今世は好きにできるんだ

朝山みどり

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競技会当日

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さて、今日は本戦。試合用の服を持っていないわたしは普段の制服と壊れかけた靴で控え室に入らずに競技場の隅で俯いていた。

やがて、選手が入場して、開会式が始まった。選手にはパールとナタリー。食堂で足を出して来た男もいる。

楽しみになって来た。

もしかしてと、観客席を確認したが、王太子の御一行はいない。やっかいものはいないということで、楽しくなって来た。

わたしは一回戦に出るので、四回戦える。まぁわたしとの対戦は儲け物だと思われているだろうけど・・・・

この競技会で目立って、家での扱いを騒ぎ立てて、家に迷惑をかけるつもりだから、一回戦から派手に力を見せてやるのだ。



「はじめ」と審判の声がした。

相手はわたしを舐めている。自前の杖を得意げに、揺らしながら会場の声援に手を振っていた。わたしは練習用の杖を両手に一本ずつ持ってどっちの手を使おうかしらと振って見てる。

指差して笑うやつがいるが、楽しませてやるよ。


右手をわかりやすく振って水の塊を出して、相手の靴を濡らした。

わたしが水を出した事に驚いたものの、単純に水が少し出ただけだと、あなどったままで観客も

「無能の出す魔法は水ちょろだ」「ホントだ。ちょろだ」「無能だね」

わたしは右手を勢いよく上下に振った。なにも出ない。それであせった振りして左手を激しく振った。

観客は大笑いだ。相手も笑っている。そこでおなじ大きさの水の塊を頭の上に出した。

塊は頭の上で、じっとしている。観客はそれが見えるが、相手は見えない。

観客は大笑いしながら、水の塊を指差し、また笑う。塊は動かない。相手はまだ気づかない。

受けたと感じたので、頭の後ろに水の塊を作った。塊を軽く頭に触れさせるとあれ?と後ろを振り向く。塊は一緒に動くから、本人には見えない。

だんだん観客が、笑わなくなった。相手は会場の雰囲気が変わった事に気づいて、怪訝な顔をして後ろを見るがなにもない。

そしてふと気づいたようにわたしを攻撃しようと、杖をかまえた。

詠唱の途中で、あたまの上の水の塊を落とした。

「ブフ・・・」と言う変な音をだして詠唱は中断された。相手は髪の毛がら水をポタポタ滴らせて呆然としている。

わたしは左手に持った杖を無駄に光らせながら、杖の先でくるくると輪を描いた。杖の先の動きは見事な残像を残している。

わたしは、杖をくるくるしながら、ゆっくり相手に近づいて行った。相手は杖の先をじっと見て動かない。トンボのようだ。

わたしはくるくるする手を止めることなく、右手で杖を持っている右手を引っぱたいた。

うっとうめいて杖を落として、叩かれた手の甲をさすっている。

わたしはその杖を拾うと、それで相手の頭を叩いた。

相手は頭を両手でかばいながら、うずくまった。わたしはその両手や、背中を思い切り叩いた。

審判がこちらにやって来た。それを見たわたしは、叩くのやめて黙って相手の背中を見ていた。

相手は、まだがんばって

「殺してやる。馬鹿にするな・・・殺してやる・・・」と熱に浮かされたように呟いていた。審判は戦えないと判断して降伏をすすめた。


しかし観客は

「なにやってるんだ。無能に叩かれるとか間抜けだろう。さっさと決着をつけろよ」

「無能で遊ぶなーーーそろそろ本気を出せーーー」と騒いでいる。


しかし審判は、わたしの勝ちを宣言した。


すると観客は残酷だった。対戦相手を嘲笑ったのだ。

「無能にやられるとは情けない」「無能はおまえだ」「魔力なしに負けるやつがいるんだ」

「恥ずかしいやつだーーーー」「そんなのに負けるとはーーー」「自慢の杖はどうした」


審判と助手が出てくると、対戦相手を引きずって退場させた。

わたしはそいつの背中に杖を投げつけてやった。




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