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幕間3.叶わぬ想いなら出会わなければよかった

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 残された時間が少ないとわかり、焦ってしまったのがよくなかったか。好きになってもらうどころか、自分がタクミにとってお荷物でしかないと気がついてしまった。何も持たずに部屋を飛び出して、ひどい雨に打たれると惨めな気持ちになる。幸せになりたいと夢を見た自分に嫌気が差した。

 どこをどう走ってきたのかわからない。打ち付ける雨からは逃れようと、申し訳程度の庇を見つけ、その下に座り込んだ。雨は一向に止まなくて、少しずつ体温が奪われていくのがわかる。タクミの温かさが恋しい。だけど、自分は選ばれなかったんだ。それはつまり、今日にでも自分の存在がこの世から消えるということだ。こんなに寂しい思いで消えゆくときを待つなら、幸せを知らないままのほうがよかった。そう思いながら、目を閉じた。


「ねえ、大丈夫?」

 女の人の声にうっすらと目を開く。まだ暗く、夜のようだ。優しそうな瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「……大丈夫だ」
「返事はできるのね。よかった。こんなに震えて、かわいそうに。とりあえずうちに来て体を温めましょう」
「必要ない。どうせもう消えるのだから、放っておいてくれ」
「そうね、寒いわね。もう少しだけ我慢してちょうだい」

 女の人は、こちらの言い分が聞こえなかったかのような返事をすると、鞄の中から淡い水色のタオルを取り出すと、ふわりと掛けてくれた。小さそうに見えたのに、それは自分の体の大半を包み込んだ。おかしい。そう思うのと同時に、女の人に抱きあげられる。

――ちりん。

 タクミにもらった髪飾りが地面に落ちた。手を伸ばそうとしたが、タオルが邪魔をしてうまくいかない。

「あら、これはあなたの? 飼い猫さんなのね。迷子になっちゃったのかしら。今日はもう遅いし、とにかく今晩はうちで休んでいきなさい」

 女の人は髪飾りを拾い上げると、鞄の中にそっとしまい込んだ。抱きしめられたら温かくて、心地よくて。再び目を閉じる。どうやら今は猫の姿らしい。自分に何が起きているのかわからない。けれど、考えようにも頭が働かなかった。
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