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10.僕の後悔と仲直り
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あれからしばらく仕事を休んでいる。鈴音には、試験が近いから勉強するために休んでいると言ったけれど、試験問題を解こうと思っても、まったく頭に入ってこなかった。
最近また頻繁に事故のときの夢を見るようになった。吉野さんに、先輩に会ってみろと言われたことを思い出す。正直に言えばすごくこわい。けれど、このままうじうじ悩んでいても意味がないことはわかっている。
「すみません。せっかくのお休みの日に付き合ってもらって」
「いいよ、休みなんかどうせ家でごろごろしてるだけだし。頼ってくれて嬉しい」
かつての職場がある町に吉野さんと来ている。僕が怪我をさせてしまった先輩に会いに。吉野さんに会いに行ってみようと思うと打ち明けると、一緒に行かせてくれと言われた。きっと僕のことを心配して言ってくれたのだと思う。その優しさに甘えることにし、吉野さんと予定を合わせて先輩に会いに行く約束を取り付けたのだった。
「あ、ここです」
久しぶりに訪れる先輩の家。仕事終わりによくお邪魔させてもらっていた、通い慣れた家だ。アパートの二階、手前から三番目の部屋の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。しばらくすると、扉が開いて家主が顔を出した。
「工藤、久しぶり」
「お久しぶりです。あ、こちらは今の職場でお世話になっている吉野さんです」
「はじめまして、吉野です。今日は私までお邪魔してしまってすみません」
吉野さんはあくまで自分が勝手についてきたというスタンスのようだ。挨拶の後、どうぞ、と部屋に通してくれた先輩の後ろ姿を見て、息が詰まった。先輩の右腕の肘から下は、おそらく義手だ。僕のせいで。立ち止まりかけた僕の背中にトンと優しく手が触れる。振り返ると吉野さんと目が合った。言葉はなかったけれど、大丈夫だと言われたみたいで少し安心した。
ワンルームの先輩の部屋は、お世辞にも広いとは言えなくて、先輩は自分のベッドに腰掛け、僕と吉野さんはソファーに座らせてもらった。目の前のテーブルには、プラスチック製のカップがみっつと二リットルのペットボトルが置かれている。
「あ、私がやりますよ」
ペットボトルに手を伸ばそうとした先輩を制して、吉野さんがお茶を注いでくれた。
「工藤、整備士の仕事続けてるんだろ。順調?」
「あ、はい。すみません。もうすぐ二級整備士の筆記試験を受ける予定です」
「なんで謝るんだよ。俺は工藤が続けてくれててよかったと思ってるよ」
「整備士は、あの後何度も辞めようと思いました。でも、僕にはこれしかなかったので」
僕がそう答えると、先輩は眉根を寄せた。失言をしたのだろうと慌てて弁明する。
最近また頻繁に事故のときの夢を見るようになった。吉野さんに、先輩に会ってみろと言われたことを思い出す。正直に言えばすごくこわい。けれど、このままうじうじ悩んでいても意味がないことはわかっている。
「すみません。せっかくのお休みの日に付き合ってもらって」
「いいよ、休みなんかどうせ家でごろごろしてるだけだし。頼ってくれて嬉しい」
かつての職場がある町に吉野さんと来ている。僕が怪我をさせてしまった先輩に会いに。吉野さんに会いに行ってみようと思うと打ち明けると、一緒に行かせてくれと言われた。きっと僕のことを心配して言ってくれたのだと思う。その優しさに甘えることにし、吉野さんと予定を合わせて先輩に会いに行く約束を取り付けたのだった。
「あ、ここです」
久しぶりに訪れる先輩の家。仕事終わりによくお邪魔させてもらっていた、通い慣れた家だ。アパートの二階、手前から三番目の部屋の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。しばらくすると、扉が開いて家主が顔を出した。
「工藤、久しぶり」
「お久しぶりです。あ、こちらは今の職場でお世話になっている吉野さんです」
「はじめまして、吉野です。今日は私までお邪魔してしまってすみません」
吉野さんはあくまで自分が勝手についてきたというスタンスのようだ。挨拶の後、どうぞ、と部屋に通してくれた先輩の後ろ姿を見て、息が詰まった。先輩の右腕の肘から下は、おそらく義手だ。僕のせいで。立ち止まりかけた僕の背中にトンと優しく手が触れる。振り返ると吉野さんと目が合った。言葉はなかったけれど、大丈夫だと言われたみたいで少し安心した。
ワンルームの先輩の部屋は、お世辞にも広いとは言えなくて、先輩は自分のベッドに腰掛け、僕と吉野さんはソファーに座らせてもらった。目の前のテーブルには、プラスチック製のカップがみっつと二リットルのペットボトルが置かれている。
「あ、私がやりますよ」
ペットボトルに手を伸ばそうとした先輩を制して、吉野さんがお茶を注いでくれた。
「工藤、整備士の仕事続けてるんだろ。順調?」
「あ、はい。すみません。もうすぐ二級整備士の筆記試験を受ける予定です」
「なんで謝るんだよ。俺は工藤が続けてくれててよかったと思ってるよ」
「整備士は、あの後何度も辞めようと思いました。でも、僕にはこれしかなかったので」
僕がそう答えると、先輩は眉根を寄せた。失言をしたのだろうと慌てて弁明する。
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