満月の夜に君を迎えに行くから

桃園すず

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4.君と繋いだ手を離したくなかった

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 ランジェリーショップの前に近づくと、すでにふたりとも店の前で待っていた。親しげに話している様子で、鈴音が梨花さんに慣れてくれたことに少し安心する。

「タクミ! 遅いぞ!」
「ごめん。あ、梨花さん、お金渡してなかったよね。いくらでした?」
「いえいえ、まさか鈴音ちゃんお金持ってないとは思わなくてびっくりしちゃったけど」

 梨花さんはレシートをそっと見せてくれた。想定よりも高い金額に驚く。

「え、こんなにするの?」
「女の子の身だしなみにはお金がかかるんだよ」

 僕の下着なら十枚くらい買えそうな値段だ。これじゃあ洋服なんか買えないのではないかと不安になる。複雑な気持ちになりながら、手伝ってもらったお礼の気持ちを込めて、少しばかり多めにお金を渡した。

「可愛いの買ったから、許してあげて。ね、鈴音ちゃん」
「そうだ、可愛いから許してくれ。タクミ、後でノーサツしてあげるから」

 思いがけない言葉が鈴音の口から出てきて、思わず吹き出した。

「ちょっと、梨花さん。鈴音に変な言葉教えないで」
「いいじゃない。すっごく可愛いから期待してて。後はどこ行くの?」
「服も買おうと思ったんだけど、今のが結構な出費だったから厳しいかも」
「ごめん、そうだったの……そんなにお金ないと思わなくて……」

 申し訳なさそうにされて、惨めな気持ちになってくる。今までだって、娯楽やお洒落のためにはあまりお金は使ってこなかったつもりだ。日々生活するだけで精いっぱいだったから。そんな自分が女の子ひとりを養っていくなんて到底無理な話だったのだ。猫一匹だって厳しかったかもしれない。考えもなしに鈴音を飼おうと決めたのは間違いだったかもしれない。でも、あのまま見過ごすこともできなかった。悔しさと情けなさからぎゅっと拳を握ると、とんと肩を叩かれる。顔を上げると、梨花さんが笑顔で僕の顔を覗き込んでいた。

「わかった。安くても可愛いお店知ってるから、そこで買おう。それから、わたしがもう着ない服でよければ譲ってあげられるけど、どうかな?」
「ぜひ、お願いします。梨花さんありがとう」
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