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08 神殿
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翌日、目が覚めたイズミは、ベッドにいることに驚いた。そして思い出した。アレンが運んでくれたのだ。
ベッドから飛び出ると冷たい水で顔を洗ったが、自分をすっぽりと包んだ感触を消せなかった。
こんなことではダメだと無理やり意識を昨夜の自分の失敗に向けた。
正しい選択は王子を置いて逃げることだった。異世界からやって来てなにもできない自分だ。逃げるのが当たり前だ。それがこともあろうに王子に立場を考えて逃げろなどと・・・
なぜか、前世の感覚に引きづられているのだ。王宮にいるせいか?
王子の側近として権力争いの渦中で働いた。裏切りと粛清・・・・笑顔で寄ってきた友に切りつけられた・・・・倒れた自分を見下ろす友の目から涙が落ち・・・なにか囁いたが聞き取れなかった・・・・その時に死んだのだろうか?
それでは、ベッドで自分を見下ろした青い目は誰のものだろうか?あの温もりは?
前世では男に抱かれたのだろうか?日本の生活では綺麗な女の子をみるとドキドキしたが・・・・
自分は夢のなかのあの男ではない、四月一日・大輔だったイズミだ。
イズミが考えを巡らしている頃、アレンは襲撃の背景を思い描いていた。直接の襲撃犯は面倒な為始末したが、お披露目では神子のワタヌキよりイズミのほうが注目されてしまった。
イズミを最初に見つけたのはアレンだ。誰にもゆずるつもりはない。名前も与えたしと思うアレンの口元は笑みを浮かべていた。逃がすつもりはない。
イズミの気持ちはどうであれ、この世界で後ろ盾なしでやっていくのはむずかしい。
神殿に啓示を見に行きたいと言うのを聞いてアレンは気がかりが増えた。
治癒するとき、神官がイズミの頬に手を添える様が不愉快だったのだ。
考えすぎだ・・・・そう思っているが・・・・自分の気持ちをうまく調整できなかった。
イズミとジョーの二人で神殿に行く日にアレンも同行した。
神殿は人々が自由に訪れ神託の板も公開されている。三人が神殿に着いたとき
「奇遇だね」とレオから声をかけられた。
レオと神子のワタヌキと取り巻きが立っていた。
「イズミ、お前、夜会の途中で帰ったんだな」と神子のワタヌキがイズミに話しかけた。
「いろいろありましたので」とイズミが礼を取った。
「随分礼儀正しくなったね。帰りたいと無礼を抜かしていたのに」と取り巻きの一人が言うと
「そうですね、お披露目の場でも神子様を差し置いて無作法ぶりを見せてましたね」
「ほんと目に余る振る舞いでした。神子様に変わって成敗したいとさえ思いました」と口々に言い出した。
イズミは
「神子様それは申し訳ございませんでした」と頭を下げた。
「分をわきまえるのは大事だぞ」と取り巻きが言うと
「時間を無駄にしてしまった。行くぞ」とワタヌキが歩き出した。
その様子をみたジョーが
「アレン様ひどすぎます、あんなことを・・」というとレオ王子が
「あれでも神子だ」と言うとアレンと並んで歩き出した。
「一緒に行かないのですか?王子殿下。行ってしまいましたよ。」とアレンが言うと
「冷たいね。どうせ同じところに行くんだよ。イズミと喋りたいな」とイズミの横に移動してきた。
「イズミこのまえのお礼じゃ足りないよね。もっとお礼をしたいな」
「王子殿下先日は過分なお言葉を頂きました。過分なお品物もこれ以上はお控え下さると幸いでございます」
「冷たいなぁそんなお堅い言葉」とレオ王子がわざと悲しい表情を浮かべて言った。
礼拝堂は神子が来ると言うので一時的に貸切となっていた。アレン達も一緒に入るように言われてイズミは中にはいった。ワタヌキたちのそばに神殿長がいて話をしていた。
案内の神官がやってきた。アレンとレオは彼をみて丁寧に頭を下げた。
「イズミを治療して下さり・・・」
「いえ、居合わせただけのことでございますが、お助けできてよぉございました」
と被せてきて、最後まで言わせなかったが、イズミが
「今日はよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げると
「これもなにかの縁でございます。神殿はお手伝いいたします」とイズミの手を取った。
「ありがとうございます」
「長話してしまいました。どうぞこちらです」と神官がイズミと並んで歩き出した。
「これが神託の板なのか、濁っているというのは?」とレオ王子が言うと
「板はもっと透明で字が鮮明でした」
「これ、読めるんですか?」とイズミが聞いた。
「これとおっしゃいますと?」
「この部分です」
「これは文字ですか?」
「はい、漢字と呼ばれる文字です」
「あの・・・・神子のワタヌキ様はなにか言ってませんか?」
「なんにも・・・・」と神官の答えにイズミはにっこり笑うと
「そうなんですか」と言った。
そこに取り巻きが近寄ってきて
「王子殿下、神子様が待ちくたびれておられます」と言った。
「そうか、それではイズミ。お茶会でね」と去って行った。
見送った神官がイズミに向かって宝物庫に保存してある古い神託の板を見ないかと誘った。
イズミがうなづくと神官はアレンに
「これより先はご遠慮下さい。イズミ様だけ案内できます」と言った。
ためらうアレンにイズミは
「神殿の中でなにを警戒するのですか?」と神官についていった。
途中神官は神託の板は十一枚あり、過去の神子様の肖像もそこにあると教えてくれた。
重い扉が開かれ部屋に入ると神託の板と肖像画が並んでいた。
ベッドから飛び出ると冷たい水で顔を洗ったが、自分をすっぽりと包んだ感触を消せなかった。
こんなことではダメだと無理やり意識を昨夜の自分の失敗に向けた。
正しい選択は王子を置いて逃げることだった。異世界からやって来てなにもできない自分だ。逃げるのが当たり前だ。それがこともあろうに王子に立場を考えて逃げろなどと・・・
なぜか、前世の感覚に引きづられているのだ。王宮にいるせいか?
王子の側近として権力争いの渦中で働いた。裏切りと粛清・・・・笑顔で寄ってきた友に切りつけられた・・・・倒れた自分を見下ろす友の目から涙が落ち・・・なにか囁いたが聞き取れなかった・・・・その時に死んだのだろうか?
それでは、ベッドで自分を見下ろした青い目は誰のものだろうか?あの温もりは?
前世では男に抱かれたのだろうか?日本の生活では綺麗な女の子をみるとドキドキしたが・・・・
自分は夢のなかのあの男ではない、四月一日・大輔だったイズミだ。
イズミが考えを巡らしている頃、アレンは襲撃の背景を思い描いていた。直接の襲撃犯は面倒な為始末したが、お披露目では神子のワタヌキよりイズミのほうが注目されてしまった。
イズミを最初に見つけたのはアレンだ。誰にもゆずるつもりはない。名前も与えたしと思うアレンの口元は笑みを浮かべていた。逃がすつもりはない。
イズミの気持ちはどうであれ、この世界で後ろ盾なしでやっていくのはむずかしい。
神殿に啓示を見に行きたいと言うのを聞いてアレンは気がかりが増えた。
治癒するとき、神官がイズミの頬に手を添える様が不愉快だったのだ。
考えすぎだ・・・・そう思っているが・・・・自分の気持ちをうまく調整できなかった。
イズミとジョーの二人で神殿に行く日にアレンも同行した。
神殿は人々が自由に訪れ神託の板も公開されている。三人が神殿に着いたとき
「奇遇だね」とレオから声をかけられた。
レオと神子のワタヌキと取り巻きが立っていた。
「イズミ、お前、夜会の途中で帰ったんだな」と神子のワタヌキがイズミに話しかけた。
「いろいろありましたので」とイズミが礼を取った。
「随分礼儀正しくなったね。帰りたいと無礼を抜かしていたのに」と取り巻きの一人が言うと
「そうですね、お披露目の場でも神子様を差し置いて無作法ぶりを見せてましたね」
「ほんと目に余る振る舞いでした。神子様に変わって成敗したいとさえ思いました」と口々に言い出した。
イズミは
「神子様それは申し訳ございませんでした」と頭を下げた。
「分をわきまえるのは大事だぞ」と取り巻きが言うと
「時間を無駄にしてしまった。行くぞ」とワタヌキが歩き出した。
その様子をみたジョーが
「アレン様ひどすぎます、あんなことを・・」というとレオ王子が
「あれでも神子だ」と言うとアレンと並んで歩き出した。
「一緒に行かないのですか?王子殿下。行ってしまいましたよ。」とアレンが言うと
「冷たいね。どうせ同じところに行くんだよ。イズミと喋りたいな」とイズミの横に移動してきた。
「イズミこのまえのお礼じゃ足りないよね。もっとお礼をしたいな」
「王子殿下先日は過分なお言葉を頂きました。過分なお品物もこれ以上はお控え下さると幸いでございます」
「冷たいなぁそんなお堅い言葉」とレオ王子がわざと悲しい表情を浮かべて言った。
礼拝堂は神子が来ると言うので一時的に貸切となっていた。アレン達も一緒に入るように言われてイズミは中にはいった。ワタヌキたちのそばに神殿長がいて話をしていた。
案内の神官がやってきた。アレンとレオは彼をみて丁寧に頭を下げた。
「イズミを治療して下さり・・・」
「いえ、居合わせただけのことでございますが、お助けできてよぉございました」
と被せてきて、最後まで言わせなかったが、イズミが
「今日はよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げると
「これもなにかの縁でございます。神殿はお手伝いいたします」とイズミの手を取った。
「ありがとうございます」
「長話してしまいました。どうぞこちらです」と神官がイズミと並んで歩き出した。
「これが神託の板なのか、濁っているというのは?」とレオ王子が言うと
「板はもっと透明で字が鮮明でした」
「これ、読めるんですか?」とイズミが聞いた。
「これとおっしゃいますと?」
「この部分です」
「これは文字ですか?」
「はい、漢字と呼ばれる文字です」
「あの・・・・神子のワタヌキ様はなにか言ってませんか?」
「なんにも・・・・」と神官の答えにイズミはにっこり笑うと
「そうなんですか」と言った。
そこに取り巻きが近寄ってきて
「王子殿下、神子様が待ちくたびれておられます」と言った。
「そうか、それではイズミ。お茶会でね」と去って行った。
見送った神官がイズミに向かって宝物庫に保存してある古い神託の板を見ないかと誘った。
イズミがうなづくと神官はアレンに
「これより先はご遠慮下さい。イズミ様だけ案内できます」と言った。
ためらうアレンにイズミは
「神殿の中でなにを警戒するのですか?」と神官についていった。
途中神官は神託の板は十一枚あり、過去の神子様の肖像もそこにあると教えてくれた。
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