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王族の視察

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今日の朝はリラが部屋にやって来た。わたしは声がかけられると起き上がった。それをみてリラはさっさと部屋を出て行った。

制服のボタンはいろいろな色の糸で、すごくへたくそに縫い付けられている。アリス情報によると、たまにアリスを羽交い締めしてわざとボタンを引きちぎる子たちがいたようだ。顔ははっきり認識できるけど、名前まではわからない。いつも下向いて陰気臭い女を虐めたくなる気持ちは少しわかる。

人を虐めるっていうのは嫌いじゃない。っていうか好きだ。

わたしは公爵令嬢だったので、無礼は護衛や侍女が処理していたが、本当は自分の手でやり返したかった。

まぁいい、そろそろボタンを狙う連中が出るだろう。仕返しをしてやる。残念ながら今回は匿名でやるが、そのうちはっきりわたし、アリスからだとわかる形で思い知らせてやる。

いつもの朝のようにパンをナプキンに包み、ミルクを飲むと馬車に乗り込んだ。

そして今日も途中で馬車を降りると教室ではなく図書館に行った。

歴史書で古い時代の地図を見たり、そうだと思いついて星座をみたりしたが、見覚えのあるものはなかった。

だけど、いろいろ見ているうちに藤の花で有名な庭、薔薇で有名な庭があることがわかった。ただ、それらはすべて当然ながら、個人の庭で見学出来るものではないし、そこはこの国でもなかった。

藤の庭があるのは、大陸の反対側の国で、言葉が違う。探すとそこの言葉で書かれた本があったので、読んでみた。

・・・・・普通に読めた。これはアリス情報ではなく、ルイーズの知識・・・・ルイーズ情報だ。

本を前に文字を追いながら、考えた。

わたしのなかで二人の情報は違和感なく混じっている。ちゃんと引き出せる。人格は100%ルイーズだ。

この性格の悪さがあって、苛められてるなんてありえない。

気がついたら、そろそろお昼だ。小鳥から、伝達事項を聞かなくては・・・・

外に出ると、図書館のそばのベンチに座った。そこに小鳥はやって来た。

いきなり、今日???午後に・・・・なるほど・・・・

午前中の授業の終わりを告げる鐘の音が響いたとき、わたしはすでに食堂で、お盆を受け取っていた。

ゆっくり食事を済ませると、教室に入った。

わたしの机はきれいになっていた。そりゃ王族が視察に来るのに、『無能』『来るな』『役立たず』なんて書いてある机を置いておけない。椅子も四本足の椅子になっていた。

教室にいると他のクラスの女子が四人入って来た。一人はパールだ。アリス気づいてなかったのか・・・・無能だ。わたしは気づかない振りをして、それぞれのボタン位置を把握していった。

いきなり羽交い締めされたが、いつものようにちょっともがいて見せた。いつものようにボタンを二個引きちぎると

「無能の制服のデザインはこうよ。ね?みんなもそう思うでしょ?」とパールの友人のナタリーが言うと

このクラスにいる全員が、笑って

「「「「そうだな」」」」「「「「「そうそう」」」」」「「そろそろ学則が変わるのでは」」と騒ぎ立てた。

アリスは、泣くんだよね。うまく泣けるかな・・・・涙が出ない・・・・仕方ないから肩を震わせてしゃくり上げてみた。

こりゃ練習して置かなくては・・・・・わたしは指先から水を出すとそれを顔に押し当てた。

こりゃいいわ。わたしはぐずぐずいいながら水を出し続けた。

「本当の事を言われたからって泣く事ないのに」とパールが言うと四人が出て行った。


わたしは立ち上がると風で水を飛ばした。床からボタンを回収してポケットに入れた。


「「「惨めよね、あんな優秀な妹がいて無能なんて」」」「「ほんと、確かに妹は意地が悪いけど、あの陰気な顔を見ると腹立つのよね」」

たしかにそうだね。とちょっと思った。

授業が始まったが、教師も生徒も緊張している。やがて

「失礼する」と簡単な知らせで王太子一行が入って来た。反射的に立ち上がって、カテーシーをする所だった・・・・・あぶない・・・・

まわりは一行を見て固まっている。教師があわてて

「礼」と言った。なにをうろたえるんだろう、事前に連絡来てたじゃない・・・・・


まわりが礼をとりはじめたのを見て、わたしもカテーシーをした。近くの男のボタンを弾けさせてやった。

ボタンはころころ転がって一行の足元で止まった。

何人かは笑いそうになってこらえている。男は動揺したのか、ただでさえ安定してなかったのに姿勢が崩れている。

女子生徒のカテーシーは、もともと安定してないしこの出来事で時間が長くなって、ふらふらしはじめた。

誰か倒れると面白いが・・・・

「楽に」と声がした。すると一斉に礼を解いた。うそだろう・・・・この国の作法なのか?


「殿下は楽にと仰せだ」と声がした。わたしは体を起こした。


しまった。浮いた。無能らしくない。

わたしはアリスらしく下を向いてじっとした。

「そのように緊張する事はない。近いうちに隣国の王子が留学して来る。それを機にこの国の王族も学院で学んでみる事になり、ちょっと見学に来た。もともとこの学院は身分に関係なく、学ぶ場だと聞いている。

君たちの学友となる日を楽しみにしている。貴重な授業時間を取って申し訳ない」


そういうと一行は部屋を出て行った。







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