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13.記憶の欠片と僕の決意

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「それで? 突然帰ってきて何か話があるんでしょ。まさか、結婚とか言わないわよね」

 想定外の言葉に口に含んだお茶を吹き出しそうになる。

「そんな予定ないよ。……仕事のこと」
「まあそうだろうと思ったけど、一応ね。整備士、やっぱり続けるの?」
「続けたいと思ってる。この前、二級整備士の資格も取れたんだ」
「そう」

 それきり母は黙ってしまって、気まずくなる。やはり、まだ反対しているのだろうか。どうしたら認めてもらえるのだろう。

「巧、久しぶりにサーキット行くか。ちょうど週末のレースのチケットを二枚譲ってもらったんだ」

 父も気まずかったのだろう。話題を変えようとしたみたいだけど、結局車の話になっている。

「いいね、行きたい。資格も取れたし、もう少し経験を積んだらレースメカニックを目指そうと思ってるんだ」
「そうか。いいじゃないか。巧、昔から好きだったもんな」

 覚えていたんだ、と照れ臭くなる。小さいころに魅了されてから、何度も父にサーキットに連れて行ってくれと頼んだ記憶がある。レースがない日もあって、それがわからなくて泣きわめく僕をなだめるのに必死だった両親の様子を思い出す。

「本当、男の人って車好きよね。私にはよくわからないわ」
「母さんは行ったことないからな。そうだ、今回は母さんと巧のふたりで行ってきたらどうだ? 生で見るのは迫力が違うぞ」
「でも、チケットはあなたがもらったんでしょう。私はいいわよ」
「俺は何度も行ったからさ、行っておいで」

 母は渋々、といった表情で頷いた。一緒に行って楽しんでくれたら、もう少し前向きに僕の仕事を受け入れてくれるだろうか。


 久々の夕飯は僕の好物ばかり並んでいた。急に帰ってきたというのに、いろいろ準備してくれたんだと思うと、嬉しくてつい頬が緩む。父は父で酒盛りする気満々だ。まずはビールから、とグラスに黄金色の液体が注がれる。丁寧に白い泡を作ってくれた。僕も父のグラスに注ぎ返したけれど、父みたいに綺麗な泡はうまく作れなかった。

「それじゃあ、改めて。巧、おかえり。乾杯」

 グラスを合わせた後、すぐに口を付ける父に倣ってビールを喉に流し込む。苦いと聞いていたけれど、喉が渇いていたからか、とてもおいしいと感じた。あっという間に空けてしまうと、待っていたように父が二杯目を注いでくれた。

「巧、飲めそうだな」
「あんまり飛ばしすぎないでよ。明日二日酔いになっても知らないわよ」

 二杯目のビールを空けた後は、父が楽しみにしていたという日本酒を勧められる。フルーティで飲みやすいと感じたが、母に少しずつ飲むようにと口酸っぱく言われ、ちびちびと口に運ぶようにした。それでも食卓を立つ頃には、酔っぱらったのだろう。ふわふわと雲の上にいるような心地がした。父も布団に入るまでいろんなところで居眠りして、散々母に怒られていた。でも、母も楽しそうで、たまに飲む酒も悪くないと思った。
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