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幕間1.魔女と満月
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けれど、あの日。ひとりの青年に出会ってしまった。
最初に彼を見かけたとき、随分と寂しいオーラを纏う人間だと思った。同時に、自分に似ているとも思った。いつもなら身を潜め、いなくなるまでやり過ごすのに、そうしなかった。こちらを見返してきた瞳が、優しかったからかもしれない。
その晩、もう一度青年の姿を見つけて、近寄ってみた。こちらに気づいた青年は、ゆっくりと手を伸ばしてきた。けれど、触れる寸前で手を止めた彼は、悲しげな色を瞳に宿していた。励ましたかったのか、自分でもよくわからないが、気づけば青年の指先を舐めていた。彼がくすぐったそうに笑う。その笑顔を見たら、なんだか胸の内側がぽかぽかとした。
「おまえ、この辺に住んでるのか?」
「そうだ。ここは隠れやすくて住みやすい」
「ちゃんとメシ食ってるか?」
「あまりおいしくはないが、それなりに」
質問に答えてやると、さらに嬉しそうな表情をして頭やら喉元を撫でてくる。人間にこんな優しく触れられたのは初めてだった。気持ちよくて、思わず喉が鳴ってしまい少し恥ずかしくなる。
「なあ、僕の家に一緒に来るか?」
「いいのか」
青年の申し出が嬉しくて、もっと触れてほしくて、大きな手にぐりぐりと額を擦りつけた。
「なんだよ、おまえ、可愛いな」
そう言って両手でたくさん撫でてくれた。けれど、やがてその手を止めて立ち上がってしまう。
「ごめんな、さっき言ったのは冗談だ。またね」
冗談か。心底残念がっている自分に驚いた。けれど、また会いに来てくれるんだ。こんなに心が弾んだのは、母さんと別れて以来初めてだった。
『またね』という言葉のとおり、それから毎朝青年は会いに来てくれた。それだけでも嬉しいのに、ごちそうまで用意してくれて、ますます朝が来るのが待ち遠しくなった。けれど、忘れちゃいけなかった。自分が黒猫だということを。この姿を忌み嫌う人間がいるってことを。
最初に彼を見かけたとき、随分と寂しいオーラを纏う人間だと思った。同時に、自分に似ているとも思った。いつもなら身を潜め、いなくなるまでやり過ごすのに、そうしなかった。こちらを見返してきた瞳が、優しかったからかもしれない。
その晩、もう一度青年の姿を見つけて、近寄ってみた。こちらに気づいた青年は、ゆっくりと手を伸ばしてきた。けれど、触れる寸前で手を止めた彼は、悲しげな色を瞳に宿していた。励ましたかったのか、自分でもよくわからないが、気づけば青年の指先を舐めていた。彼がくすぐったそうに笑う。その笑顔を見たら、なんだか胸の内側がぽかぽかとした。
「おまえ、この辺に住んでるのか?」
「そうだ。ここは隠れやすくて住みやすい」
「ちゃんとメシ食ってるか?」
「あまりおいしくはないが、それなりに」
質問に答えてやると、さらに嬉しそうな表情をして頭やら喉元を撫でてくる。人間にこんな優しく触れられたのは初めてだった。気持ちよくて、思わず喉が鳴ってしまい少し恥ずかしくなる。
「なあ、僕の家に一緒に来るか?」
「いいのか」
青年の申し出が嬉しくて、もっと触れてほしくて、大きな手にぐりぐりと額を擦りつけた。
「なんだよ、おまえ、可愛いな」
そう言って両手でたくさん撫でてくれた。けれど、やがてその手を止めて立ち上がってしまう。
「ごめんな、さっき言ったのは冗談だ。またね」
冗談か。心底残念がっている自分に驚いた。けれど、また会いに来てくれるんだ。こんなに心が弾んだのは、母さんと別れて以来初めてだった。
『またね』という言葉のとおり、それから毎朝青年は会いに来てくれた。それだけでも嬉しいのに、ごちそうまで用意してくれて、ますます朝が来るのが待ち遠しくなった。けれど、忘れちゃいけなかった。自分が黒猫だということを。この姿を忌み嫌う人間がいるってことを。
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