暫くこちらの様子を伺うように見つめると前かがみになっていた身体を起こし、軽く首を傾げた。
「・・・また、来る?」
「そ。また」
「・・・・・・」
「俺とじゃ、いや?」
俺の言葉の意味を理解するかの様に、ゆっくりと何度か瞬きすると、ふるふると首を横に振った。そして、嬉しそうにはにかんだ。
(くう・・・っ⁉)
その破壊力のすさまじさと言ったら・・・。
俺、よく耐えた。公共の場でよく手を出さなかった。
「じゃあ俺、パンケーキとサラダのセットにする」
「・・・俺は?」
「ザンは、ハンバーグとスープのセットね。んで、半分こしよ?」
「うん、いいよ」


「は~っ、美味しかった~」
 子供の様に両手を大きく上げながら隣を歩くルー。俺は、そんな彼が車道に出てしまわないように、そっとエスコートする。
「こんなところにこんな店があったの知らなかった~。よく見つけたな、この店」
「俺の情報網、すごいでしょ」
うん、すごいとこれまた子供の様に返すルー。
家の外だというのに素の彼が見られて、心の中で何度目かのガッツポーズをする。
「会社から、そんなに遠くないよねぇ」
「そうだね。2ブロックか3ブロック位?」
「・・・じゃあ・・・休み明けのお昼にこよっか」
唐突なお誘いに驚いて立ち止まった俺を、数歩進み振り返る。
「俺とじゃ、いや?」
いたずらっ子の顔で、さっきの俺の言葉を繰り返したルーに、たまらなくなり飛びついてキスをした。
次の瞬間、左側頭部に衝撃が走る。
衝撃でルーから腕が離れ、右側によろけて数歩移動し、その場にしゃがみこんだ。
(き、効いた・・・頭がクラクラする)
ルーの全力をもらった俺は、軽い脳震盪を起こした様だ。まあ、ルーが苦手とするシチュエーションだったし・・・でも、あんな顔をしたルーはとてもレアだから・・・後悔はしていない。
「お、お前が悪いんだからな」
 長身を折り曲げて覗き込みながら、心配しているのにそうは聞こえないだろう言葉を選んで口にするルー。
 ほんと、そういう所なんだってば。
「立てる?」
俺の言葉を聞くことなく俺を立ち上がらせると、ちょっとだけかがんで俺と正面から見つめ合う。なぜか頬を両手で挟み込まれながら。
いつもは俺やチャックがやるだろう仕草に、俺は頬が熱くなるのを感じた。それに気づいたルーが、きょろりとあたりを見回したかと思うと、触れるだけのキスをしてきた。
「っ⁉⁉」
「俺だって、やられるだけじゃないんだよ?」
そして、何事もなかったかのようにすっと身体を離すと、すたすたと先に進んでいった。俺は衝撃のあまり、完全にフリーズ。頭の中はパニック状態。
(え、どういうこと? 公共の場でルーから、キ、キキ、キ、キス・・・っ⁉ これ、夢じゃないよね? チャックにマウント取ってやりたいっ‼)
「ほら、ザン。いつまでそこにいるつもり? 行くよ」
その声で我に返った。だって、予想より遠い所から聞こえたから。
俺は慌ててその後を追った。


   3.
「ルー、おはよ」
実は寝起きが悪いルーを起こしに、部屋に潜り込む。そして、ベッドに乗り上げ、猫の様に丸まって眠っているルーの頬におはようのキスを落とす。
「んー・・・」
さらに身体を丸めながらむずがるけれど、起きる気配はない。そして、非常に残念なことに可愛い寝顔が引っ張り上げられた布団でほとんど隠れてしまった。
「早く起きないと、いたずらしちゃうよ~?」
一応、忠告してから露になっている、ルーの形のいい耳に軽く歯を立てる。
ひくりと、軽く仰け反る様な反応を見せた。
「ほーら。起きなってば」
腰のあたりをさすりながら布団を引き上げていく。その間も口と舌でルーの耳に刺激を与える。
徐々に大きくなる反応に気をよくしていると、
「わーっ‼」
という叫び声と共に、ルーが跳ね起きた。
そして、俺から距離を取る様にベッドの上を移動すると、身体に布団を巻き付けた。それから、顔を赤くして猫の様に威嚇してくる。
「やっと起きた。おはよう、ルー」
「お、おまっ、なにっ・・・⁉」
「朝食の用意が出来たから呼びに来たよ」
「ふっ、普通に起こせっ!」
「起きなかったのはそっちでしょ?」
図星を突かれ、漫画の様にぐっと言うと、口を引き結ぶ。
このまま押し倒しちゃいたいけど、そんなことをしたらこれからのデートプランがおじゃんになってしまう。
「さ、ご飯食べよ。今日はドライブデートだよ」
ベッドから降り、ルーに向かって手を差し出した。


「いーやーだっ‼」
「そんなに俺の運転、嫌?」
 ドライブに出発しようと俺の車に乗り込んだ所だ。シートベルトをしてエンジンをかけようとしている、まさにそのタイミング。
「ちがうっ! それが! いやだ!」
強調するように大きく腕を振って、何度もルーに指を指されているモノは、いわゆる大人のおもちゃというやつだ。よく見るような形じゃなくて、ぱっと見、変な生き物の様に見えなくもない。女の子の大事な所に当てて中に入れることなく震えて気持ちよくさせる、そういうやつ。
「女の子用だから大丈夫だよ」
「な、なにをもって、なにを大丈夫だと言ってるんだよ!」
「震えるだけで音はとっても小さいし、そもそもエンジンの音で聞こえないよ。1時間2時間ドライブに付き合ってくれる間だけだから。そうしたら、明日から休み明けまでルーの邪魔しないよ。約束する」
「だ、だからって・・・っ」
眉間に皺が寄り唇が軽くとがって、かすかに目が泳いでいる。
(うん。もう一押しかな)
「もしかして、ルーは男なのに、女の子のおもちゃでイっちゃいそうで怖いの?」
「は・・・はあっ⁉ そういうんじゃないし‼」
「じゃあ、なんでそんなに嫌がるの?」
ぐっと唸ってルーは口を噤んだ。軽く涙目になっているから、どうも図星だったらしい。
心の中でほくそ笑む。
(ここまでは計画通り。後は・・・待つだけだ)
じっと見つめる。
何も言わずに、ただ見つめる。
すると、居心地の悪そうにあちこち視線を彷徨(さまよ)わせ始め、中途半端に引き出しているシートベルトをいじりだした。その間も、俺は視線を反らすことなく見つめ続ける。
10分は経過しただろう頃、俺の視線に耐えられなくなったルーが漸く口を開いた。
「・・・ドライブの間だけ、我慢すればいいんだよな?」
(掛かったっ)
舌なめずりしたいのを必死で堪えて、至って普通な事であると演出する。
「そうだよ。着けてる間イかなきゃいいだけ。簡単でしょ? 我慢すれば、長期休みを作った理由を思う存分楽しめるよ?」
俺の真意を探る様に視線を交わした後、こくりとルーが頷いたのを確認し締めていたシートベルトを外すと、ルーのベルトに手を伸ばす。ルーは何かに耐えるようにシートに強く身体を押し付けた。
一つ一つの仕草が本当に可愛い。
ルーの様子に気づかないふりで機械的にベルトを外し、ズボンの前を寛げボクサーパンツに手をかけると
「ぁ・・・」
と小さな声が上がった。
それにも無視して下ろせる限りボクサーパンツを下ろし、手にしているおもちゃを、ペニスを持ち上げその隙間に差し込む。
陰(いん)嚢(のう)の裏から会(え)陰(いん)にしっかりと当たる様に押し当て、確認の為左右に動かしてみる。さっきから上の方から何度も息を飲むような吐息が聞こえているが、気にしちゃあいけない。ここを切り抜けないと俺の計画はその時点で終わってしまう。
もう、手で支えなくても軽く立ち上がっているペニスをボクサーパンツに隠し、その上からもきちんと収まっているか触り、左右に動かす。
(もう、息が上がってるじゃない、ルー)
ルーの感じやすさに心配になりながら、ズボンを履かせベルトを締め、終わった事を伝える為にバックルのあたりをぽんと叩き身体をシートに戻した。
「じゃあ、出発するよ。シートベルトして」
ルーはこくりと頷き、まだ握っていたシートベルトを締める。それを確認し、俺もシートベルトをして車を発進させた。


お気に入りの音楽を聴きながら、俺は上機嫌で車を走らせる。
休日の日中でも車が少ない道を選んでいるから、平日の今日、すれ違う車こそたまにあれど、同じ車線を走る車はない。
「ルー。喉乾いてない? トイレは大丈夫?」
「ぅ、うん」
「そっか」
ちらりとルーの顔に視線を向けると、目元に若干朱がさしている。そのまま視線を下におろすと、股間の膨らみが心なし大きくなっているような気がした。そして、腰の位置が大分座席の前に寄っているのに気付く。
どうも、俺が装着したおもちゃがシートに当たらない様にしている様だ。
(なるほど、そう来たか)
長身のルーは、その分足も長いから、ダッシュボードに足がつっかえて、そんなに上手くはいっていないみたいだけれど。
その時、タイヤが道路の穴の上を通過して車が跳ねた。
「っ・・・⁉」
ルーが仰け反って息を飲んだ。そしてすぐに、お腹のあたりを守る様に足を持ち上げ身体を丸める。
感じやすいとは言え、女の子向けのおもちゃだ。男が着けたら痛い位置だったのかもしれない。
慌てて路肩に車を止めてシートベルトを外し、ルーの様子を確認する。
「・・・なに、その顔・・・」
そう、口にするのが精いっぱいだった。
だって、ルーが蕩けた顔をしていたから。
「ぅっせ。なんでも、なぃ」
頬を真っ赤に染めて涙目で強がりを言うルーが、とんでもなくいじらしい。
まあ、確かに。今は長期休暇の過ごし方を賭けた勝負中だ。出発して30分経ったかなってところで、負けを認めたくはないだろうね。
(いいよ。その作戦に暫くは乗ってあげよう)
「そっか、それならよかった。思ったよりバウンドしたから、どこかぶつけたのかと思ったよ」
ほっとした表情をしてみせたら、ルーもほっとした表情をし、身体から力を抜いて足を床に下ろした。それを見過ごすわけもなく、
「じゃあ。危ないからちゃんと座ってね」
と言って、右腕をルーの細腰に回し、シートに深く腰掛けさせる。
「んぅっ」
右腕にペニスが動いたのを感じて、またもやにやけそうになる。
まだバイブのスイッチを入れてないんだよ?
スイッチを入れたらどうなるのか・・・楽しみで仕方がない。
「さ、ドライブ再開するよ。シートベルトして?」


暫く走らせて、最初の目的地であるパーキングに到着した。
景色が綺麗な所で、ドライブ好きは近くを走ると必ず寄る場所。俺もたまに一人になりたい時に車を走らせて来る場所だ。
ちょっと来にくい場所だからそこまで賑わってはいないけれど、ほとんど誰ともすれ違わなかった道程を考えると、驚くほど人が多い。トイレと自動販売機があるのも関係しているだろう。
ルーが周りの車から見えない様に奥まった場所に車を止め、俯いているルーにシートベルトを外しながら声を掛ける。
「俺、トイレ行って飲み物買ってくるけど、ルーはどうする?」
「俺は・・・」
「トイレに行く間は外してあげるよ?」
一瞬動きを止め、ゆっくりと首を動かしこちらを見た。その瞳はうっすらと膜を張っていて、なんというか・・・美味しそう。
「・・・ほんと?」
「ほんと。だって、ドライブの間だけって約束でしょ?」
「・・・じゃあ、いく」
ルーは気付いていないのだろうか。
外すという事はまた着けるという事で、車に乗った時に感じた恥ずかしさとかそういうの全部、繰り返す事になるのを。
(気づいてないんじゃなくて、いっぱいいっぱいでそれどころじゃないのかも)
「おっけ。じゃあ、外すよ」
ベルトに手を伸ばしたら、小さな静止の声が聞こえた気がしてルーの顔を見上げる。目が合ったけどすぐに反らされた。
気付いてしまったらしい。けれども、俺のあまりに普通通りの感じに、取り消すに取り消せないでいるのだろう。
見上げたままベルトを外し、装着した時と同じ順番でおもちゃを取り出し元に戻す。
手にしたおもちゃは、ルーの肌に触れていた部分が軽く湿っている。その手をズボンに突っ込み、カギを引き抜きドアを開け外に出たら、反対側でもドアが開く音が聞こえた。車の屋根越しに立ち上がったルーと目が合う。
今度は反らされない。
どこか熱が籠った瞳に見つめられ、気づかれていないはずの俺の計画が、見抜かれたんじゃないかとどきっとした。
「・・・飲み物は、お前の奢りな」
という、可愛くない物言いに思わず苦笑いが出た。
「もちろん、俺の奢りでいいよ」
できるだけ周りの視線からルーを隠すようにエスコートしていく。
とはいえ、男のトイレだからね。囲いがあるわけでもなし、ルーの下腹部が衆人環視に少しでも晒されるのかと思うと、気が気ではないというのが正直な所。
だからと言って、俺だとしてもあまり周りをウロチョロされたくないルーの機嫌を悪くするのも得策ではないから、距離感が難しいところだ。
それから自動販売機に移動し、欲しいだけ買ってやった。ついでにこのパーキングを散歩する。
折角のドライブデートだもん、景色を楽しみながら歩きたいしね。俺、ルーと何てことない事をするのも好きだから。
ほとんど都会から外に出ないルーは、久しぶりに自然に触れてリフレッシュできたらしく、
「今度、俺もドライブしにこよ」
と、にこにこしていたけれど、車に戻ったら表情が無になった。
助手席のドアを開けたら大人しく乗ってくれて、内心ほっとする。
運転席に乗り込みポケットからおもちゃを取り出しルーと向き合うと、乞う様な瞳とぶつかる。
「どうしたの?」
「・・・それ・・・」
「ん?」
ルーは言いにくそうに視線を反らしながら、抱えたままだった飲み物をドリンクホルダーに置いていく。
「・・・それ、しないとだめだよね?」
「まあね。負けを認めるならしなくてもいいよ。認めたらここから後、休みが終わるまで俺と一緒だから、色々と覚悟してね」
さあどうすると言う様に、手にしていたおもちゃをひらひらと振って見せる。
「・・・わかった」
そう言ってルーは、ぴったりと合わせていた太腿を少しだけ左右に開いた。その意味を理解して、俺は口元が歪むのを止められなかった。


欲しい物があって、パーキングから20分位の距離にある、そこそこの規模の街に入った。
ここにルーが好きそうなドーナツ屋さんがあるんだよね。この間大学の友達がくれたんだけど、そこまで甘いのが好きじゃない俺でも、素直にまた食べたいと思ったんだ。
人気があるのに、店舗はこの街にしかなくて、昼頃には売り切れちゃうんだって。
「この辺のはずなんだけど・・・」
ナビを頼りに店を探す。
きょろきょろする俺と違い、ルーはあたりを見回すことなく、軽く俯きながら細く呼吸をしている。
「ルーも探してよ」
信号で止まったタイミングで、ルーに声を掛けながら、車のキーにぶら下げていたスイッチを押す。
「っ⁉」
その途端、ルーの体が跳ねた。そして、驚いたように自分の股間のあたりを見つめている。
「ゃ・・・うそ・・・っ」
「ルー、人に見てもらいたいの?」
驚いた表情のまま勢いよくこちらを振り向いて、ふるふると首を横に振った。
「じゃあ、普通にしてないと。ほら、みんなに見られちゃうよ」
俺の言葉にルーが怯えた表情で街を見回した。幸い、こちらを注視する様な人はいない。
ほっとした表情を見せた瞬間に、スイッチを数回押し振動を強くする。
「んひっ⁉」
びくびくと身体を震わせたルーを視界の端に収めながら、信号が青になったので車をスタートさせる。
ナビの通りにさらに進むと、やたらと人が集まっている店が視界に入ってきた。ナビの終点も、その辺りを示している。
近場の人が買いに来る事が多いのか、駐車場が予想よりも広くてスムーズに駐車する事ができた。
「じゃあ、適当に買ってくるから。ルーは、車で待っててね」
「わ、わかった」
「それとさぁ、」
ルーに顔を寄せ、ルーだけに聞こえるボリュームで忠告する。
「あのさ、そんなに気持ちよさそうな顔してたら、バレちゃうよ? 俺以外にその顔見せたら、勝ち負け関係なくぶち犯してやるから」
泣きそうな顔になったルーに、軽く口づける。
「じゃ、行ってきます」
テレビでも観てなよと頭をひと撫でして、店舗に向かった。


無事にドーナツをゲットして車に戻ると、何てことない様な顔をしながら頬を上気させ、軽く息を乱しているルーがテレビを見ていた。
見ているだけで観ていなかったけれども。
「ただいま。はい、持って。出発するよ」
無言のルーがドーナツの箱を受け取るのを確認すると、車を発進させる。
車の振動が合わさって刺激が強くなったようで、ルーが身悶えている。本人はそれほど反応しているつもりはないのだろうけれど・・・正直、これはアウトだ。
これ以上、誰かの目に留まるかもしれない所で、こんな魅力的な彼を晒したくない。・・・いや、俺がやってんだけど、正直ここまでとは思っていなかったんだって。
助手席側の腕を動かし、掌でルーの目元を覆う。
「目、瞑って。寝てるふりしてて」
「・・・ぅん」
目を瞑らせたら、まだましになった。
うん。ぎりぎりオッケーかな。でも、できるだけ見せたくない。
ちょっと遠回りになるけれど、より人のいない道を進んだ。その分、道路状況は悪くなるけど・・・まあ、仕方ない。影響があるのは、車とルーへの刺激位のものだ。
「ルー。起きてる?」
「・・・なに?」
「人がいない道走ってるから、好きに感じていいよ」
「感じて、ないし・・・」
「そう? じゃあ俺、勘違いしてたわ。もっと強くしても大丈夫だね」
「・・・え」
何度もスイッチを押して、振動を最大にする。
さっきまで、耳を澄ましてようやく聞こえるかどうかだった振動音が、走行音に負けずに聞こえるようになった。
いよいよ耐えきれなくなったルーが、本格的に身悶え始めた。背を反らせ、膝をすり合わせている。
薄く開いた唇からは、熱の籠った吐息が漏れて・・・あああ、ヤバい。俺が我慢できないかも・・・。
喉が渇いて、まだ半分は入っている缶を一気にあおる。でも、全然足りない。まるで砂漠にいる様に喉がカラカラだ。
通行量が少ない山道をひたすら走る。路面状況は最悪だ。亀裂と段差は当たり前。油断するとタイヤが嵌ってしまいそうな穴が開いている。
(こりゃ、集中しないと車が壊れちゃう)
何とか悪路を乗り切り、見つけたパーキングに車を止め一息つく。
「・・・はあ。ヤバい道だったね、ルー」
そこで漸くルーに視線を向けると、手に持っていたはずのドーナツ入りの箱はいつの間にか後部座席に追いやられ、ダッシュボードに片手を置き、もう片方は足の間でシートの座面の端を握っている。
ぶーんという小さな振動音がたまに大きくなるので、おそらく、座面から腰を浮かせてその刺激を逃そうとしているのだろうと思われる。
「ルー・・・?」
俯き、口をぎゅっと閉じ、鼻から息を吐きだしている。耐える様にことさらゆっくりと繰り返される呼吸は、ルーの興奮を伝えるように震える。
「ルー?」
もう一度名前を呼ぶ。
ゆっくりと、首をひねってこっちに顔を向けた。
ごくり。
俺が生唾を飲み込んだ音が、無駄に大きく聞こえた次の瞬間、ルーが動いた。
素早い動きでシートベルトを外すと、俺に乗り上げてくる。そして、俺の顔を両手で挟み込み上を向かせると、深く口づけをしてきた。
さして広くない車内で、男二人。二人とも成人男性の平均身長より高め。
正直、窮屈でしかない。
でも、その窮屈さがいい。普段触れ合わない様な所まで触れてられている感じがするから。
しかし、俺の心にはそんな余裕はなかった。興奮で。性に積極的なルーは初めてだったから。
呼吸も何もかも奪われる様なキス。酸欠で思考が奪われていく。求められるままに舌を伸ばし、絡ませ、唇を吸い、唾液を飲み込む。
「ぷあ・・・っ」
唇を離したルーは、少し高い位置から俺の表情を暫く観察すると、扇情的にほほ笑み、
「ふふっ・・・ザン、可愛い」
と、捕食者の様に言った。
捕食される側のくせに。捕食されている時の様にうっとりとした顔をしているくせに・・・っ。
もっとキスをしたくて顔を近づけようとするけれど、太腿に乗り上げられているから、どうしても届かない。
手を使って力任せにしてもいいけど・・・ルーがどう出るのか知りたくて、手は身体の横に投げ出したままにしていた。
「俺、可愛い?」
「うん。可愛い」
そして、唇を舌でくすぐってきたから、舌を伸ばし絡ませる。唇が触れ合いそうな距離なのに、届かなくてもどかしい。でも、舌の感触が気持ちいい。
上を向いている俺の口端から、飲み込み切れない涎がこぼれた。それを目聡く見つけたルーは、窮屈そうに身体を屈め舌で舐めとる。
それからおでこをくっつけて、こう言った。
「ね。こういう場合は、どうなるの?」
「こういうって?」
「おれ、イってないよ? でも、イきたくてしかたない。でも、これじゃイけそうにない。勝負だからイかないでこのまま家に着けば俺の勝ち。じゃあ、お前にイかされたら誰の勝ち?」
やっぱりルーは、頭がいい。
快感は、思考を奪う。だから、さすがのルーでも気づかないと思ったんだけどなぁ・・・。
「・・・気づいちゃった?」
「うん。気付いちゃった・・・」
首を精一杯伸ばして唇をくっつけるだけのキスをする。俺が必死なのが面白いのか、くふくふ笑いながら、唇がくっつくかくっつかないかの距離を保っている。
「随分、ご機嫌だね、ルー」
「だって、お前、可愛いんだもん」
こんな珍しい状態のルーをもっと見ていたい・・・けど、俺、限界かも。
投げ出していた両手で、無理やり頭を引き寄せ、決して細くない肩を力いっぱい抱きしめる。そして、大きく口を開いて噛みつくようにキスをした。
今度は俺が満足するまでキスをしてから解放してやった。
「・・・ルー。可愛い」
「・・・今度は、俺?」
「そ。今度はルー。ねえ、もっと可愛くなってよ」
もう一度キスをしてやろうとしたら、両手を隙間に差し込まれ阻まれる。
表情で不機嫌を表したら、向こうも不機嫌そうな顔をする。
そして、
「さっきの答えが先」
と唇を尖らせた。
(ああ、もう・・・ルーには勝てないなぁ・・・)
ルーの両手首を掴み、左右に広げて俺の口元がルーに見えるようにする。
視線が俺の口元に固定されたのを確認して、答えを告げた。
「二人とも、勝ち」
告げた瞬間、また、熱烈なキスをもらった。
それが堪らなくて思わず押し倒そうとしたら、ルーの細身のわりに肉付きがいい尻がクラクションに乗り上げ、二人して驚く。
慌てて辺りを見回し、俺達だけしかいないことを確認すると、顔を突き合わせて爆笑した。


   4.
あれから俺たちは、近場のホテルに移動し部屋に入るやいなや、まず、1回。
それから、風呂に入りながら1回。現在、3回目に突入。
ここまで本能に任せてルーを求めてしまったから、今度はゆっくりと楽しみたい。
今、イきすぎて微睡んでいるルーを、バスローブの紐で一人掛けのソファに右腕と左足首、左腕と右足首を背もたれの後ろを通して結んで括り付けた。
腕を通し肩がかろうじて隠れているだけの真っ白のバスローブが、何も身に着けないよりもルーの裸体の美しさを際立たせていて、そんじょそこらの女神さまよりも神々しい美しさだ。大股開きしてようが、俺にとってそれは変わらない事実。
少し遠くに移動して、鑑賞する。
(・・・永遠に見てられる・・・)
出来ればこれを写真に納めたい所だが、バレた時が怖いので、撮る時はきちんと了承を取ってからにしようと思う。いつになるのかわからないけれども。
もう一つのソファをルーの正面に移動し、浅めに腰を下ろす。
バイブにスイッチを入れるとルーの大きく開かれた太腿に当てた。
「んん~・・・っ」
弱めでもどかしいのか、むずがる様に身体を捩る。
脚の付け根にバイブを滑らすと、顎が少しだけ持ち上がりはふりと吐息が漏れた。それと同時に、さっきまで俺を咥えこんでいたアナルも息づくように開閉する。
(エロいなぁ・・・)
ウチの兄貴は、なぜにこんなにエロいのか。
これは、俺が生まれた時から抱える難題で、年々深まるばかりだ。
ただ一つ俺の中で確実なことは、この人がこの人であるからこの人がエロく見えるし、この人に惹かれるのだという事。
脚の付け根から脇腹、そして、男にしてはボリュームがある雄っぱいへ。当てる場所によって反応が変わるのが楽しい。
夢中になって色々な所に当てていたら、ふいに蹴られた。
顔を上げると、閉じていた瞼が持ち上がり、じとりとこっちを睨んでいる。
「あ、起きた?」
「・・・なにしてんだよ」
「なにって・・・拘束してバイブ当ててる」
かちかちとスイッチを押して振動を強くしながら、乳首の先端にぐっと押し付けた。
「んああっ!」
びくりと面白い様に反応するのが面白くて、にやつくのが止められない。感じるのを止められないくせに、流し目で俺を非難してくるのも堪らない。
「俺さ、いっつもガッツいちゃうじゃん? だから、ゆっくり楽しんでみたいんだよね」
「っ、っ、ぁあっ」
「付き合ってくれるよね」
バイブを乳首に当てたまま立ち上がり、上からルーを見下ろす。悔しそうに口を引き結びながら、潤んだ瞳で俺を睨みつけているが、俺の顔は緩んでいくばかり。
バイブを動かし、鎖骨を通り首筋に移動させる。
堪える為か、結んだ口元に力が時折入る。それに合わせて鼻息も強くなり、胸も大きく上下する。
「そんな顔したって、だーめ。ほら、ルーも楽しも?」
額に瞼に頬にキスを落としながら、頭を下に移動させていく。いやいやとする様に顔を振り、身体をくねらせ、静止の声を上げる。
「ほら、楽しんで」
耳元で息をたっぷり含ませてそう囁いたら、びくびくと身体を震わせた。
その反応・・・軽くイってるでしょ、あんた。
「耳、気持ちいい?」
「っ、や、あっ!」
耳の穴に軽く舌を差し込み、つぷつぷと出し入れすると面白い様に喘ぐ。腕と足に力が入り、拘束に使った紐がピンと張った。
とぷりと申し訳程度の精子が、ルーの精器から吐き出された。勢いのないそれは精器を伝いアナルを汚し、はくはくと息づくアナルが、自分で中に取り込んでいるように見える。
非常に卑猥だ。
(ゆっくり楽しみたいんだけどなぁ・・・)
俺の自制心が弱いのか、はたまたルーがエロすぎるのか。
(これも永遠の謎だな。うん)
すっかり持っているのを忘れていたバイブに精子を絡めるようにしながら会陰を刺激すると、ルーが身体を思い切り反らせた反動で耳から舌が抜ける。
もう少し耳でルーをイかせたかったけど仕方がない。首筋に噛みつくように吸い付いてやった。
「い゙っ⁉」
再びとぷりと精子が吐き出される。
本人は否定するけれど、ルーはちょっと痛いのも好きらしいんだよね。
痕を付けるのを良しとしないけど、痕を付けられるのも好きみたいなんだよね。
バイブを本来そこにはない割れ目を割り開くように押し付けながら左右に動かすと、くちゅくちゅと音が聞こえてきた。俺の指も濡らすほど精器からこぼしていて、おもちゃが滑って今にも取り落としそうだ。
首筋にある太い血管を唇で挟む。唇に鼓動を感じ、俺の征服欲がほんの少し満たされる。
もしかしてヴァンパイアって、血を吸う時、こんな気分なのかなぁ。
「・・・ザン」
名前を呼ばれて唇を離し顔を上げる。
「・・・ザン」
「なに・・・んっ」
あまりに切ない声で呼ぶもんだから目線の高さを合わせたら、キスされた。うわ言の様に俺の名前を呼びながらキスを繰り返す。
「ザン・・・ザン・・・っ」
徐々に深くなるキス。
悪戯心でほんの少し身体を後ろに引いたら、飛び切り切なくて蕩けた顔をしていた。
届きそうで届かないのがもどかしいのだろう。さらに切なさを含ませて俺の名を呼び、舌を突き出す。
俺の中で、何かがぷつりと切れた。
立ち上がり手にしたバイブを放り投げると、バスローブの前を広げ、臍まで反り返った精器をルーの目の前に晒す。そして、先端をルーの口元に押し付けた。
すぐに大きく口を開き、その中に迎え入れてくれたから、俺は躊躇なく腰を押し進め、喉に先端が当たったのを確認すると腰をゆるゆると振った。
ルーは、喉奥に先端が到達する度に軽くえずきながらも、積極的に舌を絡め、頭を振る。
少しずつ腰の動きを大きくしながら、ルーを観察する。
苦しいのか目を瞑り眉間にぎゅっと皺が寄っている。目尻には生理的な涙が溜まっていて、今にもこぼれ落ちそうだ。それなのに、頭を引くことなくもっと深く咥えこもうとしてくる。
「苦しいのも、ルーは気持ちいいんだ?」
こくこくと頷くルー。
(ああ、もう・・・)
普段のスマートさはどこへやら。いつもの彼を知っている人が見たら、そりゃもう驚くだろう。
俺だってもちろん驚いたし、何なら抱くたびに驚いている。
「もう少し強くして良い? ルーの口の中でイかせて?」
閉じていた瞳が開き、俺を見上げた。瞼の下に隠されていた瞳は、たっぷりと涙をたたえ波打っている。
それを合意と受け取った俺は、ルーの頭を両手で掴みさっきよりも深く突き入れた。
「ゔぶっ!」
苦しさから、再び瞳は瞼の奥に引っ込んだ。そして、限界を超えた涙がこぼれ落ちる。
全部はもちろん入らないけれど、先端が喉奥に飲み込まれそうな感じがする。ルーがえずく度にきゅっきゅと先端が吸われて気持ちいい。
苦しいだろうに一生懸命口を開き、一生懸命舌を絡ませてくれる。
健気とも言えるその奉仕に、俺の射精感はすぐに訪れる。
「出す・・・出すよ・・・っ」
へこへこと腰を振って最奥に吐き出した。さすがに苦しかったらしく、頭を引く強さが強いからルーの頭から両手を離した。ソファの背もたれに頭を預け、激しく咳き込む。
その顔は涙と涎と鼻水と精液で汚れているのに、美しいと思った。
見惚れているうちに咳が落ち着いたルーは、肩に引っ掛かっているバスローブに顔を擦り付け始めた。
「あー、俺がやるよ。やらせて」
自分のバスローブの裾を掴み、ルーの顔をそっと拭う。3回目の吐精だというのに、変わらない粘り気を感じて苦笑いしかでない。
「はい。きれいになった」
「・・・死ぬかと思った・・・」
「気持ちよくて?」
「っ⁉ ち、ちがっ」
「違うなんて言わせないよ。こっち、べちょべちょじゃん」
「ひんっ」
ソファに右ひざを乗せ、ルーの顔を見つめながら人差し指でルーの精器の先端から会陰を通り、アナルに触れる。力を入れていないのに、簡単に指先が飲み込まれてしまった。なにもしなくても、ちゅぷちゅぷと吸い付いてくる。
「こんなにぬるぬるで、入ってるのわかるの?」
「わかるに、きまってん、だろ・・・っ」
ルーの腰がゆるゆるといやらしく揺れているのに気付いたら、さっき出したばかりなのに俺の中心が兆し始めた。どんどんと質量を増していく。
そのことに苦笑いしてしまう。それが自分に向けられた事なのだと勘違いしたルーが足で攻撃をしてきた。
「あいた」
全然痛くないけど、条件反射で痛いと口にする。
「わらうなっ」
「ルーを笑ったわけじゃないし」
「じゃあ、なんでわらうんだよっ」
エロいことをしているのに、普段の会話みたいなのが不自然でまたもや苦笑い。怒ったルーが、全力で暴れだした。
「わっ、危ないって!」
すぐさま抑え込み大人しくさせるが、鼻息でルーが威嚇してきた。
なにそれ、可愛い。
「俺が笑ったのは、さっきルーの口の中に出したばっかりなのに、ルーがエロすぎてもう起ったなーって思ったから」
きょとりとした表情になって停止したと思ったら、頬がピンクから赤に変わった。そして、確認するように顔を下に向けると、そこには俺の立派に立ち上がったペニス。
今度は驚きとも期待とも取れるような表情になり、こくりと唾を飲み込んだ。
にやりと笑いペニスをルーのアナルに当てると、あっさり先端が飲み込まれる。
「がっつかないでよ、ルー」
「し、してない。してないからぁ」
「上の口は噓つきだなぁ。どんどん飲み込んでいくよ?」
「ちがっ、ちがうぅぅ・・・っ」
(あ、スキンをしてないや)
とはいえ、もう、止まれない。
ゆっくりゆっくりと腰を進める。ルーも物足りないのか腰がゆるゆると動いていて、すぐにでも奥まで突き入れてルーを揺さぶりたいけれども、ここはぐっと堪える。ここで行ったら、いつもと変わらない。いつもと一緒にはしたくない。だから、縛ってみたっていうのに・・・これって結構辛いかも・・・。
自分の欲を解放したくて、はあっと息を吐きだす。そして、またゆっくりと腰を進める。
ルーの胎内は、ローションを使っていないのに精液と先走りと腸液でぬるぬるで、うねっていって、収縮していて、まるで早く早くと俺を急き立てている様だ。
「んんぅうぅ・・・」
物足りなさそうな呻きがルーの口からこぼれた頃、漸く、奥にたどり着いた。
結腸の入り口。ここに入りたい。入れたい。でも、もう少し回数をこなしてからにしたい。絶対、ルーの負担になるから。
でも、ここに入りたい。
諦めきれず、出し入れせずに奥にぐりぐりと押し付ける。
ルーは切なげに啼き、上半身を丸めようとして自身の下半身が紐により余計に大きく開く結果になっている。
(もう少しだけ奥に・・・)
ルーの足が広がることでできた隙間を埋めるように腰を進め奥に押し付ける。
これを何度か繰り返していたら、先端が新たな穴に飲み込まれた。
その瞬間、ルーが声にならない声を上げて、激しく身体を震わせた。そして、ひと際きつく俺の精器を締め付けたかと思うと、胎内(なか)がぐねんぐねんとうねりまくった。
どうも、意図せず結腸に入り込んでしまったらしい。腹筋に力を入れてイくのを我慢する。
何とかルーの胎内(なか)が落ち着くまで我慢できた。
いつの間にか瞑っていた目を、ほっと息を吐きながら開けたら、ルーが見たことない酷い顔をしていた。
あ、いや。酷い顔だと悪口か。
いわゆる、アヘ顔というやつをしていた。
いつもはどこか理性を潜ませていたのに、今は全くそれを感じることができない。
目をのぞき込んでもどこか虚ろを見ているだけ。
「ルー・・・?」
心配になって名前を呼んでみたら、少しだけ瞳に理性が戻った。俺を認識したらしく、目がほんの少しだけ三日月を描く。
「ごめん。結腸に入っちゃった。大丈夫?」
小さな頷き。
よかった。こっちの話、理解できてる。
「このまま、ベッド行こうか・・・」
どういう事と言いたそうに小さく小首をかしげるルーに笑いかけ、紐を外し、ルーの両手を俺の首に回すとそれぞれの腕に両足を引っかける。
さ、ほんの1~2メートル移動すればベッドだ。
気合を入れるべく数回深呼吸すると、ぐっとルーを持ち上げた。
「ひぎっ⁉」
「っ⁉」
ルーの自重でさらに奥に入り込むのを感じた。いわゆる駅弁スタイルになったからなのだけど・・・一度やってみたかったとはいえ、さすがにルー相手では無謀だったかもしれない。少々自分の筋肉を過大評価していた。普段だったら大丈夫だったろうと思うけど、さすがにセックス中はきつかったか・・・。
とはいえ、持ち上げてしまったからには、ベッドまで移動しなければ、二人とも危ない。
一歩。一歩。足裏を引きずる様に確実に移動する。
その度に濁点の付いた喘ぎ声をあげ、胎内(なか)に居座る俺を締め付けて中を震わせて俺を追い詰める。歯を食いしばり何とかベッドにダイブした。
「あ゙あっ‼」
「うっ・・・」
倒れこんだ衝撃でさらに奥に入り込んだ。
結腸に入り込んだ時以上の締め付けとうねりに、目がちかちかと明滅する。
さっき出してなかったら間違いなく出てた。その位の衝撃。これで腰を動かしたら一体どの位の快感が得られるのだろう。そして、ルーは、どの位乱れてくれるのだろう。
少しだけルーの事が心配になったけれど、それを上回る好奇心で腰を引いた。
(きっつ・・・)
「ひ、あ、ぁっ、ぁああぁっ!」
ルーから止めどなく溢れる声。
いつもも素直に声を出してくれるけれど、それより大きくて、理性を手放したような、そんな声。
抜ける寸前までルーの胎内から引き出し、そして、上からプレスするように腰を叩きつけた。
ルーから汚い喘ぎ声が飛び出る。俺が腰を叩きつける度に。
脳みその回路が焼き切れるんじゃないかというほど気持ちよくて、夢中で腰を振った。
獣の様にただ自分の快楽の為にルーの足を抱え、ルーの細い腰を力いっぱい掴み、ルーの鎖骨や首に噛みつき、唇に吸い付いては呼吸を奪った。


   5.
「お昼ご飯買ってきてよ。あそこのカフェのね」
複数枚のディスプレイから目を反らすことなく、ルーは無機質に言い放った。
「わかった。何がいい?」
ちらりとこちらに視線が向く。手はキーボードから離れることなく滑らかに、そして素早く動き続ける。
「食べやすいの」
そう端的に言うと、視線はディスプレイに戻っていった。
「了解。じゃあ、行ってくるね」
スマホを手にして事務所を後にする。
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ドライブデートした日。まだ、たった2日前の事だ。
俺が正気に戻った時、ルーは意識を飛ばして俺の下で揺れていた。俺はというと、起ってもいないペニスをルーの腰に押し付けて振っていた。
ベッドはべちゃべちゃで、でも漏らした感じじゃなかったから、ルーは潮を吹いて意識を飛ばしたと思われる。
男でも潮を吹くってのは知識としては知ってるけど、今まで見たことはない。ものすごい気持ちいいって話らしいけど、それよりなにより、ルーが潮を吹く所を見られなかったのが残念でならない。
俺に世話をされながらもルーは俺を警戒しているから、どうも、ものすごい快感の記憶として残っているっぽい。
(あー・・・見たいなぁ・・・)
店に行く道すがら、涼しい顔をしてそんな事を考えて歩いていたら、あっという間に目的地に着いた。
この休みが終わったら一緒にランチに行こうとルーから誘われた店に、俺は休み中にランチのテイクアウトしに来た。
ルーなりの嫌がらせだろう。
なんて可愛い嫌がらせなのか。
好いた惚れたの駆け引きはほとんどしてこなかっただろうから、不器用な感じが堪らないよね。
(・・・でも、あれだな。ルー以外だったら、面倒だと思いそう・・・)
テイクアウトが出来上がるのを待ちながら、今度はそんなことを考えていたら、やっぱりあっという間に時間が過ぎた。
「ただいま。どんな感じ?」
「今、第二問がでたとこ」
「まじで? 早くない?」
ルーの隣に椅子を移動し机の上に買ってきたランチを広げると、ルーがキーボードから手を離し、大きく伸びあがった。
「いー匂い」
「休めそ?」
「うん。一問目は終わったし、二問目は俺が好きなやつだから、答えはあるし。それに」
くるりと椅子を回転させ俺に身体ごと向けると、
「お前が買ってきたランチを楽しみたいし」
と言って、にこりと笑った。
今日目を覚ましてから初めて見たルーの笑顔に、胸がきゅんとする。あ、俺、恋する乙女みたいで気持ち悪い。
いただきますと行儀よく両手を合わせると、買ってきたランチをルーはそれはそれは幸せそうに頬張った。


「あ~、終わったぁ~」
すべての問題への解答を終えたルーは、事務所の客用ソファーにダイブした。
身長がでかいから大分はみ出しているけれど。
「お疲れ様」
労いを込めてうつ伏せているルーの肩を揉む。
「あ゙~・・・」
ルーからお風呂に入った時のおっさんみたいな声がして、思わず吹き出す。
「おっさんじゃん」
「30歳のおっさんだもん。あ、そこそこ」
ソファに乗り上げ本格的に揉む。
肩からだんだんと腰に移動するにつれて、ムラムラが募っていく。
(いかんいかん。今は絶対だめ)
今襲ったら、絶対、会社から追い出される。臨時とは言え、きちんと仕事を任せてもらえるようになったってのに。
腰の付け根あたりを揉みながらルーの尻の柔らかさを密かに堪能していると、小さな寝息が聞こえてきた。
俺が無体を働き酷使した身体には、2日間パソコンの前に座りっぱなしのコンテストは相当堪えただろう。
ルーを起こさないように静かにソファから降り、
「少しだけだよ」
とブランケットをかける。そして、向かいの一人用のソファに腰を下ろし、その無防備な寝顔を神妙な気持ちで見つめた。


良いソファだとはいえ、うつ伏せで腰に悪い格好で長時間寝せる事は出来ないから、30分位で起こし、ルーの自宅に連れて帰った。実家に帰るよりかなり近いから。
事務所に行った時もそうだったけど、俺より長身でしかも腰がほとんど抜けている状態のルーを、抱き上げるでもなく背負うでもなく移動させるのはとても骨が折れる。
ベッドに到着した頃には、俺は長距離走をしたのか位息を荒げていた。
「・・・あー、しんどー・・・」
「うむ、ご苦労」
移動ですっかり目を覚ましたルーは、ベッドボードに背中を預け靴を脱ぎながら、偉そうにそう言った。
「・・・夕飯、どうする?」
「んー・・・その前にお風呂入りたい」
さすがに俺一人でルーを風呂に入れるのは怖かったから、お湯で濡らしたタオルで我慢してもらっていたけれど、さすがに限界らしい。
「少しでも自分で立ってられる?」
「床に座ってシャワー浴びるから大丈夫。風呂場に連れてってよ。這う位はできるから」
「はあっ⁉ ルーの膝を床に付けるっていうのっ⁉」
がばりと勢いよく身体を起こし、ルーに詰め寄った俺に、ルーは心底嫌そうな顔をして、
「・・・こっわ」
と言った。
「いやいやいやっ‼ 自分の身体がどんだけ大事なのか、ちゃんとわかってっ⁉」
「大事って・・・大事ならこんなになるまですんなよ・・・」
「ぐ・・・っ」
そこを突かれると何も言えない。
押し黙った俺を見て、ルーは呆れたように鼻から息を吐き、犬にやる様に俺の頭をぐりぐりと撫でてきた。
「そういうとこ、小さい頃から変わらないよな。俺の事になると猪突猛進になって、後で後悔して俺に縋ってくるの」
「だ、だって・・・」
「俺の事大事に思ってくれるのは嬉しいけど、やりすぎ」
優しくたしなめられ、子供に戻った気分だ。ルーと一日中遊んでいたあの頃の自分に。
「・・・わかった」
「うん。ありがとう」
じゃあよろしく、と首に腕を回されたから、お姫様だっこをして風呂場に連れていった。
心配でその場でおろおろしていたら、邪魔だと追い出された。しばらくドアの外で中の様子を伺っていたけれど、心配と妄想でどうにかなりそうだから、リビングに戻ることにした。
気を紛らわせる為に、冷蔵庫を開けてみたり床下収納を開けてみたり、とにかくあちこちを開けたり閉めたりしていたら、声が聞こえた。
「ザン、上がったよ」
振り返ると、ルーがバスルームから顔を出していた。いつもの高さに顔が見えるから、どうやら立っている様だ。
「え、立てるの?」
慌てて駆け寄る。
「・・・なんで笑ってるの?」
俺が近づくと、柱に額を付けて肩を震わせた。質問しても笑うだけ。そして、それは徐々に大きくなり身体の向きを変えて背中を壁に預けると声を上げて笑い始めた。
困惑していると、「連れてって」と腕を伸ばしてきたから、抱き上げてリビングに移動する。
その間も笑いが止まらないルーに、少しだけ心配になる。
俺、ルーの脳みそにダメージ与えちゃってた?
ルーをソファに座らせ、その横に俺も腰を下ろす。その間もさっきよりは治まったものの、くすくすと笑い続けているルーに、顔を寄せ質問する。
「ねえ、ルー。なんでさっきからずっと笑ってるの?」
「え~?」
少し渋った感じを見せながらも、仕方ないなぁと教えてくれた。
「だってさぁ。ザンったら、おっきいわんこなんだもん」
「わん、こ・・・? え? 犬みたいって?」
「そ、わんわん。おー、よしよし」
犬にやる様に両手で顔を挟まれ頬や頭を撫でられる。
「いい子なんだけど、感情に負けてちょくちょく暴走しちゃうのが玉に瑕(きず)なんだよねぇ」
そして、鼻先をくっつけて至近距離で視線を絡ませると、声を潜ませこう言った。
「夕ご飯食べたらご褒美あげるから、もう少し待てできる?」


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