満月の夜に君を迎えに行くから

桃園すず

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6.僕の過去と夢の話

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「なあ、その先輩には事故の後会った?」
「いえ……どんな顔して会えばいいのかわからなくて……」
「会ってみたらいいと思うよ。たぶんその人は工藤のこと恨んでなんかいないよ」
「どうしてそんなことが言えるんですか?」

 吉野さんはふっと視線を逸らした。事務所のほうを見つめている。

「俺が、そうだったから」
「それって……?」
「気づかなかった? 俺、義足なんだよ」

 そう言いながら吉野さんは左足のズボンの裾を上げて見せる。肌色ではあるが、それは人工物独特の光沢を放っていた。

「熊谷とは元々一緒に働いていた仲間でさ。あいつが不注意で事故起こして、そばにいた俺は咄嗟にあいつを庇った。それで、車の下敷きになったってわけ」

 吉野さんはそこで一度話を止め、休憩スペースに足を向けた。その後に続いて、ふたりで並んでベンチに腰掛ける。

「病院で目が覚めて、膝から下が無くなってることに気づいたときは絶望したよ。だけど、生きてるからさ。人間って意外としぶといんだよな。結局俺はまたこの仕事をしてるし」

 どんな言葉をかければいいのかわからなくて、僕はただ頷いた。

「当時の職場は従業員を稼ぐための駒としか見ていないようなところで、毎日へとへとだった。あいつが事故起こさなかったら、俺がやってたかもしれない。あいつはもう二度とこの仕事をしないことが俺への償いだと言ったよ。あいつだってこの仕事が好きなのに。そんなのってないだろ。わざとやったわけじゃないんだから」
「そんな風に割り切れるものですかね……少しも恨んでいないんですか?」
「最初はたしかに気持ちの整理がつかなかったよ。でも、さっきも言ったろ。生きてれば意外とどうにでもなるんだよ。少なくとも俺は、あいつを庇ったことを後悔していないし、あいつのことも恨んだりしない。とにかく、一度会ってみろよ。不安なら俺も付き合ってやるし」

 もし、先輩が僕のことを恨んでいなかったとして。僕は自分を許せる気がしない。だけど、吉野さんみたいに、前向きに生きてくれていれば、少しは救われる気がする。

「俺が一番嬉しかったのは、あいつがこの工場を立ち上げてくれたことかな。俺がリハビリ頑張ってる間に、必死で腕磨いてさ。最初は小さい工場だったけど、今はだいぶ立派になった。いい職場だろ?」
「はい……そう思います」
「俺の考え押し付けて悪かったな。でも、俺みたいなやつもいるって、頭の片隅にでも入れといて」
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