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13.記憶の欠片と僕の決意

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 週末の昼、母とふたりで家を出た。やっぱり少し気まずくて、会話はろくにできないままサーキットに到着した。久々に訪れたサーキット独特の空気に胸が高鳴る。今日のレースは開幕戦らしく、多くの観客で賑わっている。チケットを確認しながら座席に辿り着くと、持参した双眼鏡を構える。整列したマシンたちはメカニックによる最終チェックを受けていた。真剣な表情のチーム関係者やメカニックの様子を見ていると、こちらにも緊張感が伝わってくる。

 チームスタッフたちが去っていき、国歌斉唱と開会宣言が行われる。いよいよだ。グリーンフラッグが振られ、セーフティーカー先導のもと、フォーメーションラップが始まった。

「あまりスピード出さないのね」

 呟いた母に、今はね、と返事をする。いつの間にか母も身を乗り出してマシンたちをじっと見つめている。

「あれは何をしているの?」

 母が指さすほうを見て、いつか自分も父に同じことを訊ねたのを思い出す。

「タイヤを温めてるんだよ。ああやって蛇行運転したり、急加速・急減速したりして、この後のスタートに備えてるんだ」

 周回してきたセーフティーカーがピットインし、マシンが二列の隊列を組み始める。シグナルが青に変わり、先頭のマシンがコントロールラインを越えると、一気にスピードを上げる。後続車両も先程とは打って変わって、エンジン音を唸らせながら走り出していく。隣で母がわあっと小さく声を上げた。

 周回数が大体三分の一を越えた頃、一台のマシンがピットインした。思わず身を乗り出してしまう。マシンが入ってくるなり、メカニックたちが駆け寄り、素早くタイヤ交換をしていく。そして、流れるようにそのマシンはピットを後にした。やはり無駄のない動きで、見ていて惚れ惚れする。拳を握る。僕もあそこに立ちたい。改めてそう思った。


「巧、ごめんね」

 サーキットからの帰り道、母が呟いた。

「今まで頭ごなしに否定ばっかりして。もう大人だし、巧がやりたい仕事をやればいいよ。でも、レースメカニックって、ドライバーの命預かっているようなものなんでしょう。ちゃんと、やんなさいよ」
「もちろん。そのつもり」
「あと、たまには顔見せなさい。それと、巧がサーキットで働くところ、見せてね」
「……うん」

 夕陽が作り出すふたつの影を眺めながら、僕の決意は揺るぎないものになった。
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