満月の夜に君を迎えに行くから

桃園すず

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13.記憶の欠片と僕の決意

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 三月に入り、一週間ほど休暇をもらった。二級整備士の試験に無事合格したら、実家に一度顔を出そうと思っていたのだ。家を出た頃は、二度と帰らないつもりだった。でも、最近になって母に会いたいという気持ちが湧いてきたのだ。どうしてこんな心境の変化があったのかよくわからないけれど。でも、僕がやっていることを認めてもらいたいと心のどこかで思っていたのだろう。

 もともと自分が住んでいた家だというのに、どうやって入るべきか悩んでしまう。ただいま、と言って入ればいいのだろうか。そもそもチャイムを鳴らしたほうがいいのだろうか。玄関口でかれこれ五分は考え込んでいただろう。

「巧? 何してるの、そんなところで」

 振り返ると、母が立っていた。何年ぶりだろう。記憶の中の姿より、少しふっくらしている気がする。元気そうでよかった。

「た、ただいま」
「おかえり。帰ってくるなら連絡ひとつくらいしてくれたっていいのに。寒いでしょう。早く入りなさい」

 家の中へ押し込まれるようにして入った。母は怒っていないのだろうか。あまりに平然と接せられて、拍子抜けしてしまう。廊下を抜けて、リビングに足を踏み入れる。懐かしい匂いにほっとする。父はソファーに座って、テレビを見ていた。

「父さん、ただいま」
「え、巧? どうしたんだ急に。とにかくおかえり。しばらくこっちにいるのか?」
「そのつもり。一週間休みもらったから」
「そうか。巧は酒強いか? 父さん巧と飲むの楽しみにしてたんだ」

 あまりに嬉しそうな父を見て、緊張が一気に解れる。家を出たのは、高校を卒業してすぐだったから、ずっと待っていたのだろう。これからはもう少し頻繁に帰ってくるようにしたい。

「お酒はまだあんまり。おいしいの教えてよ」
「わかった。母さん、あれ、冷やしておいてくれ。今日はうまい酒が飲めるな」
「飲みすぎないようにしてよ」

 夕飯までは時間がまだあるから、温かいお茶を淹れてもらい、三人で食卓を囲む。昔使っていた湯呑を出され、僕の居場所がちゃんとあったことを実感する。ふうふうと息を吹きかけてひと口飲む。
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