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09 歴代の神子

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先代の神子は金髪に青い目の女性だ。名前はアルファベッドで表記され、その下の行にこちらの文字が書かれている。

「神子様の名前は最初からわかっているんですね」

「さようでございますが・・・・」

「それで召喚の時ワタヌキ・ダイスケと名前の確認ができたのですね」

「さようでございます」

「この方が先々代の神子様です」

神託の板にには四月朔日わたぬき勇之進ゆうのしんと書かれていた。
その下の行にこちらの文字でワタヌキ・ユウノシンと書かれている。

隣の肖像画とその横に置いてある物を見てイズミは目を瞑り顔を上に向けた。深く息を吸い込んで吐き出した。

『勇之進』イズミはその名前に覚えがある。祖父の祖父だか、祖父の祖父の父親の一番したの弟だ。

裏庭で鍛錬していて行方不明になった。神隠しと伝わっている。

親戚、兄弟に可愛がられていたと言い、その後の逸話も興味深い。なんでもある朝仏壇にその勇之進の愛用の刀の先の部分が供えてあったというのだ。

それを見た勇之進のおかあさんはこれは元気に暮らしているという勇之進からの連絡だと言い、見違える程元気になったと伝わっているが・・・・・

多分、その人の言うことは正しかったのだろう。

肖像画は微かに笑みを浮かべている。

折れた刀の先の部分はその後桐箱に紅絹で包まれ収められ、床の間に置かれた。イズミは何度かそれを見ている。

他の神子様もみたが日本人の名前はワタヌキだけだった。

最後の神子様をみて部屋を出ようとすると

「イズミ様、よろしければ神殿に居を移しませんか?神子様がイズミ様のことを悪く言っていると聞いております。なにかされると大変でございます。それにアレン様の束縛が強いのでは?王宮は罠やはかりごとが多い場所でございます。清廉であられるイズミ様の住む所ではないと・・・・」

と言いながら手を取ってきた。そのままくちづけをすると手を離し

「神殿の準備はできております。いつでもお越し下さい」と結んだ。



「イズミ、お帰りなさい。どうでしたか?なぜか神子様は宝物殿に行かなかったようですね」

「そうだろうね、会わなかったから」

「お勧めしておりませんから」と神官が冷たく言うとジョーが口を押さえて

「あの・・・・」

「お急ぎのようでしたので次回にでもご案内致します」と神官が安心させるように言った。

アレンにうながされてイズミは神殿を出た。

「神殿ってどうでしたか?僕は皆さんが音を立てずに静かに歩くので緊張してしまって・・・・清らかな場所なのに・・・恐れ多くて」とジョーが言うと

「僕は落ち着くいい場所と思ったけど・・・・神官さん達って失敗したり慌てたりすることってあるのかな?」とイズミが答えた。

「僕もそれ思います。皆さん完璧ですよね」

「神官さんてどんな人がなるんですか?」とジョーがアレンに尋ねた。

「いろいろだ。さっきの神官は侯爵家の生まれだ。治癒力に秀でているし貴族に伝手も多い」


その後、街を歩きイズミは武器を売っている場所、古着屋などを見つけできるだけ地理を覚えた。



逃げるきっかけを作るためにイズミは積極的に城内を歩くようにした。護衛はついているが、順番でつく護衛の何人かはイズミに敵意を持っているのが丁度良い。

下の地位の者程、神子の流したうわさを信じているのだ。

昨日は食堂でスープをかけられて、立ち上がって拭こうとしたジョーが突き飛ばされた。
そんなことが毎日続いたが、どうも決定打に欠けるのがもどかしい。そのうえ、良いところにレオ王子が現れたりして台無しになってしまう。

そろそろ、夜逃げかなと思い始めた時、魔獣が増えて小さな村に被害がでた。

魔獣は数を増やしながら付近の村を順に襲って行った。

そこでアレン率いる討伐団が結成された。神子の派遣が検討されたが結論が出る前に急ぎアレンは出発した。

「イズミ、わかっていると思うが今まで以上に気をつけてくれ。俺がいなくなればスープをかけるような可愛いい事で済まなくなるぞ。必ず護衛を連れて歩くように」

「うん、わかってる。護衛がいれば大丈夫だよ」とイズミはアレンの目をみて微笑んだ。

アレンは少しためらったが、イズミを抱きしめて

「すぐに帰ってくるから、待っていろ」と言うと一度手を緩めたがもう一度抱きしめてイズミを解放した。

翌日、見送りの列の後ろからそっと見送ったイズミが仕事に戻ろうとすると

「おや、イズミだ。まだお城にいたんですね」といつもの取り巻きの声がした。

「君たち、意地悪を言うのはやめろ。こんなのにかまうのは時間の無駄だよ」と神子の声がした。

面倒だし、無礼な態度をみせておこうと、さっさとその場を離れた。

取り巻きがなにかいうのに神子が答えたようだが、イズミは聞き取れなかった。



「よし、チャンス到来」とイズミは呟いた。

第一王子のレオ殿下の母親からのお茶会の誘いを受けたのだ。正式に招待状はなく侍従の口頭による誘いだ。

迷ったが
「招待状がないお誘いに喜んで伺うのは軽率の謗りを免れません。わたくしは遠慮させて頂きます」

「なに?マリングレン妃殿下のお誘いを断るのか?」

「そうなりますか?これはお誘いですか?」

「・・・・・」一瞬怯んだ侍従は

「生意気だ」と呟くと去って行った。

「臆病なやつ一発殴ってくれたら良かったのに」イズミは心から残念だった。


しばらくして正式に招待状が届いた。

イズミは前に着た紺色の上下を着て護衛と共に会場にやって来た。

入口で護衛は止められイズミだけが中にはいった。

「あら、イズミ遅かったわね。わたくしごときの招待は適当でいいと?」

いきなりマリングレン妃が声をかけた。

「僕に来た招待状はこの時間が指定されてましたが」と答えると

「お前は口をきくな」と叱責が飛んだ。イズミは素直に口を閉じた。

黙ってじっと立ってるイズミを無視してお茶会は進んだ。

出席者はマリングレン妃と他の妃二人も来ている。王女も来ていて大きな茶会であるようだ。

ただ全員が示し合わせたようにイズミを無視している。これはどういう意図だろうかとイズミは考えた。

そこに侍従が知らせてきた。

「神子様がおいでです」

「お待ちしておりました」とく口々に言いながら出席者たちが席を立ち礼をとろうとすると
「いや、それが止めろって前から、調子が狂うんすよ」とワタヌキが言うと皆が、

「「「「「「そうでした」」」」」」

「「神子様は気さくにお話して下さるお方ですものね」」といいながら手を取って席に案内した。

神子はイズミをみてニタっと笑ったが、なにも言わなかった。
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