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8.君のことばかり考えてしまう

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 カレーはてっきりふたりで作るものだと思っていたけれど、鈴音はひとりでやると言い張って聞かなかった。なんだか様子がおかしいんだ。やけに僕の機嫌を取ろうとしてくるのが気にかかる。

――鈴音が人間になってどれくらい経ったか覚えているか?

 たぶん、あの質問の後からだ。やっぱり鈴音は僕とずっと一緒にいる気なんてないのかもしれない。タイムリミットみたいなものが近づいてきていて、慌てて恩返しをしているんじゃないだろうか。

「もしかして、ここを出ていこうとしてたりする?」

 不安になって、鈴音に問いかけた。鈴音はまるい瞳を大きく見開いて、それからぎこちなく笑顔をつくる。やっぱりそうなんだ。直感で思った。

「タクミがずっといてほしいと言うなら、一緒にいる」
「ふーん。鈴音の気が済むまでここにいたらいいよ」

 いなくなったりしないで、とは言えなかった。今の僕にはこれが精いっぱいだった。それに、僕の言葉で鈴音を縛りつけたくなんかなかった。鈴音がここから旅立つ日、僕は笑顔で見送ることができるのだろうか。さよならの準備が必要かもしれない。

(大丈夫。もとの生活に戻るだけだ)

 勉強しようと参考書を広げてみたけれど、ちっとも頭に入ってこない。鈴音のことばかり考えてしまう。筆記試験はいよいよ来週に迫っているというのに。焦れば焦るほど、時間は無情にも過ぎていった。
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