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14.君を迎えに行くよ

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 早川さんに偽名であったこととメッセージアプリのIDを伝え、電話を切った。すぐさまメッセージが送られてきて、開いてみると白猫と黒猫の写真が添えられていた。やはり、何度か見かけていた黒猫が鈴音で間違いないようだ。

 もう一度手元にあったリボン飾りの写真と比較してみても、首輪の飾りは似ているどころかまったく同じものに見える。気になるのは、その飾りがヘアゴムにつけられていたことだ。そういうデザインの首輪を買ったのではなく、髪飾りを後から首輪につけたみたいだ。そもそもどうして僕はこの髪飾りの写真を撮っていたのだろう。

 首輪をしまっていた引き出しをもう一度開けてみる。そこには手芸用品店の紙袋があった。中には赤いリボンの切れ端とリボン飾りの作り方を記したメモが入っていた。どうやらこの髪飾りは僕が作ったもののようだ。そうだとすると、なおさら最初から首輪につけなかったのが不思議でならない。これは、猫の鈴音ではなく、彼女に贈ったものということだろうか。


 部屋の荷物をあらかた段ボールに詰め終わった頃、早川さんから連絡が来た。

【鈴音ちゃんの目撃情報がいくつか上がってきました。ここ最近の情報のようなので、まだこの近くにいるかもしれません】

 メッセージとともに送られてきた地図情報をすぐに開く。この街にいるようだけど、探していた方面とは真逆の位置を示していた。お礼とすぐに向かう旨を伝えると、家を飛び出す。鈴音、お願いだからそこにいて。祈りながら道を駆け抜けた。

 やがて地図アプリが示す地点に辿り着いた。そこは前に黒猫を見かけた路地裏に似た雰囲気の場所だった。物陰の隙間を覗きながら歩いていると、通りかかる人にじろじろと見られるが気にしている場合ではない。

「鈴音。出てきてくれ」

 できるだけ優しい声で呼びかけながら探し続ける。それでも、なかなか見つからない。薄暗い路地は真っ黒な体を隠すのには優秀すぎるようだ。

「……ちゃん、鈴音ちゃん」

 すぐ近くから女性の声がして、振り向く。白くてふわふわとした猫を抱きかかえた女性――おそらく早川さんだろう――が同じように物陰の隙間を覗いていた。

「早川さん、ですよね。探しに来てくれたんですか」
「あ、工藤さんですか。どうしても気になって来てしまいました。大福も心配だったのか、ついてきちゃって」

 振り返った女性には見覚えがあった。どこかで会ったことがある気がする。僕の視線に気づいたようで、早川さんは首を傾げた。
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