満月の夜に君を迎えに行くから

桃園すず

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1.君との出会いは偶然だった

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 前の職場は、経験も資格も持たない僕を雇ってくれた。そのおかげで、三級整備士の資格を取得することができた。だけど、三級ではできることは限られている。上位資格者の監督なしには、エンジン部の整備をすることはできない。午前中は、簡単な点検作業をいくつかやっただけであっという間に終わってしまった。

 お昼休憩になり事務所に戻ると、長机の前に並ぶように他の従業員たちが腰かけていた。ここでは、昼食は出前を取ってくれる。僕がこの工場で働くことを決めた理由のひとつはこれだった。機械油に塗れた僕らは、食事処では歓迎されない。人目を気にしながらの食事は、全然食べた気がしなかった。どこに座ろうかと悩んでいると、熊谷さんに手招きされる。

「ちょっとみんないいか。今日から一緒に働く工藤だ。困っていたら助けてやってくれ」

 熊谷さんが声をあげると、従業員たちの視線が集まる。田辺さんもこちらを見ていたけれど、目が合うと視線を逸らされた。嫌われたのかもしれない。あんな態度を取ったのだから、当然だろう。自分が望んでやったのに、胸の奥がちくりと痛んだ。

「工藤です。ご迷惑おかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

 お辞儀をすると、ぱらぱらと「よろしくー」と声が返ってくる。紹介の時間は終わったようで、熊谷さんは自席に戻ると食事を始めた。それを合図に他の従業員たちも食事を再開する。

「工藤、ここ空いてるよ」

 指導担当の吉野よしのさんに呼ばれ、その隣に着席した。揚げ物ばかりの安い弁当でもなくて、ちゃんと午後の活力になるようなしっかりしたごはんは嬉しい。吉野さんは必要以上に話しかけてくることはなくて、食事に集中することができた。
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