満月の夜に君を迎えに行くから

桃園すず

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10.僕の後悔と仲直り

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 一週間ぶりに職場に向かう。緊張して、足は重たい。けれど、この仕事を続けようと決めたんだ。深呼吸をしてから一歩踏み出した。

「おはようございます」

 事務所に入るなり大きな声で挨拶をする。その場にいた何人かが驚いた顔をしたけれど、すぐに挨拶を返してくれた。熊谷さんのもとへ近寄る。

「長い間お休みいただき、ご迷惑をおかけしました」
「気合い入れてやれよ」
「はい!」

 一礼してから更衣室に向かう。ちょうど着替えを終えたらしい田辺さんがロッカーの扉を閉めたところだった。振り返った彼と目が合うと、気まずそうな顔で目を逸らされた。ぎゅっと拳を握る。これからもここで働いていくためには、田辺さんとの問題をどうにかする必要がある。

「あの、田辺さん。お話があります」

 勇気を振り絞って声を出す。早足で通り過ぎようとした田辺さんが足を止めた。

「俺は別に話すことないんだけど」
「でも、聞いてほしいです。お願いします」

 その場で深く頭を下げると、田辺さんのつま先がこちらを向いた。

「まず、田辺さんに取った失礼な態度、申し訳ありませんでした。田辺さんが聞いた話の通り、僕は前の職場で良くしてもらっていた先輩に怪我をさせてしまいました。それは僕の不注意で、弁解のしようがないことです。でも、本当は怪我をするのは僕のはずだったんです。先輩は僕を庇って……だから、今度の職場ではもし同じことが起きたとしても、僕を庇って別の誰かが犠牲になることがないように、一緒に働く仲間とは距離を置こうと思っていました」
「ミスする前提で行動するのって違うだろ」

 田辺さんは苛立ったように吐き捨てる。

「その通りだと思います。だから、僕の仕事に対する姿勢は良くなかったと思っています。本当にごめんなさい。でも、田辺さんにも謝ってもらいたいことがあります」

 緊張して心臓が喉から飛び出しそうだ。深く息を吸い込む。田辺さんは何も言わず、こちらをじっと見ていた。

「チェックリスト、改ざんしたのは田辺さんですよね? 僕のことを辞めさせようとしてやったんですか」
「……そうだよ。工藤みたいなのがいるとみんなのためにならないと思って」
「でも、だからってやっていいことと悪いことがあります。僕はミスがないように丁寧に仕事してきたつもりです。それに、田辺さんがやったことは、僕だけじゃなくて吉野さんや熊谷さん、車の持ち主のお客様にも迷惑がかかることです」

 言いたいことは言った。まだ心臓の鼓動は落ち着かないけれど、胸のつかえが取れたような気がした。

「……るかった」
「え?」
「だから、悪かったって言ったんだよ。俺さ、ただ嫉妬してただけなんだよ。また事故起こされたら困るからなんてそれっぽいこと言ったけど、それだけじゃない。工藤見てたらむかついたんだ。お前みたいに不愛想なやつが周りからちやほやされるのが気に食わなかった。熊谷さんにも目をかけてもらってるみたいだし、梨花ちゃんとも先に入った俺よりずっと仲良さそうだし」

 ちやほやされている、なんて意識はまるでなかった。たしかに親切にしてもらっているけれど。

「よくわからないですけど、それは僕が頼りないからだと思います。逆に言えば、田辺さんは心配するところがないってことだと思いますよ。吉野さんも言ってました。田辺さんは即戦力で手がかからないって」

 田辺さんは床に視線を落として黙り込んでしまった。僕みたいな半人前に励まされたって嬉しくないんだろう。人と関わり合うってやっぱり難しい。
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