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幕間2.魔女と少女
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星空を求めてたどり着いた河原で、少女は見覚えのある人影を発見した。いつか『魔女』と名乗った老婆だった。
「今日は満月じゃないな」
少女は老婆に語りかけるように呟いた。老婆はその呟きに少女のほうへ振り返る。ぎょろりとした金色の瞳が少女を見つめる。
「ああ、あのときの。ちゃんと人間になれたのかい?」
「いや、まだだ。でも、問題ない。期限までにタクミに愛してると言わせてみせる」
そう答えると老婆はくっくと喉の奥で笑う。
「そうかい。そりゃあよかった」
老婆はもう興味がないと言ったようにその場を立ち去ろうとする。
「どうしてそんなにさみしそうにしているんだ。魔女、お前は愛しい人に求められて人間になったんじゃないのか?」
少女の問いかけに魔女は立ち止まり、少女を見据える。薬指に輝く指輪に触れながら、微笑んだ。
「さみしいさ。あの人は先に逝っちまったからねえ。でも、幸せな人生だったことは間違いないよ」
今ならあの指輪の意味がわかる。一生を添い遂げるふたりが約束の印に身に着けるものだ。きっと、魔女は愛しい人と『けっこん』をしたのだろう。恐ろしい魔女に見えていたはずなのに、今目の前で笑っている老婆はとても優しい顔をしているようにも思える。
「お前さんも良い人生になるといいね」
「もちろんそうなる予定だ」
少女が返事をすると、もうそこに魔女はいなかった。首を傾げながら頭上に広がる星空を眺める。そろそろ帰らないと。早くタクミに会いたい。
「鈴音!」
会いたい気持ちが大きくなりすぎて、幻聴でも聞こえるようになってしまったのか。そんなことを考えながら振り返ると、そこには愛しい人の姿があった。
「今日は満月じゃないな」
少女は老婆に語りかけるように呟いた。老婆はその呟きに少女のほうへ振り返る。ぎょろりとした金色の瞳が少女を見つめる。
「ああ、あのときの。ちゃんと人間になれたのかい?」
「いや、まだだ。でも、問題ない。期限までにタクミに愛してると言わせてみせる」
そう答えると老婆はくっくと喉の奥で笑う。
「そうかい。そりゃあよかった」
老婆はもう興味がないと言ったようにその場を立ち去ろうとする。
「どうしてそんなにさみしそうにしているんだ。魔女、お前は愛しい人に求められて人間になったんじゃないのか?」
少女の問いかけに魔女は立ち止まり、少女を見据える。薬指に輝く指輪に触れながら、微笑んだ。
「さみしいさ。あの人は先に逝っちまったからねえ。でも、幸せな人生だったことは間違いないよ」
今ならあの指輪の意味がわかる。一生を添い遂げるふたりが約束の印に身に着けるものだ。きっと、魔女は愛しい人と『けっこん』をしたのだろう。恐ろしい魔女に見えていたはずなのに、今目の前で笑っている老婆はとても優しい顔をしているようにも思える。
「お前さんも良い人生になるといいね」
「もちろんそうなる予定だ」
少女が返事をすると、もうそこに魔女はいなかった。首を傾げながら頭上に広がる星空を眺める。そろそろ帰らないと。早くタクミに会いたい。
「鈴音!」
会いたい気持ちが大きくなりすぎて、幻聴でも聞こえるようになってしまったのか。そんなことを考えながら振り返ると、そこには愛しい人の姿があった。
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