27 / 96
3.君は嵐のように僕の心を乱す
5
しおりを挟む
「そんなこと聞かれても困るよ。君は昨日まで猫だったわけだし、正直今もこの状況を受け入れられていないんだ」
「そうか。それもそうだな。すまなかった」
鈴音はしょんぼりと項垂れてしまった。別に、恋愛感情として聞かれたわけではなかったのかもしれないのに、突き放すように返事をしてしまったことを少し後悔する。何かフォローしようかと考えていると、鈴音がぱっと顔を上げた。
「タクミ、今日はシゴト行かないのか?」
「うん、今日は休みなんだ」
「じゃあ今日はずっと一緒にいられるのか」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、嬉しそうに見上げてくる鈴音に、つい頷いてしまう。今日はもともと鈴音を動物病院に連れていこうと思っていた。でも、人間の姿になってしまったから、その必要はなくなってしまった。それにしても、おかしなことになった。猫を飼ったつもりが、人間の女の子の世話をすることになるだなんて。
そんな役目は別の人にお願いしたいところだけど、猫が人間になっただなんて、誰が信じてくれるだろうか。それに、Tシャツ一枚着ただけの女の子を外に放り出せるほど僕も鬼ではないつもりだ。
だからといって、女の子の下着や洋服をひとりで買いに行けるほどの心の強さはなかった。鈴音を一緒に連れて行って、自分で選んでもらうのがいいのだろうか。横目で彼女の様子を確認すると、あられもない姿で横になっていた。
思わずため息が出る。一応僕だって、年頃の男なわけで。隙だらけの魅力的な女の子を目の前に変な気を起こさないとも限らない。もちろんそんなことするつもりはないけれど。とにかく先が思いやられる。
タンスの奥から、まだ未開封だった新品のボクサーパンツを引っ張り出した。今着せているものよりも厚手のTシャツと、自分が持っている中で比較的細身のジーンズも取り出す。
「鈴音、今日は買い物に行こう。服買おう」
「服? 鈴音はこれで十分だ」
ごろりと体勢を変えた鈴音の白い太腿が視界に入り、唾を飲み込む。こんなものを毎日見せられたらたまったもんじゃない。
「鈴音は人間として生きていくつもりなんだよね?」
「そのつもりだ」
「それなら人間らしい生活をしてもらわないと。外に出るからこれ着て」
服一式を渡すと、鈴音はボクサーパンツを広げてまじまじと見つめる。
「タクミ、これはどうやって着るんだ?」
「そうか。それもそうだな。すまなかった」
鈴音はしょんぼりと項垂れてしまった。別に、恋愛感情として聞かれたわけではなかったのかもしれないのに、突き放すように返事をしてしまったことを少し後悔する。何かフォローしようかと考えていると、鈴音がぱっと顔を上げた。
「タクミ、今日はシゴト行かないのか?」
「うん、今日は休みなんだ」
「じゃあ今日はずっと一緒にいられるのか」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、嬉しそうに見上げてくる鈴音に、つい頷いてしまう。今日はもともと鈴音を動物病院に連れていこうと思っていた。でも、人間の姿になってしまったから、その必要はなくなってしまった。それにしても、おかしなことになった。猫を飼ったつもりが、人間の女の子の世話をすることになるだなんて。
そんな役目は別の人にお願いしたいところだけど、猫が人間になっただなんて、誰が信じてくれるだろうか。それに、Tシャツ一枚着ただけの女の子を外に放り出せるほど僕も鬼ではないつもりだ。
だからといって、女の子の下着や洋服をひとりで買いに行けるほどの心の強さはなかった。鈴音を一緒に連れて行って、自分で選んでもらうのがいいのだろうか。横目で彼女の様子を確認すると、あられもない姿で横になっていた。
思わずため息が出る。一応僕だって、年頃の男なわけで。隙だらけの魅力的な女の子を目の前に変な気を起こさないとも限らない。もちろんそんなことするつもりはないけれど。とにかく先が思いやられる。
タンスの奥から、まだ未開封だった新品のボクサーパンツを引っ張り出した。今着せているものよりも厚手のTシャツと、自分が持っている中で比較的細身のジーンズも取り出す。
「鈴音、今日は買い物に行こう。服買おう」
「服? 鈴音はこれで十分だ」
ごろりと体勢を変えた鈴音の白い太腿が視界に入り、唾を飲み込む。こんなものを毎日見せられたらたまったもんじゃない。
「鈴音は人間として生きていくつもりなんだよね?」
「そのつもりだ」
「それなら人間らしい生活をしてもらわないと。外に出るからこれ着て」
服一式を渡すと、鈴音はボクサーパンツを広げてまじまじと見つめる。
「タクミ、これはどうやって着るんだ?」
2
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ぎんいろ
葉嶋ナノハ
ライト文芸
夕方を過ぎる頃、まひるは銀杏の樹の下で蒼太と共に一枚の葉を探す。手にすればあの人に会えるという、優しい伝説を信じて――。
まひると蒼太は幼なじみ。まひるの思いを小さな頃から知っていた蒼太は、願いを叶えるためにいつも傍にいた。※多視点で話が進んでいきます。2011年の作品。サイトからの転載です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる