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伯爵夫妻の話

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伯爵夫妻が部屋に入って来た。異様な雰囲気にぎょっとしたようだが、普通に制服を着ている殿下達を見て、ちょっと首をかしげ、あわてて礼を取った。

「楽にして座りなさい。ちょっと質問したくてね。こちらのアリス嬢だが、教会で鑑定はしているよね」

「はい、魔力なしです。恥ずかしい娘ですので屋敷から出さないつもりでしたが、入学案内が来ましたので」

と伯爵が答えた。

「最初の奥方が亡くなったのは、アリス嬢が二歳の時だね。今の奥方を迎えいれたのはアリス嬢が十歳の時。先代伯爵が亡くなってからだね。鑑定はその頃だと思うが・・・・・」


「はい・・・結婚で忙しくしておりましたが、大切な事ですので」と伯爵が答えた。

「ちゃんと教会の記録は残っているね。ちゃんと魔力はあるようだが、これがどうして魔力なしなのかね」と院長が静かに続けた。

「それは・・・・・」と伯爵が言いかけると

「もう、わかっているんでしょ。そうよ。アリスの名前でパールを鑑定したのよ。アリスが憎かったのよ。この娘がいるからわたしたちは田舎で隠れて暮らしていたのよ。先代は汚らわしいものを見るようにわたしを見たわ。だから死ぬのをずっと待ってた。そしてパールを正当な伯爵家令嬢にしたのよ」

「おまえ・・・・それを・・・・」と伯爵が止めようとしたが、止まらなかった。

「わかりますわ。先妻の娘にお金を使いたくなくて魔力なし呼ばわりして、食事を与えず、服も与えず、靴も与えなかったのですね。わかります。それに顔もみたくないですよね。わたしもあなた方の顔を見たくないです。

ですから、少しお金を下さい。そして籍を抜いて下さい。わたしは平民として生きていきます。学校もやめます。

競技会に出てわかりました。ここで学ぶことはありません。時間がもったいない。

とりあえず、靴を買いたいのでお金を下さい。靴ってどこで買うんですか?」とアリスが言うと


「いや、アリス嬢。少し待ってくれ・・・・靴は確かに不便だな」とハリー(アレク)が言うと、ジェフが合図を出した。すると使いの者が出て行った。

「食事を与えずと言うのは?」とジェフが聞くと

「その通りです。わたしは食卓に着くのを許されていませんでした。最近、これではいけないと思いまして、使用人に注意して部屋にパンとスープとなにかと持ってこさせました。同じように学院の食堂にも行くようにしました。ほんと、嫌がらせをされて食堂も行けなかった時は、おなかが空きました。先ず、お昼を食べられるようになると気力が沸いて使用人を叱る事が出来るようになりました。

この制服のボタンはパールとナタリーをその友人がやってきては引きちぎるから困りました。自分でなんとか付けるけど下手ですね」

「まぁ付いているだけ、ましだね」とジェフが笑った。

「伯爵夫妻。食事をとらないと人間がどうなるかご存知か?」とハリー(アレク)が言うと

「・・・・・はい・・・・その・・・・侍女がさぼって食事を持っていかなかったから・・・・」と伯爵が答えると

「飢え死にするんだよ」とハリーが言った。


その時、ドアが開いて一人入って来た。

「アリス嬢、よければこれを」と靴を渡した。

アリスは別室に行くと、靴を履き替えた。

「ありがとうございます。これで宙に浮かなくてもよくなりました」とお礼を言い、

「えーーとおいくらでしょうか?お支払いします。競技会の掛金が入るので大丈夫です」

「なるほど」とハリー(アレク)は笑うと院長に向かって、

「精算は早めに」と言った。そしてアリスを見ると

「これは贈り物だ」と言うと少し顔を赤くした。


「わたしはもう失礼します。掛金は明日頂きます」と言うとアリスは普通に歩いて出て行った。


ジェフの合図で

「選手たちも解散して下さい」と院長が言うと皆が出て行った。

「伯爵家には調査がはいります。当然処分が」と言いかけた所で、夫人が

「どうしてよ・・・どうしてよ。悪いのはあの女・・・」と言い出したが、伯爵が口を押さえ、そのまま出て行った。

「学院にも調査が入りますが、早めに終わらせます」とジェフが言うと、関係者は小さくうなづいた。



皆が出て行って静かになった院長室では、院長が

「はぁーーー」とため息をついていた。






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